意識したのは「ニューヨーク」

夜になると屋上の頂部がライトアップされ、ゴージャスな装飾品のようにも見えるこの建物。お台場を訪れた際に、見かけたことのある人も多いのではないでしょうか。実はこれは2006年竣工の「ザ・タワーズ台場」というタワーマンションで、屋上の頂部は「お台場の“ティアラ”」として一部に知られています。

お台場は現在の観光地としての賑わいに至るまで、紆余曲折を経験した土地です。バブル期に開発計画が進んだものの、バブル崩壊と共に計画の修正を迫られました。
1996年に同エリアで開催予定だった世界都市博覧会のタイミングで再起を図るも、青島幸男さんが都知事に就任したことにより、都市博自体が直前に中止に。
一方で、96年に東京国際展示場(東京ビッグサイト)が開業、97年にフジテレビ本社が移転。99年にパレットタウンが開業するなど、次第に都心の付近にある観光地として注目されるようになりました。
2000年代にかけてりんかい線やゆりかもめの路線が延伸したことで、交通の便が良くなり、その人気を増していったという歴史があります。
このような街にあるタワーマンションとして、ザ・タワーズ台場は「既存の街のマンションとは根本的に異なるイメージが必要」と考えられたとのこと。「海の中に浮かぶアイランド」という共通点から、「ニューヨーク」というキーワードが出たそうです。
モダンなだけでなく、アールデコなどクラシック様式を取り入れる中で、ツインタワーのそれぞれの屋上の頂部とエントランスホールの3カ所に“ティアラ”をイメージしたデザインを施した、ということでした。
また、当時の東京のビルはほとんどの場合、トップがスクエア型で「つまらない」という思いがあったそうで、そのことも“ティアラ”のデザインにつながりました。周囲にモノトーンの建物が多かったことから、その中で映えるようにと建物はワインカラーを基調としています。
販売当時の資料にも、お台場のランドマークになることを強く意識しているという記述があり、その狙いは達成されたと言えます。
担当者は「見た人に印象を強く残すデザインの方が、そうでないものより、結果的に象徴性を持ちやすいのでは」と振り返ります。
「当時はフジテレビ本社の“球体”のデザインなど、新しいことに挑戦しやすい雰囲気がありました。竣工から約15年が経った今も親しんでいただけているとしたら、こうしたデザインにしてよかったな、と思います」

「景観というのは、それぞれの建物が調和の範囲を大きく逸脱しないようにしながら、個性を発揮することにより作られるものです。この先、新しい建物が台場に加わることで生まれる新しい景観を、楽しんでいただくのがいいのではないでしょうか」
【連載】#ふしぎなたてもの
何の気なしに通り過ぎてしまう風景の中にある #ふしぎなたてもの 。フカボリしてみると、そこには好奇心をくすぐる由縁が隠れていることも。よく見ると「これなんだ?」と感じる建物たちを紹介します。