連載
#2 新時代の就活を考える
「自分らしくない」を作り上げる就活はヘンだ アウトローな仕掛け人
「就活 したくない」で検索すると出てくる就活サービスがあります。就活アウトロー採用。主催者に話を聞くと、いまの就活へのダメ出しがたくさん出てきました。「就活は要領の良いやつが勝つゲーム」「自分らしくないものを作り上げるのが就活」。実はとっても深い「アウトロー」、真意を聞きました。
「就活アウトロー採用」は、NPO法人「キャリア解放区」が運営しています。
2012年にスタート。今までに6500人以上の学生が参加したそうです。
約1カ月をかけて、学生だけで話しあう合宿やワークショップから始まり、企業とのマッチングまでを行うのがワンセット。これを年に数回実施します。
運営する納富順一代表に、話を聞きました。
――「就活アウトロー採用」って、最初は学生だけでワークショップをやります。なぜそこから始まるんですか?
「心理的な安全をつくるためです。就活って緊張して自分を出しづらいですよね。ワークショップを通して参加者がコミュニティ化して、安心安全な中で、自分らしくいられる環境をつくっています」
「自分らしくないものを作り上げるのが就活ですから。自己分析をして、志望動機を書いて、企業に合わせた自分になる。そもそも採用選考に志望動機なんていらないんですよ」
――え、なぜでしょう。
「動機の優劣って入社後のパフォーマンスに関係ないので。単純に、聞いても意味がない。素晴らしい志望動機を言ったから入社後活躍するってあります?」
「企業のおじさんたちは、『やる気があるな』ってことを言葉面で確認したいから面接で聞くわけですが、それっていくらでもウソが言えます。就活っていうのは、ちょっと器用なやつが勝つゲームになっているんですよ」
――うわあ、身もふたもないけど、その通りです。真面目に頑張っている子ほど「うそついてる」と気に病むような。
「そうそうそう。そして企業は要領の良い子ばかり採って、『同質性が高い』とか悩む。あなたたちがそういう選考してるからじゃんっていう。ちょっと変わった人や、モヤモヤを抱えた人を切り落としてきた結果が、いまの大企業の採用でしょう」
――就活アウトロー採用に参加する学生って、就活システムのどこに違和感をもっているんでしょう?
「一番大きいのは個人としてみられていないという感覚でしょうね。同じ格好しなきゃいけない、スーツ着なきゃいけない、髪形も没個性。フィードバックもないですよね。落ちる理由がわからないし、評価されていてもなにを評価されたのか、わからない」
「個人として何を見られているのか実感の乏しさはあるんだろうと思います。あと、そもそも働くことに対するイメージがわかない子もいます。よく若者が言うのは『就活したくないけど、働きたい』です」
「親も大学の支援センターも、いわゆる『就活』をしないと社会に出られないと思い込んでいるんですよね。あのイニシエーション、儀式を経ないとダメみたいな」
―――たしかに、別に「普通の就活」をしなくても、働ければ良いわけで。就活アウトロー採用に参加する学生は「そんなところに行っていないでちゃんと就活をした方が良い」と言われると聞きました。
「助言する大人って、自分がわかる範囲の世界で語るから、理解できる範囲外のことは拒絶するか否定するんですよね。それを悪気無くやっているというのが一番多いですね」
――「就活したくないけど、働きたい」という言い方について。若者にとって「就活」と「働く」が切れているのはなぜでしょう。
「だって実際、切れていますよね。現場と人事が乖離(かいり)しているし、人事は採ること自体が目的になっていて、どう活躍してもらいたいかまで考えていない。配属された後のことは何もわからないし。『配属ガチャ』なんて言葉が一般化するくらいには、切れていますよね」
――就活アウトロー採用に来る若者って、ここに参加して、どう変わっていきますか。
「救われるという感じの子が多いですね。ここに来る子は、基本的に孤独ですから。違和感があっても、家族や大学の先生からは『いいからやりなさい』『正社員を目指しなさい』としか言われない。ちょっとおかしいなと思っても、口に出すこともままならない」
「ここに来ると、違和感を覚えている人しかいないので、自分が抱えていた孤独やモヤモヤを共感して聞いてもらえます。ここでほっとして、力を得て、外に出ていくという子はけっこういますよ。ここで就職先を決めていく子もいるし、自分で動けるようになって、普通の就活をやる子もいるし」
――なんで納富さんは「就活アウトロー採用」を始めたんですか。
「ずっと人材系の仕事をやってきました。マイナビで働いていたこともあって。人材ビジネスってマッチポンプなんですよ。『恐怖』をベースに動いていますよね」
「『○○しないと大変なことになる』という不安をあおって若者を動かす。そこはすごく違和感があります。これから先、仕事を仲介する人間がつくるべき価値ってなんだろうか、と考えて『就活アウトロー採用』をつくりました」
――恐怖ではなくて、何を大事にしているのでしょうか。
「受容される。人として見てもらう。つながりを感じられるとか、そういったところですね。先端の企業でも、そういう新しい組織マネジメント流れを感じますよ。立ち止まることすらままならない社会なんですよね、日本社会は」
――すぐ「そんなことをしていたら将来大変だよ」と言われますね
「常に恐怖や『べき論』をベースに、誰かの期待にこたえて生きていくのが良しとされていますから。若者にとって、期待にこたえないという選択肢はすごく怖いんですよね」
「期待とか恐怖にこたえていくと、矛盾がピークを迎えるのが就活ですよね。ちょっとおかしいなと思ったら止まっていいんですよ。強い意志をもって『ドロップアウト!』ってなるだけだと、誰も怖くてでてきないじゃないですか」
「おかしいなと思ったら、自分が今なにを感じているのか確かめる生き方ができないと。立ち止まったところで、死にゃあしないので」
――情報があふれるネット時代だからこそ、「遅れないようにしないと」という同調圧力は強い感じがします。
「ですね。情報はあふれているのに、息苦しい。いまのほうが見た目は没個性だけど、『個性は大事』と言われて育っている。だから極端に振れやすいですよね。ものすごく優秀な子が増えている一方で、社会に出るための壁を超えられない子もいる」
――「要領が良いやつが勝つゲーム」というお話がありましたが、要領悪い子はどうしたらいいんでしょう。
「『べき論』や正しさに振り回されると、しんどいと思います。疲れたら休むんですよ。おかしいと思ったら立ち止まる。その後は、あえて古い仕組みで頑張るのでもいいし、こういう場所で仕事を探してもいい」
「しんどい若者って、選択肢が一個しかないと思い込んでいるから、追い込まれるんです。ここでは、その価値観に揺らぎを与えて、選択肢を明らかにします」
「苦しさはチャンスですよ。いままでのやり方、生き方を変えるチャンス。社会に出てもそうです。期待にこたえつづけると、その『苦しさセンサー』が壊れるんですよね。自分の感情を感じられなくなる。それがうつ病です」
――企業側のお話もうかがいます。とはいえ、新卒一括採用の就活システムは巨大で強固じゃないですか。
「この売り手市場でも新卒を採用できる企業にとっては、メリットがあるシステムなんですよ。新卒って人件費が安いし、毎年一定数の割合で人材が供給される。あと会社って、まっさらな人材に対する淡いピュアな願いみたいなものがあるんですよね。新築が好き、新車が好きと同じ類いです」
「会社の色に染めやすいとか、企業文化をつくりやすいと言いますけど、本当にそうなだろうか。平たく言うと、コントロールしやすい人材ということでしょうが、今の時代はもうそれではうまくいかない」
「一部の大企業や人気企業以外は採用で苦戦しているところが多いと思うんですけど、根本的に採用のやり方をシフトしないとダメでしょうね」
――大手ナビサイトを使った就活はいまだマジョリティですが、たしかに企業側からは「ナビサイトに出しても新卒が採れない」という声を聞きます。
「言い方が難しいんですが、ナビサイトって、だんだん弱者同士のマッチングという傾向が出てきている。うまく就活ができない人と、採用が得意じゃない企業が出会う場みたいな。もちろんまだナビサイトにこれだけの企業が掲載されているので、マジョリティではあるのですが」
「ナビサイトのビジネスは、企業が金を出すシステムなので、うまく採用ができなくなれば、企業側からナビサイトの離脱が起きると思います。マイナビをやめてリクナビにすれば採れるというわけでもないですからね」
――むしろ就活アウトロー採用に参加する企業は、ナビサイトに期待していない企業が多い印象です。
「ここにくる企業は、ナビサイトを使わない企業がほとんどですよ。ナビ的な就活、従来の採用のあり方が本当にイヤだという危機意識・課題感をもっている企業が多いです」
――なにがそんなにイヤなんですか。
「学生がみんな同じに見える、個性が見えないという言い方ですね。売り手市場だから、内定を出しても他に逃げられますし。ここに来る若者は、個性がよく見えます」
「ここに来る学生は、全ての企業にとって『望ましい個性』ではないかもしれませんが、企業側もそれを分かってきていますから。あと、普通の就活をやっていないことが多いので、他に逃げられることがほとんどありません」
一見極端な就活サービスに思えますが、「就活」や「働く」ということの本質を考えさせられるインタビューでした。
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