連載
#25 #ふしぎなたてもの
超巨大「スモウレスラー」壁画、街中に突然出現 〝幻〟になった理由

アートの街に「スモウレスラー」

しかし、そのときは違和感を覚えつつも、深掘りすることはなく、見過ごしてしまっていました。
近年、天王洲アイルは「アートの街」として話題になっています。そんなニュースを耳に挟んだとき、ふと「あの『スモウレスラー』は一体、何だったのだろう」と、あらためて疑問が浮かびました。
時を経ること約7年、当時、この壁画が描かれたアートフェスティバルをプロデュースした運営会社代表を取材しました。
それが株式会社ジャムザライフ代表の小林拓磨さん。小林さんによれば、この壁画はミューラル(壁画)アートフェスティバル『POW! WOW! JAPAN 2015』のために描かれたもの。
同フェスは2015年10月17日から25日の期間、東横イン立体駐車場も面する天王洲アイルのボンドストリートにて開催されました。このボンドストリートでは、現在に至るまで多様なアートの催しが行われ、「アートの街」のイメージに貢献しています。
「POW! WOW!(パウワウ)」はハワイ発のアートフェスで、2011年にスタート。世界中から集められた著名アーティストが巨大壁画を1週間かけて制作するというもの。2015年に日本で初開催されました。日本でもその後、運営会社や場所を変えて開催されています。
そして、この壁画の作家はドイツ・フランクフルトを拠点に活動するグラフィティ・クルーMACLAIMに所属するCASEさん。もともとは実在する力士をモチーフにする予定だったそうですが、作家の意向により、架空の「スモウレスラー」になったのだそう。
こちらの壁画は2016年頭まで残されましたが、その後、撤去。現在、東横インの立体駐車場には、2019年に『TENNOZ ART FESTIVAL 2019』のために制作された別の壁画が描かれています。
当時のSNSの投稿を探すと、出くわした人からの「あんまり話題になってなくてもったいない」といった内容が見つかる一方、日本発のニュースとして海外では大きく注目を浴びていたことがうかがえました。
小林さんは「記憶に残るアートになったことは関係者として願ったり叶ったりです」とした上で、こう話しました。
「近年は国内でもミューラルが流行していますが、この作品はその先駆けになったものだと感じます。作家が描きたいものを最後まで描ききったという意味で、アート本来の面白さが伝わればうれしいです」
【連載】#ふしぎなたてもの
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