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連載

#7 プレ親の質問箱

育休相談したら上司から「無責任」「退職しては」弁護士に聞く対処法

読者の方から「妊婦と働き方」についての取材リクエストを頂きました。※画像は厚生労働省『妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A』より
読者の方から「妊婦と働き方」についての取材リクエストを頂きました。※画像は厚生労働省『妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A』より
出典: 厚生労働省『妊娠・出産・育児休業等を契機とする不利益取扱いに係るQ&A』

目次

妊婦と働き方についての取材リクエストを頂きました。

<妊娠とそれに伴う産休・育休の予定を職場で報告した際に、女性上司から「無責任」「人員配置の計画があるため育休前の年度末などキリのいいところで退職してはどうか」などと言われてモヤモヤしました。これってマタハラではないのでしょうか?(A子)>

職場に産休・育休の予定を報告した際に、「無責任」「退職しては」と言われることに問題はないのでしょうか。“マタハラ”防止に取り組む弁護士を取材しました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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【連載】プレ親の質問箱 #さっき妊娠わかった

初めて経験する妊娠・出産。わからないことばかりでネットを検索すると、そこにはやたらと恐怖心を煽ったり、ホントかウソかわからなかったりする情報が––そんな“プレ親”のみなさんの悩みに専門家が応えます。

妊婦の不利益取扱いは法で禁止

妊娠や出産を理由に職場で不当な扱いを受ける“マタハラ(マタニティハラスメント)”が近年問題になっています。日本でも法整備が進んでいますが、未だに悩みの声が絶えないのが現状です。

“マタハラ”など労働問題に取り組む弁護士の圷(あくつ)由美子さんに話を聞きました。

圷さんは「退職しては」といった発言が何度も繰り返される場合、男女雇用機会均等法(以下、均等法)第9条第3項で禁じられている、妊娠等を理由とする「不利益取扱い」の一つ、「退職強要」にあたるとします。

このケースがさらに進行して「配置計画で新しく人員が入ることが決まった」「だからあなたはもう要らない」として解雇することも禁じられており、そうした解雇は無効になると言います。

退職強要や解雇にまで至らないケースでも、「妊娠を告げるや『無責任』『退職しては』と返した上司の発言そのものが、均等法第11条の3第1項にいう『ハラスメント(嫌がらせ)言動』と判断される可能性がある」とします。

このような、いわゆる“マタハラ”が疑われる場合、相談する公共窓口としては、厚生労働省が設ける『女性にやさしい職場づくり相談窓口』、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)があるほか、都道府県などにも労働相談専門の窓口があります(例えば東京都では労働相談情報センターなど)。

女性にやさしい職場づくり相談窓口
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/advice/

労働組合や、事業者が設置するハラスメント窓口、人事労務の部署にも相談できますが、そもそも有効に機能しているか、事前チェックをするのがよいとのこと。「どこに相談したらよいか迷われる場合、弁護士会や労働問題専門弁護士に相談いただくのもいいでしょう」(圷さん)。

日本労働弁護団ホットライン(相談料無料)
https://roudou-bengodan.org/hotline/

同弁護団女性弁護士・働く女性限定ホットライン(相談料無料)
https://roudou-bengodan.org/sodan/sexual-harassment/

「“マタハラ”という言葉には前述の『不利益取扱い』と『ハラスメント言動』が混在していますが、法的に両者は区別されています」と圷さん。

「不利益取扱い」とは、均等法第9条第3項において、事業主に対して明確に「禁止」しているもの。事業主が、女性労働者について、妊娠・出産関連の理由で解雇や降格、退職強要、正社員の非正規への変更強要などを行うことです。

「ハラスメント言動」とは、均等法第11条の3第1項において、事業主に防止措置を「義務」として求めているもの。例えば妊娠の報告を受けた上司などが、解雇や降格などの不利益な取扱いを示唆したり、産休の申し出に対し、それを阻害したり、業務に従事させないなどの嫌がらせをしたりすることです。

※なお、育休など育児介護休業法関係の制度利用を理由とする不利益取扱いについては、同様の定めとして育児介護休業法第10条などが、同法関係の制度利用へのハラスメント言動については育児介護休業法第25条がある。

均等法第11条の3第1項は2016年の改正で定められた規定で、法的効果はセクハラやパワハラと同様です。これが追加された理由を、圷さんは以下のように説明します。

「解雇、雇止め、降格などによる事業主への法的処分までには至らないものの、上司や同僚による心ない言動で傷つき、働き続けることが困難になるケースが多くありました。『女性活躍推進』をするというのであれば、そもそも、そうした言動の予防を法でルール化してほしい、という社会的な機運が生じたからです」

就労継続のカギは上司の「第一声」

圷さんは、“マタハラ”という言葉が広がって声を上げやすくなった半面、法が特別に不利益取扱いを禁じた意味が、「〇〇ハラスメント」とひとくくりにされることで、軽視されてしまっているのではないか、と危惧しているそうです。そのため、この「不利益取扱い」と「ハラスメント言動」についての区別を知っておいてほしい、とのことでした。

ではなぜ、“マタハラ”については、不利益取扱いを法により禁止と定め、セクハラやパワハラよりも強い法的効果を与えているのでしょうか。

「法は、妊産婦に対して事業主が行いがちな不利益取扱いをあらかじめ禁止することで、『安心して子を産み育て働き続けられる社会』を目指しています。

労働者の妊産婦が、自らの体で新たな命を生み出す過程で、心身への大きな負担や変化を抱えながら働いていることを思うと、その必要性もおわかりいただけるのではないでしょうか」

こうした相談を多く受けてきた圷さん。妊娠を告げる側は、上司が第一声でどんな反応をするか、不安なものだと言います。「無責任」「退職しては」といった矢継ぎ早の言葉を「もう職場にいてくれるな」「(権利である)産休や育休も行使せずに去ってくれ」と受け止めてしまっても無理はない、と指摘します。

一方で、上司の立場だと、人手不足などで余裕がなく、イライラの矛先が妊婦に向かってしまう、と分析します。法で認められた権利なのに「権利ばかり主張する」「わがまま」「波風を立てる」などと、妊産婦一人を問題人員扱いにして孤立させ、排除するケースも少なくないそうです。

「余裕がないのは職場そのものの問題で、欠員の影響などに関する処遇改善は事業主に求めるべきもの。本来は、人員配置などを講ずる事業主の責任であるのに、矛先が責任のない一個人に向けられてしまうことが、職場の“マタハラ”問題の構造的特徴の一つです。

管理職研修では、妊娠を告げられた際の上司の第一声が勝負、と説明しています。“マタハラ”の構造を踏まえ、このタイミングでのボタンのかけ違いが後のトラブルにつながらぬよう、そして、何よりも社会人の先輩として、上司の方には、まずは『おめでとう!』と声をかけてあげていただきたいです」

職場“マタハラ”対策二つの鉄則

圷さんは「“マタハラ”の背景に職場の労働問題あり」とします。「慢性的な長時間労働がある、あるいは心理的安全性が確保されていない職場など、そもそも良好と言い難い環境であることが多い」ためです。

このような職場には欠員が生じるリスクが内在しています。そのため、妊娠した労働者を責めたり、出ていかせたりしても、根本的な解決にはなりません。今年4月からは新たに、いわゆる“男性育休”促進関係の制度もスタートします。これを機に、問題の根が共通する“マタハラ”について、改めて正しく理解・対処してほしい、と圷さん。

「大介護時代を迎え、自ら介護と仕事の両立を余儀なくされる管理職にとっても、明日は我が身、決して他人事ではありません。これからは、制約ある労働者が主流の世の中になります。いくら事業主が従来のように無限定で働ける労働者を求めても、ないものねだりです。職場自体、いずれ淘汰されていくことでしょう」

ただし、圷さんは「『はじめの一歩』には工夫が必要」ともします。“マタハラ”という言葉が社会に浸透してからほんの数年、世代間ギャップはセクハラやパワハラの比ではない、というのがその理由です。

「プライベートをなげうつような働き方をしてきた世代には、自分の生き方が否定されたと受け止める方々もいます。昨今、労働観は極めて大きく変化していますから、戸惑いもあるのでしょう。そのため、こちらが反射的に怒りを爆発させると、事業主の態度がより頑なになってしまうケースも見受けられます。

ご相談を頂いたときは、いつも『無防備でリングに上がらないで』とお伝えしています。すべての労働問題に共通しますが、鉄則として、まず自分一人で抱え込まないことが一つ。二つ目は、信頼できる相手に状況を相談してから、なるべく冷静に準備を進めることです」

これらのポイントを踏まえ、職場を見直すきっかけになる人員が出たときは、それをむしろ好機として「知恵を出し合って、地に足のついた、その職場らしい働き方改革に着手してみては」と圷さん。

組織側としては、対応を直属上司一人に押しつけないこと。“マタハラ”問題の構造からして、組織全体で対応することが必須、とします。

「“マタハラ”という言葉は、今や社会全体に浸透し、法整備も進みました。しかし、実際に法をよりどころに救済を求めると『労働観の変化を受け入れられない』という次の壁が立ちはだかっている。今後の課題は、この壁を扉に変えることです。

法が目指す崇高な精神を、社会が実現するためには、労働観を時代に合わせて、定期的にアップデートすることが不可欠になります。妊産婦に限らず、すべての人が、どんなライフステージでも、人間らしく働き続けることができる職場環境を目指し、しなやかに改善に取り組んでいきましょう」

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