みなさんはポスドクという言葉を聞いたことがあるでしょうか? それは博士研究員というポジションで、教授や助教ほど「偉くない」研究者のことです。結婚式で相手方の親族に「無職」と思われたり、ある意味「世界中」にいるライバルと就活をしたり……。研究者といえば、自分の好きなことを追求して、夢を追う気ままな仕事と思われがちですが、それなりに「つら楽しい」ポスドクの日々をご紹介します。
こんにちは、ポスドク研究者のポス・ドクえもんです。
ポスドクとは「博士号を持っていながら任期制の研究職についている人たち、もしくは職そのもののこと」です。平たく言うと、「まだ偉くない駆け出しの研究者たち」のことです。
若手研究者の多くがこのポスドクとして経験を積み、偉い研究者…大学の教育職や国立の研究所の研究職を目指しています。
私もその一人。大学に9年間通って博士号を取得、数年前から理系の研究所でポスドクとして働いています。
Googleで「ポスドク」と検索すると、「ポスドク問題」「ポスドク 就職」「ポスドク 悲惨」などの不穏な検索キーワードがサジェストされます。親戚や友人には絶対に見られたくないですね!
そう、ポスドクはなかなか大変なのです。
このコラムでは、ポスドクを取り巻く諸問題について当事者視点で解説し現代社会の闇に迫る…のではなく、つら楽しいポスドクたちの日常をふんわりと読者の皆さんにお伝えしていきたいと思います。
検索キーワードに並ぶ不穏なキーワードたち、これはポスドクのキャリアパスに由来しています。
通常の企業勤めと違い、ポスドクたちはいかに一生懸命働いて、焦げ付いた融資を見事回収して、倍返しだ!しても、その職場で昇進して教授や主任研究員になれるわけではありません。
偉い研究職に就くためには、どこかの大学や研究所の研究職公募に履歴書や研究業績書を揃えて応募する必要があります。
この公募は現在どこの研究機関に勤めているかを問わず応募できるため、日本中、時には世界中のポスドクたちとの厳しい競争になるのです。
公募の情報は専用のウェブサイトや学会のメーリングリストで共有され、ポスドクたちはこれをチェックすることが日課となっています。
そしてランチタイムには、「あそこの大学の公募見た?」「あの募集要項だと私の研究内容ではキビしいかな」「○○さんならイケるわよ~」と言った会話にキャッキャウフフと花を咲かせることになるのです。
ポスドクの任期は長くても3年程度のため、任期が終わる前によりよい職を勝ち取るべく、ポスドクたちはキャッキャウフフしながらも切磋琢磨しているわけです。
任期付きだったポスドクが晴れて任期の期限のない研究職に就くことを、私たちの業界では「パーマネント(期限のない)職に就職する」、もしくは単に「職に就く」「就職する」と表現します。いわゆる業界用語ですね。
これは私が結婚式を挙げた時の話です。
結婚式には、妻と私の親族・古くからの友人・職場の上司などが勢揃いで出席してくれていました。
緊張の挙式をロボットのような挙動でなんとか終え、空気が和らぎつつあった披露宴の場でその悲劇は起こりました。
乾杯の挨拶を快く引き受けてくださったのは、当時の私の上司、すなわち教授です。
披露宴における挨拶の例に漏れず、教授は新郎である私の人となりについてヨイショを交えながら軽妙に話してくださいました。
ところが、教授もまた研究業界に浸ってきた人間です。
私の将来は安泰だということを伝えようして、「彼は必ず就職できる!」と言ってしまったのです。
研究者仲間には「彼は将来教授職に就くだろう!」を意味する温かい言葉ですが、他の来賓には「彼はいま無職です!」と聞こえたことでしょう。
念のため明記しておきますが、ポスドクはお給料をもらってやっている職業です。
そして教授にはもちろん悪気などありません。ただ、その後の披露宴の間、反応を見るのが怖くて妻の親族席のほうはあまり見ることができなかったのを覚えています。
研究者というと、夢を追う気ままで楽しい仕事と捉えられることが多いです。一方、最近ではポスドク問題という負の側面にスポットが当たることも増えてきました。
ポスドクたちはこの両者を併せ持った日々をそれなりにつら楽しく生きています。
次回のコラム「ポスド苦日記」は、出世を目指して海外にはばたくポスドクのお話です(私がその時までにまだ”就職”していなかったら、ですが)。
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「ポスド苦日記」は基本的に毎週月曜日に更新していきます。