開局30周年を迎えたTOKYO MX(東京メトロポリタンテレビジョン株式会社)が今年初めて、お笑い賞レース『MXグランプリ~異端芸人決定戦~』を企画した。出場者は〝テレビ慣れしていない〟地下芸人たちだ。応募は「他薦のみ」など、ほかの賞レースとは異なるユニークな演出も光る。番組のプロデューサーたちに大会の見どころを語ってもらった。(ライター・鈴木旭)
<『MXグランプリ~異端芸人決定戦~』>
TOKYO MXの開局30周年を記念し、2025年4月から7月まで月1回予選が放送されるお笑いコンテスト。出場資格は「先輩芸人または事務所マネージャーなどに推薦された芸人」で、月ごとに勝者を選出し、9月の決勝大会で異端芸人ナンバーワンを決定する。ケンドーコバヤシさんをMCに据え、審査員4名が出場芸人のネタを採点(各持ち点100点の400点満点)することに加えて、フリータイムで人間力も評価する。
――出場資格を「先輩芸人または事務所マネージャーなどに推薦された芸人」としたのはなぜでしょうか?
番組総合プロデューサー・山本雅士さん(以下、山本):基本的に一般的な大会は、自分から「出たい」と言ってエントリーしますよね。でも、MXにはお笑いの賞レース番組におけるノウハウがないわけですよ。
関係者に相談したら、「自薦で募集を出したら、何千人ときてさばき切れなくなる」と言われたので、他薦にすればある程度は絞り込まれるんじゃないかと思って。それで、お笑い芸人を抱えている各事務所に企画を説明して、最初は「エントリーをお願いします!」って全部投げたんです。
他薦なら事務所の方から「この人はテレビに出ても大丈夫」という安心材料をいただくことにもなりますし、その芸人のアピールポイントを出してもらえるので、こちら側の手間も省ける。もうひとつ、先輩芸人の推薦であれば紹介VTRを流すときに「あの芸人が推す」みたいなフックになるなと思ったんです。
けど、蓋を開けてみたら、これまで基本的には自分で応募できない賞レース番組なんてなかったという(笑)。まぁそれも面白いじゃんとなって始まったんですよね。
――普段テレビでは見かけないかなりハードコアな芸人が登場しますが、どんな流れで出場者を選定していったんですか?
山本:まずは応募フォームからの応募を含めて、推薦された芸人のネタ動画を見るなどして選びました。ざっくりと絞られたリストを作家を含めたスタッフで確認して、そこで出た声を参考にしつつ、最終的に僕が実際に見てみたい芸人を決めてオーディションを開催する感じですね。
200組以上のエントリーがあって、実際に毎月の「ネタ見せ」までくる芸人が二十数組。その中から、月1回の収録に臨む出場芸人5組を選んでいます。具体的には、事前にオーディションシートにネタとアピールポイントを書いてもらって。当日、ネタを披露してもらってから、それぞれの特技、エピソードトーク、ギャグなどを見る流れです。
うちって制作会社の担当者、局員、作家と8人ぐらいで見ているから、ほかのオーディションより審査員が多いんですよ。大抵の芸人たちが「『M-1グランプリ』より多い」とビビっています(笑)。こちらとしては、いろんな角度からフリートークを引き出そうってことでやっているんですけどね。
――ちなみに選ばれるポイントはどこにあるのでしょうか?
山本:「持ってる」芸人は、やっぱり光っていますよね。4月ラウンド勝者の池城どんぐしさん、5月ラウンド勝者の橋山メイデンさんは一発で決まりました。毎回、出場芸人枠5組のうち3組はほぼ満票で、残り2組で割れることが多いんです。
最後まで割れたら僕が選ぶんですけど、そのとき大事にしているのは「華があるかどうか」ですね。「MXが一番に選んだ芸人」となった場合に、いろんな意味で華がある方がいいですから。
――ケンドーコバヤシさんをMCに据えたのは、MXで番組を持っていることも大きかったのですか?
山本:ケンコバさんが出演した番組は反響が大きいです。MCのケンコバさんを中心に、ハリウッドザコシショウさんや野生爆弾のくっきー!さんといったゲスト審査員を固めていきました。
この大会には、テレビ慣れしていない、イジり方がわからないような芸人が出てきます。そもそも視聴者からすれば、「誰?」という芸人のネタを見るのは少しハードルが高い。だから、もともと「審査員は豪華にしよう」と考えていました。ワイプ(出演者の表情を映し出す小窓)を豪華にしてトントンにしようみたいな(笑)。
――審査員4名が出場芸人のネタを採点(各持ち点100点の400点満点)することに加えて、フリータイム(平場)で人間力も評価するという審査を設けた理由は?
プロデューサーの北澤史隆さん(以下、北澤):そもそも「点数をつけるべきかどうか」といった話もあったのですが、“グランプリ”と謳っているし、せっかくこれだけの審査員を揃えているわけだから「絶対に点数をつけるシーンはあったほうがいい」となりました。点数を出すことで、“芸人愛”のようなものが出るだろうというところも含めて。
山本:ただ、ネタの審査だけなら、ほかの賞レースと同じじゃないですか。ネタだけではない面白さを引き出すことによって、出場芸人をプッシュしようというのがコンセプトでもありました。
でも、「だいたいネタを見ればわかるよね」という声もあって。実際にこれまでの収録ではネタの評価でほぼ優勝しているんですけど、ほかの賞レースとの差別化を含めてフリータイムもネタと同じぐらい尺を割くようにしていますね。
――審査員が極端な採点をすることが多いのは、意図的なものなのですか?
山本:例えば、とろサーモンの久保田(かずのぶ)さんに「5点」をつけられて、「おいー!」と言い訳するのを含めて、出場者の人間性が見られる感じにはしています。どんなにスベっても、得点を含めた審査で救われる構造にしたかったので。
いつも収録前に審査員の方々に伝えているのは、「審査員ですが、出場芸人を面白くする役目です」ということです。あえて出場者に毒を吐いて個性を引き出すとか、ネタに絡んでいって笑いどころを作るとか。だから、実はあの審査タイムは「ネタがスベったときに、審査員がどうフォローできるか」の時間でもあるんですよ。
そう考えると、出場者より審査員のほうが大変かもしれない。毎回審査員の方に「どっちが出場者かわからなかった」って言われますからね。泣く泣くカットしましたけど、「目をつぶっても、電動自転車をビタ付けできます!」という出場者に、マヂカルラブリーの野田さんがその自転車でひかれかけたこともあります(笑)。実は体を張っているんです。
北澤:もはや審査芸です(笑)。ザコシさんやくっきー!さんたちの点数のつけ方からお笑いに対する愛の深さも見えてくるし、「できる限り出場者が活躍するシーンを拾えるように」という意味でのフリータイムでもあるんですよね。
――そのほか、実際に収録してみて予想していなかったことがあれば教えてください。
山本:予想外というのは、やはりネタに収れんされているということですかね(笑)。
北澤:ネタでは1位だけど、合議制の結果で別の芸人が勝者となって「おいおいおい!」ってシーンがあるのかなと思ったら、今のところ起きていません(笑)。
あと、本番を迎えるまでは「出場者が軒並みスベるんじゃないか」とドキドキしていたんですけど、結果として奇跡的な底力を見せてくれていますね。まさに5月ラウンドの勝者・橋山メイデンさんは、奇跡の連続でした。そこは予測できません。
山本:橋山さんはオーディションの時点から変ではありましたけどね。突然、「火、吹いてもいいですか?」と言われて、「いや、スタジオが火気厳禁なので……」と断ったら、火を使わないろうそく芸のようなことをやっていましたから。
たしかオーディションは満票で受かっているので、なにかミラクルを起こしていた気がしますね……。ただ、そのミラクルはもう忘れちゃったんですけどね(笑)。
――来年以降、『MXグランプリ』も継続する予定なのでしょうか?
山本:継続したらいいと思います。でも、決勝で大事故になる可能性もある(笑)。
北澤:まずは9月の決勝戦を成功させないと(笑)。『MXグランプリ』は、一般の人がなかなかタッチできない掘り出しものみたいな芸人と出会えます。しかも、ネタだけじゃない“お笑い芸人魂”みたいなものを重要視している賞レースなので、「芸人とはなんぞや」みたいなところを味わってもらえたらうれしいですね。
山本:視聴者に面白がってもらうためだけのコンテンツに振り切っていますので、ぜひ決勝まで楽しんでもらえたらと思います!