大学で研究する教授や准教授は、当たり前のように「先生」と呼ばれるのに、博士研究員であるポスドクはメールも「さん」付け…。そんなポスドクでも、憧れの「先生」の気分を少しだけ味わえる機会があります。それは「非常勤講師」。本業の研究機関の仕事とは別に、他の大学などで講義をするのですが、学生たちの感想を知りたくてついついやってしまうことが…。
こんにちは、ポスドク研究者のポス・ドクえもんです。
「先生」って呼ばれるの、少し憧れます。大学や研究所の教授・准教授・助教の方々は「先生」という敬称で呼ばれていますが、ポスドクは「先生」ではありません。
受信したメールの宛名や講演会のプログラムに「◯◯先生、△△先生、ポス・ドクえもんさん」と並んでいるのを目にすると、偉い研究者のみに許された称号、「先生」が無性に羨ましくなります。
「先生」って呼ばれたい。広瀬すずさんに「先生」って呼ばれたい。今回はそんなポスドクの「先生」欲を満たす秘密の(?)お仕事の話をしましょう。
「ポスドク問題」という言葉があるように、ポスドクの待遇は必ずしも恵まれたものではありません。
ポスドクの年収は場合によりけりですが、研究分野によってはポスドクを含む任期制研究者の40%が年収400万円を下回るという統計もあります。
ポスドクは、今を耐えしのべばやがて昇進と昇給が約束されているというわけではありません。
むしろ任期の期限が決まっているという立場から、体感としては数字以上に寂しい懐事情になっています。実はそんなポスドクの懐を暖める副業があるのです。
それは「非常勤講師」です。本業の研究機関の仕事とは別に、どこかの大学で講義を受け持つ研究者は少なくありません。(※1)
※1) 雇用契約によって非常勤講師のコマ数に制限があり、またそもそも副業が不可の場合もあります。
収入の足しになるとともに、研究職公募でアピールできる教育歴にもなるので、非常勤講師の副業はポスドクに人気です。
ただし、大都市圏では大学が多いため非常勤講師の職探しにはあまり苦労しないのですが、地方ではそうもいかないという事情もあります。
講義1コマあたりの給料はそれほど多額ではなく、90分の講義を行って1万円から1万5千円程度です。事前の準備やレポートの採点などを加味すると、実質的には時給1千円程度と、給料の点ではアルバイトに近い感覚です。
余談ですが、私は非常勤講師の仕事に行くことを「バイトに行く」と言います。お小遣い制を採用している私の家では、この「バイト代」はそのままお小遣いになります。
当然ながら、非常勤講師のお仕事中は学生たちから「先生」と呼ばれます。普段そのような敬称で呼ばれることがないので、なんだか不思議な気分になります。
「立場が人を育てる」という言葉がありますが、「先生」と呼ばれると「先生」らしくあろうという気持ちが生まれ、ちょっと背筋を伸ばしてしまいます。
実際のところ、私たちポスドクは学問の最前線で研究を行っている身であり、さらに学生たちとも比較的年齢が近いため、学問の世界の伝道師としてはうってつけの存在だと密かに思っています。
ポスドク業との両立は大変ですが、少しでも面白い講義にすべく、準備には自然に熱が入ります。
非常勤講師のお仕事の難点として、講義に対する学生たちの感想がわかりづらいということがあります。毎週1コマの講義の間しかその大学にいないため、必然的に学生と話す機会が限定されてしまうためです。
自分の研究ネタを盛り込んだ回の後などは「どうだった?」「面白かった?」と一人ひとり聞いて回りたいくらいです。
そんなもどかしい気持ちから、講義後はついついツイッターでエゴサーチ(※2)をしてしまいます。今の大学生世代はネットリテラシーがしっかりしているので、名前や大学を明かさず、講義の感想もそれとわからないようにつぶやいています。
※2) インターネット上で、自分の本名や関連するものについて検索し、その評価を確認すること。
これで批判的な感想も講師に見られる心配はない…と学生たちは思っているかもしれません。しかし油断は禁物、講義で出たキーワードで検索するなど、こちらも感想を知るべくあの手この手を尽くしています。
一人受講者を特定できると、最終的にはそこから芋づる式に発見できます。そんな労力をかけて自ら感想を探しておきながら、批判的なコメントに出くわし凹むこともあります。(批判的な感想はちゃんと真摯に受け止めています。)
非常勤講師としての週イチ先生はやりがいはあるのですが、せっかく講義で知り合った学生のその後の成長を見ることができない一抹の寂しさもあります。早くどこかの大学で常勤の先生になりたいところです。その日が来るまで、ポスドク先生の奮闘は続くのです。
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「ポスド苦日記」は基本的に毎週月曜日に更新します。