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連載

#5 役所をやさしく

異文化の果てなき戦い? 「ゴミ捨て」問題のワナ #役所をやさしく

表現の工夫だけでいいの?

イラスト・逸見恒沙子
イラスト・逸見恒沙子

目次

シンプルでわかりやすいことばで、日本語にまだ慣れていない外国人にも情報を提供する「やさしい日本語」。
小難しい「お役所言葉」を変えるべく、ある自治体が本腰を入れました。やさしい日本語の「発祥の地」ともいえる、神戸市です。
窓口では今日も、多様な市民が、相談に駆け込んできます。日本語が苦手な人だったら、どうやって対応するのか。
役所内でふと漏らした本音には、さまざまな国のルーツの人が当たり前のように一緒に暮らす時代への、ヒントがあるかもしれません。一緒に、のぞいてみませんか。

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【前回までのあらすじ】
公文書のうち、手始めに家に郵送する「国民健康保険の更新のお知らせ」や、窓口で渡す「国民年金、国民健康保険」の説明書きを、「やさしい日本語」にしようと模索する現場の職員たち。窓口での経験や、生活の中で、「やさしさ」について考えていきます。

第1話 市長のむちゃぶりに葛藤 役所を「やさしく」  
第2話 ひとりぼっちの家に届いた恐怖の通知

第3話 20回説明しても伝わらない日本語って何なんだ? 
第4話 「翻訳は、あえてしない」多言語対応の限界とは?

窓口の外国人

神戸市のやさしい日本語推進プロジェクトは、各区役所とも連携をしています。

兵庫区役所の生活支援課の窓口。ここでは、生活に困窮した市民に対するサポートをしています。

窓口には外国人の方も来ます。

そんな窓口で対応をしてきた山根さんは、やさしい日本語推進プロジェクトの話を聞き、自分のこれまでの経験を思い出しながら、つぶやきました。

〈山根さん〉
入庁3年目の兵庫区役所・生活支援課の職員。中国に5年間住んでいた。庁内インターンシップ制度を利用して国際課で勉強中。最近のマイブームは火鍋。辛いものを食べすぎて胃がやられがち。

無意識に使っていたのかも

夜などに急に具合が悪くなって病院で診察してもらうとき、生活保護を受けている人は保険証の代わりが必要です。「やかん・きゅうじつきんきゅうじゅしんしょう を 持って行ってください」と説明します。

でも、日本語が苦手な外国人だと、なかなか、その言葉が「夜間・休日緊急受診証」を指すのだということが、頭の中で置き換わりません。日本人に説明するように「保険証みたいなやつ」と言い換えても、伝わりません。どうしたら伝わるか、考え抜いた結論は、「青い紙」、「最初に渡した紙」。それで伝わってしまいました。

「何とか伝えたい」と無意識に使った日本語。実はこれこそが「やさしい日本語」の正体なのかもしれないなぁ。

生活支援課では通訳を使った多言語対応もしています。通訳サービスを利用するには、通訳者の予約が必要だったり、テレビ電話を接続したり。手間も時間もかかり、すぐに情報を知りたい相談者の希望と大きくかけ離れてしまうことがあります。

日本語が少しでもわかる人には、カタコトの日本語をあの手この手で使って、理解を勝ち取るのが実情です。「やさしい日本語」は、窓口や電話での対応に欠かせない「便利グッズ」になるのではと感じました。

やさしい日本語だけでは足りない?

一方で、単に「表現の工夫」だけでは足りないなとも、思うのです。

私が幼いときに中国に住んでいたころ、中国の友達に夕食に連れて行ってもらったとき、こんな経験をしました。

テーブルにずらりと並んだギョーザやチンジャオロースなどの料理。

「ちょっと多くない? でも、好意を無駄にしちゃいけないよね」

中国人の友達と夕食に出かけた私は、料理を残さず平らげました。動くのも、息をするのも苦しいほど。

でも、しばらくすると、また食べきれないほどの料理が運ばれてくるのです。
「ななななな、なぜだ。まだ終わりじゃなかったのか」

もくもくと追加の料理を食べ続け、ようやく完食といったころに、さらに料理が運ばれてきました。「もう無理……」

後になって、「中国では、相手がもう何も食べられないという状態になるまで料理を出すのがおもてなしなんだ」と、中国人の知人に教えられました。

知人とのあの夕食の場では、「食べ残すまで注文するという中国文化」と、「出された食べ物は残さずに食べるという日本文化」の果てなき戦いが繰り広げられていたのです。
互いの文化を理解しないと、せっかくの相手を思いやる気持ちもすれ違うことを実感しました。

イラスト・逸見恒沙子
イラスト・逸見恒沙子

育ってきた環境が違う

窓口での外国人対応も同じなのかもしれません。

ある日、外国人住民に「言われた通り、ちゃんとごみを捨てたのに、怒られた。」と相談されました。

私は「神戸市指定の袋で捨てましたか?」「指定の場所に捨てましたか?」「ごみの分別はしましたか?」「ごみを出す曜日は確認しましたか?」「指定の時間までに出しましたか?」とひとつひとつ確認してみました。

すると、その人は戸惑った様子で、「なんでそんなことをしないといけないの?」と聞いてきました。

よくよく話を聞いてみると、母国ではごみを分別して、決まった日時に出すという文化がそもそもなかったということで、ゴミ捨てに細かなルールがあるということが、認識できていなかったそうなのです。「ちゃんと」の違いが招いたトラブルでした。

日本で暮らしていると「ゴミ捨てにはルールがあることが当然」だと思っているため、、私もそこまでフォローする必要があるとは思いつかなかったのが問題でした。

ルールをいちから説明すると、トラブルは起きなくなりました。

イラスト・逸見恒沙子
イラスト・逸見恒沙子

先輩からはよく、「今までの生きてきた環境が違うのだから、簡単には理解できないこともある。それを前提に、相手の文化も含めて理解する姿勢で、自分と相手のずれを小さくしなければ、なかなか相互理解は進まないよ」とアドバイスされます。

このようなすれ違いは、育ってきた環境の異なる日本人同士でも起こることです。相手の視点に立ったコミュニケーションは、外国人だけではなく、日本人にとっても重要なことだと学びました。

誰にとってもやさしい役所になるように、「やさしい日本語」の取組みが、全市に広がるように頑張っていきたいです!

 

これは神戸市とwithnewsの共同企画です。
小難しい「お役所言葉」を、誰にでも分かりやすい「やさしい日本語」にしたい。

神戸市の若手や外国人職員が中心になって立ち上げた「やさしい日本語推進プロジェクト」で、さまざまな声の板挟みになる現場や外国人の「本音」を紹介していきます。

本当に役所は「やさしく」なるのか。毎週金曜日に配信予定です。
 
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