一等地にたたずむ謎の建物

そんな有明ガーデン、通りを挟んで向かい側をよく見ると、何やら小綺麗な建物がたたずんでいることに気づきます。白い壁に、ツタが這っていておしゃれ。
しかし、看板などはなく、何のためのものか、パッと見では判然としません。とすると倉庫かなとも思われますが、「こんな一等地に?」という疑問も生まれます。これは一体、どんな建物なのでしょうか。
“DC”=データセンター
この建物「TY11」を運営するエクイニクス社に話を聞きました。全世界で32カ国71都市に245拠点以上のDCを運用する同社。その名前が示すように、TY11はエクイニクス社にとって東京都内11カ所目のDCで、最大規模のもの。
2019年7月の建設時は950ラック、約3700平方メートルのスペースを確保。現在も増設中で、23年の最終フェーズ完了時には3700ラック以上、1万3600平方メートルになる予定ということです。
同社は日本では2002年に平和島に最初のDCを建設。以降も継続的に都心に投資しています。
同社によれば、東京は「ニューヨークやロンドンなどの都市を上回る世界最大のリテール向けコロケーション市場」。
コロケーションとは「DC内に顧客が所有するサーバーやネットワーク機器などを設置するスペースを借りることのできるサービス」。 設備の整ったDC内に自社サーバーを設置できるほか、自社内にサーバーを設置するスペースを確保する必要がないことがメリットになります。
それにしてもなぜ、わざわざ土地の値段が高い東京に建設するのでしょうか。同社によれば、東京にDCを持つことにより、首都圏の企業は遅延の少なく安定した接続ができると言います。
また、TY11ではAmazon Web Services(AWS)やGoogle Cloud Platform(GCP)、IBM Cloud、Microsoft Azure、Teradataを含む、国内295以上のクラウドおよびITサービスプロバイダーと安全に接続ができるとのこと。
大手プラットフォーム自身がエクイニクスのDCを利用しているため、エクイニクスのDC内部で直接、接続できることで「安全で早い」という事情もあります。
こうした条件をメリットとして、他の企業も含め、都内にDCの建設が続いてきました。
ちなみに、壁の植物は「使用するエネルギーをクリーンで再生可能なものとするという長期的目標を持っている」ことを表現するための意匠。
他にも、エネルギー効率に優れた照明システムのほか、動的な気流管理により冷却能力を向上させ消費電力を削減する空調最適化制御システムを採用しているということでした。
高まるDC需要にどう応えるか
現在、アジア太平洋地域では、DCの拠点として中国が存在感を示しています。日本国内に拠点があることは重要ですが、その場合、別の問題も。それが「首都直下地震」など災害のリスクです。
今のところ、都市部に集中するDC。このため、政府はDCを地方に作ることを支援し、東京、大阪への一極集中を避けるように動いています。
経済産業省と総務省は、21年10月にDCの地方分散について検討する有識者会議を設置。22年1月、議論の中間的な取りまとめを行いました。
一方、都市部のDCも、対策を進めています。TY11では、非常用自家発電装置として、ディーゼルエンジンを使用。
また、TY11が設置されたエリアは、災害リスクが低い「ハザードフリー」地区に位置しており、東京都江東区が指定する緊急避難地域でもあります。
私たちの生活に必要不可欠なDC。都市部、地方それぞれのメリットを活かし、安全に配慮しつつ、さらなる発展を――街中の「謎の建物」は、そんな国勢の象徴でもあるのです。
【連載】#ふしぎなたてもの
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