「超常現象なんてありえない。すべて科学的に説明できる」っていう人、いますよね。でもそれって、本当に可能なのでしょうか? ちょっと懐かしいあの「ミステリーサークル」は、約30年前に「UFOだ!」「いや自然現象だ!」と科学者を巻き込んだ大論争になりました。超常現象と科学のぶつかり合いは、最後に思わぬオチが待っていました。「ありえない」のワナにはまった、ひとりの科学者の悲劇。みなさんが知らない「物証」も登場します。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
「あるわけない」も非科学的
「アメリカでは、ノーベル賞をとったような著名な研究者が、時間とお金をかけて超常現象の真相を調べていますよ。日本では『調べるのはバカバカしい』と切り捨てられがちですが、『超常現象なんてあるわけない』と一方的に決めつけてしまうのもまた『非科学的』です」。
そう語るのは、超常現象を30年間取材している、皆神龍太郎さん(ペンネーム)。
超能力から、ネッシー、ツチノコ、死後の世界、生まれ変わり、予言、水素水、ホメオパシーまで。超常現象かいわいのテーマを30年間取材し続けている、専門家です。
(そして、朝日新聞社員です)

超常現象のジェネレーションギャップ
皆神さん
「あの超常現象って実はこういうトリックだったんですよ」って話しても、若い人はそもそもその現象を知らないから全然ウケないっていう悲しいことが時々あります(笑)
例えばみなさん、宜保愛子って知ってる?
若者
皆神さん
じゃあ、手からなんか砂みたいなものを出すサイババは?
若者
皆神さん
そういうギャップがあるネタのひとつが、ミステリーサークルなんですけど、知ってますか?
若者
若者
皆神さん
10代はさすがに知らないかな。
ミステリーサークルの出現は、いろんな悲喜劇を生み出したんですよ。
超常現象と科学の関係を考えるのにもちょうどいい題材なので、ちょっとお話ししましょうか。

宇宙人説 VS 自然現象説
皆神さん
畑に突如現れる巨大な幾何学模様のことです。一部の畑の作物が根本から倒れて、遠くからみたらその倒れた部分が図形になっている、というもの。
最初はイギリス南部に出現し、1980年代に、「夜のうちに変な模様が畑に現れる!」と話題になったんです。やがて日本にも出現するようになり、朝日新聞でも取り上げられましたよ。
若者

皆神さん
それはもう大きな世界的ブームになりました。
若者
皆神さん
ですので、科学者も直接調べたり、理論を述べたりすることがしやすかったんです。日本でも「プラズマ発生説」を唱えた物理学者とか、小さな竜巻で説明しようと試みた気象学者とか、議論に参加する科学者がいました。
若者

皆神さん
たとえば、ミステリーサークルを「プラズマの渦が起こす自然現象」だと説明しようとした科学者にテレンス・ミーデンという人がいました。イギリスの気象学者です。
1989年に来日したのでその際には、僕も彼にインタビューして朝日新聞で記事にしちゃいました。
若者
皆神さん
当時、ミステリーサークルは、「UFOだ」いや「自然現象だ」という議論だけでなく、「これは(宇宙人が作った)本物だ」「これは(自然現象による)本物だ」、いや「人間がイタズラでつくった偽物だ」という議論もありました。
若者

皆神さん
で、ミーデンさん、人造ではなく「本物」だとコメントしました。
ですが、その途端にうしろから
「僕が作ったサークルなんだよ~ん」
と、サークルの制作者が現れてきて面目は丸つぶれに。
若者
皆神さん
この事件でミーデンさんは、新たなサークルの研究はもうしないと宣言をしました。
若者
でもなんだか、かわいそうです。
皆神さん
だから、自分の専門分野でどうにか説明できないかと色々工夫をし始めるわけです。でも自然科学には、そもそも「イタズラ」とか「インチキ」なんて発想はないわけです。だから真面目な科学者ほど、
インチキにコロッと騙される。
いわゆる超常現象って、科学で無理やり説明しようとすると、かえってこっぴどいしっぺ返しに遭うことがある、ということは覚えておいていいかもしれませんね。

ミステリーサークルの「設計図」
若者
皆神さん
ちなみに、ミステリーサークルには、研究者の議論とはまったく違う「オチ」が待っていました。
今日は、こんなものを皆さんのために持ってきてみました。
これ、イギリスのミステリーサークルの設計図です。
本物です。

若者
どういうことですか?
皆神さん
若者
皆神さん
「おまえたちジジイにこんな素晴らしいものが作れるわけがない。おまえらはうそつきだ」と、こてんぱんに言われた。
若者
皆神さん
他人の畑をつかって芸術作品をせっせとつくっていただけだったんです。
いわば畑に広がる野外芸術展ですね。
若者

じいさまの逆襲
皆神さん
で、彼らがどうしたかというと、メディアの前では「もういいよ。やめた!」と言いながら、実は毎週のように夜な夜な畑に出かけては、こっそりサークルを作り続けていたんです。
「今度こそ俺達の作品だと証明してやる」と。
若者
皆神さん
じいさまたちは、このような設計図をもとに、明日、この場所にこの形のミステリーサークルをつくるぞと書いて、一部の研究者たちに渡した。で、この設計図の端に金属プレートがついているでしょう? これは、ひとつのプレートを引きちぎっているんです。ちぎった金属プレートの片割れを、現場に埋めておき、もう片方をこの設計図にはり付けた。
つまり、現場から出てきた金属片と、この設計図の金属片をあわせればぴったり合う。だから、この「予告書」は本物だ、という証明の仕方です。
この金属プレートには「ミステリーサークルメーカー万歳」なんて彫ってあったりします。こうなると執念なんだか、単におちょくっているだけなのか、もうわかんないですけど。
若者

皆神さん
ちなみにこの92年に、ダグとデイブのお二人はミステリーサークルの製作を讃えられて、名誉あるイグノーベル賞を受けたりもしているんですよ。
この設計図をもっているのは、日本では私とあとひとりだけではないかと思います。とにかく、非常に珍しいので我が家の家宝になってます。
若者
皆神さん
「ウソつきだ」と言われた後は、ミステリーサークルを作るごとに設計図をつくっていたようです。しかし、さすがはプラクティカルジョークの本場イギリスのじいさまたちです。
ジョークのきつさが尋常じゃないですよね。
――超常現象と科学の関係から、おじいさんの執念という思わぬオチに話が転がりました。次回は、いまも人を惑わす「ニセ科学」について聞きます。