連載
#4 新時代の就活を考える
まるで別世界!就活の格差 「懲役45年」と「1年からインターン」
大学生の就活にはいま、二つの世界がある。「ナビサイトに登録して、大学3年の3月1日から企業説明会、6月1日から面接選考」というテンプレートな就活と、「選考はいつでも。インターンは何年生からでも。テンプレ就活が始まる頃には、だいたい内定が決まっている」という就活。この差はなんだろう。当事者たちに、話を聞いた。
慶応大学4年の小林楓さんは先日、1学年下の後輩から相談を受けた。
「とりあえず合同説明会に行ってみたんですけど、これからどう就活したらいいんですか?」
経団連が決めてきた就活ルールでは、企業説明会の解禁、つまり就活のスタートは「大学3年の3月1日」。
いまの小林さんの学年が対象で、後輩は丸1年早い。「もう行ったの?」と驚きつつも、小林さんは話を聞いた。
「先輩は1年前に何をしましたか?」「自己分析を一緒にやってください」。
後輩の顔には、焦りが見えた。
「先輩の話を聞いたりSNSを見たりして、『早く就活を始めなきゃ』って焦ったんでしょうね」と小林さんは言う。
上位層の大学を中心に、「ナビサイトに登録して、大学3年の3月1日から企業説明会、6月1日から面接選考」という「みんなで一斉に動くテンプレートな就活」は崩れつつある。ディスコ社の調査では、今年5月1日時点での内定率は51.1%。「6月1日」の前に、半数の学生は内定をもらっている状況だ。
小林さんも、3年生の秋に早々と内定が出た。
大学3年の夏に、あるベンチャーのインターンに参加、そのまま内定をもらった。「なんでも早めにやりたい性格」で、大学1年生の時から、資格をとったり自分の得意を生かしたバイトをしたり、将来の仕事選びに役立ちそうな経験を意識して積んできたという。
小林さん「周りの学生を見ていると、『就活は通年でやるもの』と浸透してきていますね。3月1日に活動を始めるのは『むしろ遅い』という感じ」
気が早い学生は、大学1年生の時から企業インターンをしているという。
小林さん「私は、自分がやりたくてやってきましたが、『早く就活しなきゃ』と焦って浮足立っている子にとっては、大学生活の全てが就活になってしまいますよね。それもちょっと違うかなと思います」
小林さんはいま、就活情報サイト「ワンキャリア」でインターンをしている。
ワンキャリアは、東大・京大の学生の9割、早慶やMARCHの8割が登録する、上位層に受けているサービスだ。
ワンキャリアには、学生のクチコミ投稿が多数掲載されている。匿名のクチコミサイトと違い、個人情報を登録した会員のみが投稿できる。投稿内容も事前に運営側がチェックすることで、不適切な内容の掲載を防ぐ仕組みをとる。
ワンキャリアが上位層の学生に受けている背景を、最高戦略責任者の北野唯我さんはこう話す。
「マイナビやリクナビといったナビサイトは、企業からお金をもらうビジネスモデル。いままで質の低い情報や企業のウソが当たり前のように流通していましたが、学生には対抗する手段がなかった。うちのように『信頼できるクチコミ』が流通することで、企業はウソをつけなくなります」
小林さんは、マイナビやリクナビといった大手ナビサイトにも一応登録はしたが、ほとんど使わなかったという。
「就活サービスはいろいろあるので、メリットごとに使い分けていました」
上位層の学生の間では、情報の取り方や使い方は変わり続けている。
一方で、中堅クラスの大学に通う小林さんの地元の友だちは、全く価値観が違うという。
「大学3年の3月1日」まで、むしろ就活はしたくない。
ギリギリまで逃げたいし、遊びたい。
「その気持ちも分かるなあって。社会に出ると、つらいことが多い。できればギリギリまで就活なんて考えずに学生生活を楽しみたい。いわゆる大学生らしい生活が送れますよね。私たちの就活が良いとか悪いとかではなく、どっちにもメリット・デメリットがあると感じます」(小林さん)
同じくワンキャリアでインターンをしていた倉橋晃太さんは、この春、早稲田大学を卒業し、社会人になった。
就活中、地元の友だちが言った一言が忘れられない。
「懲役45年」
首都圏の中堅大学に通っていた友だちだ。
就活というより、働くことそのものにネガティブなイメージをもっていて、社会に出ることは「懲役刑」。
だから、就職は懲役45年。
やはり小林さんの友だちと同じように、「大学3年の3月1日」ギリギリまで、就活はしていない様子だった。
倉橋さんは、「自分で見聞きしないと信用できないタイプ」で、志望する企業の社員に積極的に会い、自分で情報を集めた。
ナビサイトは、登録したが結局使わなかった。他で情報を集められたので、使う理由がなかったという。
一方で、「懲役45年」の友だちは、おそらくナビサイトで見つけたであろう企業の説明会に数社行き、その中から就職先を決めていた。
「そんなに簡単に決めるの?」と倉橋さんは驚いたが、「懲役45年」の友だちは、倉橋さんの就活を聞いて「よくそんなに頑張るね」と引いていた。
倉橋さん「就職先の選び方は、受験の時の大学選びと似ていると感じました。『ここに行きたい』と考えるか『入れるところならどこでも』と考えるか。全然考え方が違う」
どのクラスタの学生かによって、「就活」は全く違う様相を見せる。
動き方も、流れる情報も、価値観も。
人材コンサル会社「モザイクワーク」の杉浦二郎社長は、就活には「学生の格差」があるという。
「最近、ベンチャーが新卒を採用するのは当たり前になりました。一昔前は、ベンチャーは、即戦力ではない新卒を採って育てる余裕がなかった。でもなぜ今新卒を入れるかというと、いろいろ理由はありますが、その一つに、ものすごく優秀な学生が多いというのが挙げられます。すぐ活躍できる超即戦力。そういう人材がぼろぼろ出始めている」
また、学生がナビサイトや大規模な合同説明会を敬遠し始めたという。
「みんなで一緒に動くところとか、企業の話がウソっぽいのはイヤみたいです。あと、ああいうところで活動しないと就活できないと思われたくないようです」
「ナビサイトや大規模合説は『世の中にどういう企業があるか』を知るにはいいけれど『その会社がどういう会社か』はわからない、と口を揃えて言います。そして、今はオファー型も含めて、企業からどんどんアプローチが来る時代なのに、ナビや大規模合説などに頼らないと就職できない、と思われたくないなんて話も聞きます」
「一方で、地方に行くと、大学3年の3月になってもまだ自己分析をしているみたいな事例がある。その格差って本当に広がっているなと思います」
「まだ社会人になる気持ちが固まっていない人や、もっといろいろチャレンジしたいという人は、卒業後にいろいろ経験して、そのあと就職したって全然いい。でもナビサイトが『○○年卒』と年度ごとに輪切りになっているから、ちょっと寄り道して卒業がずれただけで、新卒ではないかのようになる。ナビサイト就活の弊害ですね」
杉浦さんは、「全員が一斉に就職すること自体が、もう時代的に無理なのかもしれない」と話す。
学生の成長スピードには個人差があるし、いろんな回り道をする人もいる。
企業の動きも多様化している。
新しい時代の就活は、どう動いていくのだろう。
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