MENU CLOSE

話題

「Z世代といえば…」それって思い込み?大きく変化したのは親子関係

ついつい「今どきの若者は…」と言うことがあるかもしれませんが、それって本当に若者の傾向なのでしょうか?データを分析してみると「親子関係が変化している」ことが分かってきたそうです
ついつい「今どきの若者は…」と言うことがあるかもしれませんが、それって本当に若者の傾向なのでしょうか?データを分析してみると「親子関係が変化している」ことが分かってきたそうです 出典: arc image gallery/stock.adbe.com

Z世代といえば、こんな傾向がある――。わたしたちがそう思っているのは、実は思い込みかもしれません。Z世代と、その親世代を調査することで、いまの若者の変化を分析したのは、博報堂生活総合研究所の若者研究チームです。チームを統括している主席研究員の酒井崇匡さんに話を聞きました。(朝日新聞withnews編集部・水野梓)

【PR】幅広い「見えない」に対応 日常生活の不便を減らすために

人間関係の変化 親と同性の友人

――今回、Z世代を深掘りして分析したのはなぜでしょうか。

Z世代のはやっているアイテムやスポットなどを通して若者の生態を考察することも大事ですが、より根本的な価値観の構造を理解しないと、Z世代論にいたずらに振り回されてしまいます。

そこで私たちは、基盤となる「OS」のような「基本的な価値観や思考の枠組み」を把握すれば、トレンドの移り変わりに左右されない深い理解につながると考えました。

なかでも近年、若者の幸福度が高まっていることが指摘されており、私たちの調査でもそのような結果が出ています。

内閣府の報告では幸福度を決める要因として「経済社会状況」「心身の健康」「人間関係」が挙げられているのですが、この中で大きく変わっていたのが「人間関係」だったんです。

特に、親子あるいは同性の友人との緊密さが大幅に上昇していました。今回の調査では、そこを深掘りして調べました。

――それをまとめたのが、このほど出版された『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』(光文社新書)ですね。タイトルに「近すぎる関係」とありますが、親子が送り合うメッセージも掲載されていて、まさに距離の近さに驚きました。

データ分析だけでなく、Z家族親子へのインタビューや、母子・父子間のチャットアプリのやりとり分析といった定性調査も行いました。

私は43歳ですが、かつての自分と親の関係とは全く違っていて、まさに「隔世の感」をおぼえました。
 

コアZ世代と団塊ジュニア世代

――今回の調査方法を改めて教えてください。

2024年に19~22歳の未婚男女を対象とした「若者調査」を行いましたが、実は生活総研では30年前の1994年にも当時の19~22歳に「若者調査」を行っています。

2024年の対象者はZ世代のなかでもちょうど真ん中(コア)の年齢層にあたるため「コアZ世代」と呼んでいます。1994年の対象者は「団塊ジュニア世代」にあたります。このふたつの世代は、実は親子関係にあたります。

さらに2024年の調査では、30年前に若者だった世代にあたる現49~52歳の人にも同じ調査に回答してもらいました。これで、若者時代の意識と、今の意識も検証できるようになります。

たとえば、「若者ってファッションに興味があるよね」と言われがちですよね。でもこれは親世代が若者だった頃もそうなんです。

――たしかにそうですね。ついつい「今どきの若者は……」と言ってしまうことがありますが、実は印象や思い込みなのかもしれません。

ほかにも「今の若者は空気を読みすぎる」と言われることもあります。たしかにコアZ世代で「相手と意見が違っても反論しない方だ」「合わない人と一緒にいることを避ける」「目立つ格好をすることは恥ずかしい」に「はい」と答えた割合は30年前の若者に比べて大きく増えています。

しかしここに、現在の49~52歳の回答を重ねてみると、現在の若者とほとんど差がないのです。つまり若者世代も親世代も「みんなで空気を読んでいる」。時代の傾向なんです。
 

文化・価値観のギャップがなくなる「消齢化」

――その中でも「幸福度」については30年前とは大きく違っていたんですね。

若者の幸福度を尋ねた質問では、「非常に幸せ」という回答が30年前の19.7%から、コアZ世代は33.5%に増えました。

「生活に十分に満足している」という生活満足度は、9.4%から30.0%と大幅に高くなっています。

――その理由はどんなところにあるのでしょうか。

幸福感を構成する重要な要素「人間関係」の中でも、親子の関係が非常に緊密になっていることが分かりました。

データとしては、例えば親に殴られた経験のある若者が大きく減り、反抗期も減っている、という傾向が見えてきました。

かつては子どもと親世代の間には、はっきりとしたライフスタイルや価値観の断絶がありましたが、それがなくなってきているので、そこまで頭ごなしに親から押さえつけられない。子ども側としても反抗する要因もない……ということですね。

――こういった変化を「消齢化」と言うそうですね。改めて教えて下さい。

ある時代までは、年代や年齢によって分断されていた価値観や嗜好のギャップが、目に見えて縮まっていることを<年「齢」が「消」える>「消齢化」と呼んでいます。

生活総研が1992年から実施している「生活定点」の調査結果によると、今65~73歳ぐらいの「JJ・ポパイ世代」以降から、旧来の価値観の変容が起こり、みんなで自由で個人主義的な新しい時代の「同じ物語」を共有しているといえます。

――世代間の文化や価値観のギャップが少なくなっているということですね。たしかに私の30歳前後の友人も、カラオケで山口百恵さんや中森明菜さんの曲を歌っていました。お母さんが歌っていていいなと思ったそうです。

カラオケは典型的な例ですね。通信カラオケシステム「JOYSOUND」を運営するエクシングさんとの共同研究で、よく歌われる曲200位ぐらいを調査すると、20年前ぐらいはどの年代でもランクインするのが「残酷な天使のテーゼ」など数曲しかなかったんです。でも今は、ランクインする曲の数が5倍ぐらいに増えています。
出典: show999/stock.adbe.com
音楽のサブスクで原曲を聞いたり、今のアーティストがカバーしていたり、若者にとっては、1カ月前にリリースされた曲か、30年前にリリースされた曲か、という「いつ出た曲なのか」というのはあまり価値を持たないんです。

――なるほど。逆に親世代が子どもから最新の曲を教えてもらって、聞いたり歌ったりするケースもありそうです。

文化的な側面だけでなく、生活的な視点でも、たとえば「今をエンジョイするのか・備えるのか」を尋ねると、今はどの年代でも回答が50:50ぐらいに分かれます。

中高年の方が老後に備える……と答えるのかと想像しますが、そうではなくて、年代を分けての傾向が見えづらくなっています。
――調査をするなかで、酒井さんがいちばん驚いたのはどんなデータでしたか?

定量的なデータでは特に母子の緊密さが非常に上がっているというのが驚きのポイントでした。
・Z世代の6割は、親と共通の趣味がある
・Z世代男子の3割、女子の5割が、親と洋服などファッションアイテムを共有している
・Z世代が本当の自分を一番見せている・価値観に一番影響を受けている相手は、親友ではなく母親
・Z世代が「生きがいや充実感を感じるとき」は、「親しい異性といるとき」よりも「家族といるとき」
私たちの仮説は、「恋愛離れ」があるとしたら、そのぶん同性の友達の存在感が上がっているのではないか――というものでしたが、こういったデータが出てきて、同性の友達以上に母のポジションが高まっていることが分かりました。

親子の価値観がそろってきて、趣味をはじめとして話が合うようになって、対立する要因が少なくなってきたことが大きいのでしょう。

リビング学習の増加といわれますが、家の中でも一緒に過ごす時間が増えているというデータが出ています。

――本のなかでは、親子のリアルなチャットアプリのやりとりが紹介されています。
ある母親と息子のチャットアプリのやりとりの一例=『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』より
ある母親と息子のチャットアプリのやりとりの一例=『Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係』より
――お母さんが「生理痛でだるい」と伝えると息子が「片づけ僕が全部やる」と返したり、免許合宿に行った息子が母親のご飯が恋しいと「ままらぶ」と送ったり……。とても驚きました。

本で紹介したチャットアプリのやりとりには、読んだ親御さんから「うちだけが過保護なのかもしれないと思っていたけれど、うちだけじゃないんだ」「ほかの家庭もそうなんだと安心した」という反応も寄せられました。

――娘や息子が、積極的にお母さんに弱音を吐いたり、相談したりしているようすも伝わってきました。withnewsでは企業が内定時に親の確認をとる「オヤカク」といった就活の変化も報じてきましたが、それが裏付けられるような内容でした。

【関連記事】「退職金がない」親からストップ…就活で「オヤカク」する企業の狙い
https://withnews.jp/article/f0240928001qq000000000000000W02q10301qq000027371A

私たちは「親がメンターペアレンツ化している」と分析しています。

現在の中高年の男性は弱みを出しにくいとも言われていますよね。そう考えると、若者が男性でも母や父に気軽に弱音を吐いたり、相談できるようになったというのは、ポジティブな変化として捉えられるとも思います。

――大人になってからの「プレゼント」にも、親子の緊密さが現れているそうですね。

Z世代男子の3人中2人、女子の8割は、20歳前後になっても親から誕生日プレゼントをもらっていました。

30年前の調査では、男性が20歳前後で誕生日プレゼントをもらう相手として一番多かったのは恋人だったのですが、ここが減って、親からのプレゼントが大きく増えています。

――一方で、父親の存在は母親に比べると影が薄いようですね。

その点は育児中の自分としても心配になる結果でしたが、今回調査したコアZ世代の若者は2010年ぐらいに幼少期を過ごしています。「イクメン」という言葉が生まれて父親の育児参加が推進され始めたのがちょうどその頃です。

父親が存在感を示すようになるのにはまだ少し早かったようですが、10年後に調査すれば、状況は変わってきているかもしれません。
 
Z家族 データが示す「若者と親」の近すぎる関係(光文社新書)

関連記事

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます