東京湾を横断する東京湾アクアライン。「海ほたる」などの施設でも有名なこの高速道路には、普段は見ることのできない“もう一つの道路”があります。どこに、どのように、なぜ存在するのか、管理する東日本高速道路(NEXCO東日本)を取材しました。(withnews編集部・朽木誠一郎)
神奈川県川崎市と千葉県木更津市をつなぎ、東京湾を横断する高速道路である東京湾アクアライン。開通は1997年12月、道路延長は約15kmで、調査に約20年、建設に約10年がかかった巨大なインフラです。
海上の休憩施設「海ほたる」を挟み、川崎側約10kmが海底トンネル、木更津側約5kmが橋梁という構成。海底トンネルの中央部にはトンネル換気施設の風の塔が、川崎側のトンネル入口にはピラミッド型の浮島換気所があります。
千葉県房総エリアと神奈川県京浜エリアの移動は、開通前は東京湾に沿って半周しなければいけませんでした。それが、東京湾アクアラインによって、大幅に距離と時間が短縮できることに。
今ではなくてはならないインフラですが、建設当時には、海底の地盤の問題や、風、潮、地震などさまざまな自然条件、東京湾内の船舶の運航、環境保全など多くの困難があったということです。
そんな東京湾アクアラインのトンネルの下には、実は“隠し通路”と言われるもう一つの道路があります。
それが海底トンネルの一般用道路の下を走る非常用道路。東日本高速道路(NEXCO東日本)によれば、高さ2.7m、幅3.7~4.8m。直径約14mのアクアトンネル内の下の部分を活用した構造になっています。
走るのは、トンネル内で事故が起きた際などに必要になる、車高の低い特注の消防車や救急車。また、大事故の際はドライバーらの避難場所にもなります。実は、海底トンネルの一般用道路の側面には300mごとに「滑り台」があり、そこから非常用道路に下りられるようになっているのです。
なお、車両火災の時などに煙が非常用道路内に入り込まないよう、空調機は常に作動。気圧も一般用道路より0.1%高くされているということです。
同社によれば、開通から20年以上、非常用道路を消防車や救急車が走ったり、たくさんのドライバーが避難したりする大きな事故はありませんでしたが、2021年7月に発生した事故と車両火災の際に、初めて使用され、約30人が避難したということです。
世界最大規模の海洋土木工事によって誕生した巨大なインフラは、こうした「隠れた備え」によって安全を担保しているのです。