超能力、幽霊、UFO、ツチノコ……。超常現象・オカルト分野を30年もひたすら取材し続けている記者がいます。「なんでまた、そんなことやってんの?」。聞いてみると、「科学者」のあり方、社会の変化、深いこたえが返ってきました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
1.UFO編
2.フリーメイソン編
前編 日常を知りたい
後編 歴史を知りたい
3.ミステリーサークル編
4.ニセ科学編
5.心霊現象編
6.予言編
7.超能力編
8.なんでそんなことやってんの?編(今回)

皆神龍太郎さん(ペンネーム)。
1980年代後半から、超常現象の取材を本格的に始めたそうです。
実は皆神さん、「正体」は朝日新聞の社員です。
科学系の記者歴が長いですが、超常現象の取材は「社業というより、ほとんど趣味」だそうです。
皆神さん
たしかにそうですね……。
ご本人は「趣味」とおっしゃいますが、出版に関わった本は100冊を超えます。
専門家としてテレビ番組に招かれることもあり、この分野の第一人者です。
超常現象に興味津々な若者の前で、語ってもらいました。

「あるわけない」はヘン
若者
皆神さん
超常現象が「ある」のか「ない」のか。
私が超常現象の調査や研究を始めた約30年前には、そこらにこだわってちゃんと調べようとする人が日本には全くと言っていいほどいなかった。
科学者で超常現象を批判する人ならいました。
ですが、単に「あるわけない」といった否定の仕方なんですよね。科学者なのに、批判する対象をちゃんと調査研究した上で否定していたわけじゃなかったんです。それってやっぱりヘンでしょ?
若者
皆神さん
メディアも似たようなものでした。NHKの7時のニュースとか朝日新聞の一面で
「ネッシー捕獲か?」なんて記事をみたことないでしょ?

皆神さん
一種のタブーでもあったわけです。
若者
皆神さん
「スケプティカル・エンクワイヤー」という雑誌で、
アメリカの懐疑主義団体CSICOP(サイコップ)が出している機関誌でした。
若者
皆神さん
雑誌を読んで驚きました。占星術が当たるかどうかを科学者が確率計算をして真面目に検証していたり、自称超能力者にマジシャンが挑んでそのトリックを暴こうとしていたり、宇宙人に誘拐されたと主張する人々の証言の裏をジャーナリストが追っていたりしたんです。
バカにするのではなく、真っ正面から、ガチで挑んで調べていたんです。
ああ、こうして検証をすればいいのかと目からウロコの体験でした。

「僕の前に道はない、だけど僕の後ろにも道はない」
皆神さん
サイコップは、ノーベル賞クラスの著名な科学者やジャーナリストらが集まって、超常現象の真偽を客観的に調べる組織で、1976年に結成しました。CSIと名前は変わりましたが、いまでも続いています。でも、そういう世界の情勢は、日本ではまだまったく紹介されていませんでした。1億2千万人も人がいるのに、
日本人だけが誰も知らなくていいのか。
誰かが、こういったことをちゃんとフォーローしなくてはいけないのでは? そんな義務感を感じるともう足抜けもできず、そのままズルズルと30年でした。
「僕の前に道はない、だけど僕の後ろにも道はない」
って感じで、荒野をひたすら一人でさまよっているみたいでした(笑)
でも最近になってようやく、後に続く優秀な人たちが出てきてくれて、そろそろ引退できるかな、なんて思っています。
若者
皆神さん
日本の科学者の多くって、自分の専門分野を狭くてもいいから、ひたすら深く掘ることをもって良し、としていた気がします。
一方、アメリカの一流の科学者たちは、自分たちが知識階級であることに誇りを持ち、故に自らの知識をアメリカ社会に還元し、
社会を無知から守る義務があると考えていたようです。だから、非科学的な迷信や無知な思い込みなどをアメリカ社会から駆逐しなくてはならない、と立ち上がってサイコップが結成されました。

皆神さん
若者
皆神さん
人を騙すためのものではないと考えています。
そういったプロのマジシャンの目からすると、自称超能力者たちはトリックを使って人々を欺いている存在なので、プロマジシャンの職業倫理からすれば許し難い存在と見えたようです。

超常現象はゴミに似ている
若者
皆神さん
そう大きな変化はなかったと思います。
若者
皆神さん
たとえば、みなさんがお医者さんだとしますね。毎日、患者さんを診察して病気を治すわけなんですが、ではそれで世界から病気が消えると思いますか?
若者
皆神さん
超常現象も同じです。
今日、ある超常現象を解決しても、明日またヘンな超常現象を言い出す人がどこかで生まれるわけです。このことをゴミの清掃業に例えて、こういった人がいます。
「今日ゴミを片付けても、明日には必ず新たなゴミがでる。でも誰かがゴミを片付けないことには、やがて街中がゴミだらけになってしまう」
若者
皆神さん
客観的なデータを付けて否定しても、そんなことを全然気にしない人たちが多くて、すぐにまた同じようなことを主張してきたりしますから。

30年で変わったこと
若者
皆神さん
たとえば、UFOの時に説明した「ロズウェル事件」(1947年)などは、起きてからこの70年、人々があれこれと語り続け、一種のUFO伝説となっています。
こういった事件が伝説にまでなるには、人々の間で長く語り継がれ、話題として熟成する時間が必要なんです。
(注:ロズウェル事件=アメリカでUFOが墜落し、中から宇宙人が出てきて空軍が回収した、とされる事件)

皆神さん
調べる我々としても瞬間風速すぎて、追いかけていられないっていう感じです。
調べるのも謎を解くのも、すごく時間がかかるんですが、やっと解明した時にはもう誰も覚えていない、なんてことになっちゃうわけです。
若者
皆神さん
人々が語り続けたものが、伝説になって、それがさらに「神話」にまで昇華する。そういう過程がなくなっちゃったというのは少し寂しいですよね。
――人々を魅了し続けてきた、「超常現象」も、大きな曲がり角を迎えているようです。