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連載

#5 新時代の就活を考える

ナビサイト使って参加学生ゼロ 企業がテンプレ採用をやめるべき理由

面接を待つ学生たち
面接を待つ学生たち 出典: 朝日新聞

目次

【新時代の就活を考える】
 「就活 したくない」で出るサイト ”みんな同じ”が気持ち悪い人へ
 「自分らしくない」を作り上げる就活はヘンだ アウトローな仕掛け人
就活は「ウソがつけるシステム」 巨大企業を批判した北野唯我さん
まるで別世界!就活の格差 「懲役45年」と「1年からインターン」
【PR】進む「障害開示」研究 心のバリアフリーを進めるために大事なこと

 「日本一短いES」や「入社日と連絡先を送信したら即内定」など、独自の採用を生みだしてきた人がいます。人材コンサル「モザイクワーク」社長の杉浦二郎さん。奇をてらっているわけではなく、その会社の個性を考え抜いた上での作戦だと言います。企業も学生も「似たようなやり方」が多い就活ですが、テンプレ就活のデメリットを杉浦さんと考えました。

杉浦二郎さん
杉浦二郎さん

リクナビで呼びかけて、学生の参加ゼロ

 杉浦さんは、新潟県の菓子メーカー「三幸製菓」で人事責任者を務め、独自の採用選考が注目を集めました。2016年に現在の会社を起こし、採用や人事のコンサルティングを専門にしています。

 独自の採用選考にこだわっておられますが、なぜでしょう?

 杉浦さん「いま就活は売り手市場なので、企業は横並びで同じことをしていても人が採れないんです。今までであれば、なんとなくリクナビに載せて、マイナビにも載せて、母集団を形成してってやっていたのが、全然学生が来ない」

 母集団とは、応募する学生たち。大きな母集団を作れば(たくさん学生が応募してくれれば)、優秀な人材が多く含まれるはずだという考え方です。

杉浦さんが考えた、三幸製菓の「日本一短いES」
杉浦さんが考えた、三幸製菓の「日本一短いES」 出典:三幸製菓

 杉浦さん「昔は、ES提出者や企業説明会への参加者に対して実際の内定者数が少ないというのが課題でした。でも今は、スタートの会社説明会への参加自体が少ないんです」

 「以前、僕のあるお客さんが、20人規模の説明会を開きました。ナビ経由で20人が予約して、我々が別ルートで集めたのが20人。歩留まり5割かなと思って40人の予約枠にしたんですけど、当日ナビ経由の参加者は誰も来なかった。僕らが呼んだ方は18人来ました」

 「まさかナビ経由がゼロとは。学生にとって、ナビサイトの使い方がその程度なんですね。とりあえず予約しただけで、予約したことすら覚えていないっていう」

 ナビサイトからいっぺんに大量の企業に申し込むから、そういうことになるのでしょうか。

 杉浦さん「そうですね。それと、学生がナビサイトを活動のメインにしていない。リマインドメール送っても全然見ていないですし。やることは次から次にいろいろあるから忘れちゃうし。そうなってくると、企業側も他社と同じことしていてもダメだと危機感を持ちます」

(画像はイメージです)
(画像はイメージです) 出典:PIXTA

 それで独自の採用を考えたいというニーズが生まれるんですね。

 杉浦さん「今までの企業は、多くの母集団を形成し、そこから複数回選抜し若干名を採用する、というどこも同じやり方をしていましたが、さすがにそれではそろそろダメだと気付き始めたんだと思います。入社後に育てる余裕もないわけで、もっと自社にとっての優秀人材をしっかり定義し採用しないとまずいぞ、と」

 「だから、企業は人材難だけど、厳選採用なんですよ。世間一般にいう優秀人材ではなく、自分たちの会社にとっての優秀人材を採らなければという意識です。そうすると、ES出して面接して、という従来の物差しではない、自分たちならではの物差し(選考)が必要になります」

 杉浦さん自身、独自の採用選考は、いつから考え始めたんですか。

 杉浦さん「私が三幸製菓で採用を担当していた時にナビサイトへの掲載をやめて、面接も最終面接だけにしましたが、それが2011年くらい。周りに独自選考の動きはあまりなかったです。当時はバッシングも受けました」

2011年の就活の様子
2011年の就活の様子 出典: 朝日新聞

「面接絶対神話」はヘンだ

 三幸製菓では、「おせんべいが好き?」「新潟で働ける?」と二つだけを聞く「日本一短いES」や、「せんべい」への情熱を語る「せんべい選考」など、次々に変わった選考を取り入れていました。誰がどういうバッシングをするんですか?

 杉浦さん「わけがわからない、何がしたいんだという批判ですね。大学のキャリアセンターさんから何件も名指しでクレームがきました。『学生が相談に来るけど、おたくは何をやっているんだ。ナビにも載せない。面接もしないって。そんな採用ありえないでしょう。うちも指導できないから、おたくに学生を送りたくないんですが』って言われました。出入り禁止になった大学もありますよ(笑)」

 でもやめなかったのはなぜですか。

 杉浦さん「信念があったので。絶対今後はこっちの方向(独自選考)になると」

 今の採用のやり方は、具体的にどこがダメなんでしょう。
 
 杉浦さん「大きな母集団をつくって絞り込んでいくっていうのは、広告ビジネスモデルの延長でしかないんです。ナビサイトの掲載企業からお金を取るという広告モデル。本来の職業マッチングからしたら、無駄の多いシステムなんです」

 「人をたくさん集める中にいい人材がいるかもしれないと考えがちですが、そもそも打ち出しが甘い(もしくは表面的である)からたくさん集まるんです。それで集まった人たちって、本当に自社に合う人材ですか、と。たったひとりでも、優秀な子が見つかればそれでいいじゃんって考えた時に、『これってナビサイトに踊らされてるなー』と思ったんです」

 「もうひとつは、『面接絶対神話』への違和感。『会ってみないとわからない』『会うことによって人柄がわかる』という神話です」

(画像はイメージです)
(画像はイメージです)

 面接は採用選考のテンプレで、「やらない」というのはかなり珍しいですよね。

 杉浦さん「私からすれば、面接の効果ってふたつしかない。ひとつは稟議(りんぎ)書的役割。『この人材を、あの人も見た、この人見た。みんないいって言ったよね?』という」

 ハンコと同じという意味ですか。

 杉浦さん「そうそう。日本にありがちな、みんなでリスクを分散して、みんなリスクをとらないという手法です」

 「もうひとつの面接の役割は、選ぶ側の好き嫌いバイアスがかかること。会って話すと良くも悪くも『この子いいな』『この子ないな』って好みが出るじゃないですか。これは結構大事で、特にオーナー企業みたいなところは、『こいついいな』と思った人材はかわいがるし、嫌だなと思ったら入れないし、実際その方がお互い良い。お互いの熱量をリアルに交換できるという意味では、面接はとても良い仕組みとも言えます」

(画像はイメージです)
(画像はイメージです)

何千人も集めるのダサくないですか?

 杉浦さん「ただ、面接の最大の問題点は、能力のアセスメント(査定・評価)が難しいことです。本当にリーダーシップがあるかどうかなんて、実際にいろんなところにぶち込んでみないと分からないので。足が速い人に向かって、『あなたは足が速いですか』とか『リレーの選手になったことがありますか』って聞くのと一緒だなと」

 「面接だけで見抜くには、相当トレーニングを積まなければ無理だと思うのですが、ここを採用担当者は過信しちゃうんですよね。面接だけで『この子は協調性あるな』とか『この子はリーダーシップあるな』とか」

 「僕自身は、何万人と学生を面接して、面接官トレーニングをたくさん受けても、目の前の学生がどういう能力をもっているのか、100%の自信を持って判断できなかった。結局、自分にない能力は測れないんだなと痛感しました」

面接を待つ学生
面接を待つ学生

 杉浦さん「この子は自分とは違うなっていうことは分かるんですけど、それがどういう能力で、どれくらいの高さなのかがわからない。それで、面接ってむしろって危険だなと思って。協調性がある人をとりたいんだったら、協調性が測れる採用をすればいいわけで。それで一気に独自選考に切り替えたんです」

 企業側に「たくさんの学生に応募してもらいたい」という母集団信仰は強いです。

 杉浦さん「めちゃくちゃありますね」

 どれだけの学生からエントリーがあったかというのは、企業の人気度と同じ認識ですよね。「同業他社に勝った」とか。

 杉浦さん「僕はよく逆を言っていて。『たった10人しかとらないのに、何千人も集める会社ってダサくないですか』と」

企業説明会の様子
企業説明会の様子

大勢にウケようとしない、1人にウケる

 そもそも冒頭のお話だと、一部の大手企業以外は、学生を集められないんですよね。

 杉浦さん「はい。集まらないんだから、そもそも集めない。たくさん学生を集めようというのは違っていて。欲しい人材だけに届く、それ以外には届かないっていう仕組みをどう作っていくか」

 「最近は『新卒が採れない』と言われるんですけど、じゃあ新卒をとらなきゃいいじゃないですか。新卒である必要ってどこにもないですよねという話もしています」

 独自採用を考えるポイントってなんですか。

 杉浦さん「僕らは『マイクロリクルーティング』という言葉をつかっています。造語です。ひとりを募集して、ひとりが応募して、ひとりを採用するという世界をどうつくっていくか。大勢にウケたいというマーケティングではなく、差異化。自社の特徴をどう伝えていくかが大事になっていきます。

(画像はイメージです)
(画像はイメージです)

 例えば?

 杉浦さん「例えば、愛知県碧南市の100年続く運送会社の事例。業界的になかなか学生が集まりにくいのですが、更にここは独自の選考システムを構築していて独特すぎるのもあり、多くの学生にウケがいいわけではない」

 「実際にイベントに参加しても他企業に比べて人気は低い。でも、わずかな人数ではあるものの興味を持った学生は「選考の独自性」に惹かれ、そこからこの企業の人材に対する考え方や本気度を感じるんです」

 「僕らは、クライアントの企業さんによく『説明会に出ても、全員にウケようとか人気をとろうとか思わないでください。たった1人に響けばいいんです』と話します」

 「会社説明会で、『うちは良い会社だ』とアピールするのではなく、『なぜこういう選考をしているのか』と信念を説明してもらいます。それによって『うちはこういう人材が欲しいと考えている』『人材に対して本気で向き合っている』というのが伝わるので」

(画像はイメージです)
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「こういう人がほしい」と言えていない

 不特定多数の学生にモテようとすると、差し障りのないことしか言えなくなります。でもそれは、自社の本当のニーズからずれているかもしれない。

 杉浦さん「そうなんです。企業って実は『こういう人が欲しい』というのをしっかり伝えていないんです。発信の仕方で人の集まり方って変わってくるじゃないですか。ふわっとしたこと言えば、ふわっとした感じで集まってくるけど、本当に欲しい人はいない」

 とりあえず「求める人材像=課題解決型人間」と言っておくとか。

 杉浦さん「そうそう。なんだそのメッセージングと。そのメッセージングが課題解決になってないじゃないかと。総合力とかイノベーション人材とか、他にもいろいろあります」

 「企業は『あるがままを見せてください』って言いながら、あるがままを評価しないんですよね。それは不信になりますよ。だから学生はテンプレなものに自分を寄せていってしまう」

(画像はイメージです)
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 他の独自採用事例を教えてください。

 杉浦さん「あるネットバンクさん。『周りを巻き込んでいく力』をどうしても重視したいということだったので、『シークレットコード採用』をしました」

 シークレットコードとは、クイズ番組などでよく見る謎解き問題です。

 「社会問題・時事問題をシークレットコードにして、周りの人たちをうまく巻き込みながら解く。そして出てきた問題について周りの意見を集約して、分析考察して仮説を立てて検証をして、レポートを出すという選考です」

 「この選考のもう一つのポイントは、学生たちが選考する社員に『会わない』こと。社員に直接会うのは最終面接だけです」

(画像はイメージです)
(画像はイメージです)

言語がそろっていない選考

 なぜそんなことを?

 杉浦さん「ネットバンクってお客様と会わない状態でいかに自分たちのバリューを伝えていくか。会うことを前提とする人より、会わないことを『面白い』と思ってくれる子に受けてもらった方が、ビジネスモデルとの親和性もあるなと。だから会わなくても成立する選考を考えました。レポートを見ると、みんなの意見をちゃんと聞いたとか、意外とわかるんです」

 この選考を「いいな」と思って応募した時点で、かなり適性が振るわれていそうですね。

 杉浦さん「おっしゃるとおりです。ぼくらはよく『言語をそろえましょう』という話をしています。学生が理解する言語って、選考の仕組みだったり、フローだったりで会社を理解していきます」

 「『うちは若手に権限委譲をしている』といいながら、一次面接で50代の社員が出てきたら『いや違うじゃないですか』となる。それが『言語がそろってない』。イノベーション人材が欲しいんだったら、採用もイノベーティブに」

(画像はイメージです)
(画像はイメージです)

 そのズレを放置して、テンプレ選考をそのままやっている企業が多いと。

 杉浦さん「多いですね。採用を変えるのは大変ですし、変えるためのアイデアもなかなか浮かばない。浮かんでも実行するためのパワーが大変。それで結局独自選考をやめちゃうんだと思います。

 今後、独自採用は広がると思いますか?

 杉浦さん「そうしないといけないと思います。採用は枝葉の話だと思っています。ヒューマンリソースをどう確保し、育て、活用し、会社をどういう方向に動かしていくのか。採用はその方法のひとつです」

 会社ごとに課題は違います。

 杉浦さん「はい。会社に採用手法を寄せるべきなのに、手法に会社を寄せてしまったら意味がなくて。自分たちはどうあろうとしているのか、それならどういう採用をしなければならないのかと考えていくと、おのずと独自採用にならざるをえないはずなんです」

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