連載
#1 新時代の就活を考える
「就活 したくない」で出るサイト ”みんな同じ”が気持ち悪い人へ
「就活 したくない」と検索したら出てくるサイトがあります。「就活アウトロー採用」。ESなし、服装・髪形自由で面接もなし、でも学生と企業をマッチングするサービス。なんだそりゃ。好き。行ってみました。
3月末、東京・巣鴨のビルで、「就活アウトロー採用2019」のワークショップが開かれていました。大学生40人ほどが数人ずつのグループに分かれ、ワイワイと話しています。全員大学に行くようなラフな格好です。
「こないだ、ラーメン屋で大学の友だち2人に『就活がイヤだ』って言ったら……」
ある女子大学生(21)が切り出しました。
折しも大学3年の3月1日から企業説明会が解禁され、就活がスタートしたばかりです。
「『就活は当たり前なんだから、やらないって人としておかしいよ?』って真面目に説教されて」
「ええー。それはひどいね」
まわりの参加者が一斉に同情します。
この女子大学生に、「就活がイヤ」の真意を聞きました。
「うまく言えないけど、スーツ着て、ヒールはいて、髪黒くして、まとめて、ワックスやって、メイク薄めにしてって、見た目を変えなきゃいけないのが本当に嫌だなあって」
就活アウトロー採用に参加する若者がよく言うのが、「働きたいけど、就活がイヤ」という言葉だそうです。
ニートになりたいわけじゃない。全員で同じ格好をして、全員で同じことを目指す、「就活」という儀式を経なければならないというのが心からゆううつだという意味です。
この女子大学生も同じでした。
「ヒールが痛くても、靴擦れができても、『社会的なマナー』があるから、パンプスを履かなきゃならない。たぶんみんなそういう就活のモヤモヤってあるけど、我慢してやるのがほとんどですよね。ここに来ているのは、どうしても我慢しきれない人たちなんだと思います」
みんなは我慢しているのに、自分だけどうしても我慢できなくて苦しい。私にも経験があります。我慢できない自分はダメな人間だなあと、何度も落ち込みました。
ラーメン屋で友人に説教をされたこの女子大学生は、友人にどう返事をしたのでしょう。
「私のことを心配して、善意で言ってくれていたのは分かるから、『アドバイスしてくれてありがとう。頑張るね』ってこたえましたけど、心の中では『私は私だから。嫌な気持ちはあるから。我慢を強制されるのは嫌だ』って思っていました」
とてもまっすぐな目でした。
彼女は、いわゆる「普通の就活」も、一方で続けているそうです。
「ここに来たのは、仲間探しの目的もあります」
就活アウトロー採用は、2012年から続いています。
約1カ月をかけて、学生だけで話しあう合宿やワークショップから始まり、企業とのマッチングまでを行うのがワンセット。これを年に数回実施します。
今までに6500人以上の学生が参加したそうです。
主催するNPO法人「キャリア解放区」の納富順一・代表理事は、こう話します。
納富「ここに来ることで救われるという感じの子が多いですね。ここに来る子は基本的に孤独ですから。違和感があっても、周りの人からは『いいからやりなさい』としか言われない。おかしいと口に出すこともままならない」
参加者の約1割はこのイベントで就職先が決まります。
ただ、実際にここで就職先を決めるというより「違和感をもつ人と話がしたい」という仲間づくりのために参加する人も多いようです。
納富「孤独やモヤモヤを聞いてもらって、ほっとして力を得て、自分で動けるようになって普通の就活に戻っていく子はけっこういます」
就活について取材をしていて、大学生から最もよく聞く不満が「ウソ」と「画一性」でした。
企業がにこやかに話す「我が社」の話はウソっぽい。
採用担当者の「これは選考ではありません」はウソであることも、知っている。
でも、自分がするすると話す「志望動機」もウソっぽい。
みんなが同じ笑顔を張り付かせ、同じ格好をして、同じキャラを目指して、同じゲームに参加する。
納富さんは、いまの就活の課題をこう語ります。
「就活って、ちょっと器用なやつが勝つゲームになっている。学生が抱く違和感の大きなものは、個人としてみられていないという感覚でしょうね」
「同じ格好をしなきゃいけない、スーツも髪形も没個性。フィードバックもない。落ちる理由もわからないし、評価されていてもなにを評価されたのかわからない」
就活アウトロー採用の公式サイトには、こんな説明があります。
<上っ面な企業説明とか駆け引き満載の面接など、古ぼけた採用プログラムは一切ありません>
後日、企業と学生のマッチングの場にも、お邪魔してみました。
やはり前回と同じく普段着の参加者が、数人ずつのグループに分かれて座っています。各テーブルに1社ずつ企業の人事担当者が座っていて、20分ごとに人事担当者だけがテーブルを移ります。企業名は伏せられています。
「学生の時、専門分野を職業にしたいって思っていました?」
若者からの質問に、人事担当者がこたえ、会話がすすみます。
卓上にはお菓子とお茶。和やかな雰囲気で笑い声が絶えません。
マッチングというより、「人生の先輩への相談」といった感じです。
人事担当者がテーブルを一巡すると、最後に各社が社名を明かした上でプレゼンタイム。
終わったら、学生が気になる会社の担当者の元へ行って名刺をもらい、後日個別に開催する説明会やインターンなどの案内を受けます。
これで、マッチングは終わりです。
参加した人事担当者の中に、就活アウトロー採用を使って今の企業に就職したという女性がいました。
後藤栞さん。
東京の財務コンサル「Colorz国際税理士法人」に1年半前に入りました。
マッチングに来ていた「ラップが大好きな社長が、パンキーで面白い人だった」ので、この会社に入ろうと決めたそうです。
後藤さんは、理系の大学院に進みましたが、研究を続けることに違和感を覚え、就職を決意。経歴的に「普通の就活は無理かな」と感じ、ネットを探していたところ、就活アウトロー採用を見つけました。
「ここに来る子って、『普通の就活』ができないというだけじゃないんですよ。ずっと前から、自分が普通とは違うことに悩んでいて、みんなと同じことがどうしてもできない。そのことが表面化するのが、就活なんです」
マッチングで、後藤さんは学生に「仕事って楽しいですか?」と聞かれていました。後藤さんが「楽しいよ!」と即答していたのが印象的でした。「普通の就活をして、普通のキャリアを歩むより100倍楽しい!」と。
「20人ほどの小さな会社ですから『こういうことがやりたい』って言えるのが楽しいです。もちろん『こっちが正しい』というわけではなくて」
「大企業で決められた仕事をすることが楽しい人もいるし、先輩がいないと不安な人もいるでしょうし。私にはこっちが楽しい」
企業側も、むしろ「変わった人」を求めて就活アウトロー採用に来ています。
浜松市の「中部日本プラスチック」は「合同説明会やナビサイトでは、学生の人間的な魅力がわからない」と、就活アウトロー採用に参加していました。
人事担当者は、「普通の就活」の欠点をこう話します。
「ナビサイト経由だと、全員が同じ格好をして、『面接に勝ち残る方法はこう』っていう内容しか話さない。情報が豊富な時代だからこそ、自分の言葉ではなく、用意された言葉が多くなりがちですよね」
「売り手市場」「人手不足」と言われるなか、一部の大企業や人気企業をのぞき、企業の新卒採用は簡単ではありません。ナビサイトにお金を出し、情報を載せるだけでは、学生が来てくれないという事情もあるそうです。
「普通の就活」は、今もマジョリティで、ほとんどの若者が通過する儀式です。
一方で、こうした「脱普通」も、細々としっかりと、続いていました。
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