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連載

#4 教えて!超常現象記者!

「超常現象なんかない!自然現象だ!」主張して転落した科学者の悲劇

専門記者がこたえます!
専門記者がこたえます! 出典: 朝日新聞

目次

 「超常現象なんてありえない。すべて科学的に説明できる」っていう人、いますよね。でもそれって、本当に可能なのでしょうか? ちょっと懐かしいあの「ミステリーサークル」は、約30年前に「UFOだ!」「いや自然現象だ!」と科学者を巻き込んだ大論争になりました。超常現象と科学のぶつかり合いは、最後に思わぬオチが待っていました。「ありえない」のワナにはまった、ひとりの科学者の悲劇。みなさんが知らない「物証」も登場します。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)

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【超常現象を30年取材してるけど、質問ある?】
1.UFO編
2.フリーメイソン編
  前編 日常を知りたい
  後編 歴史を知りたい
3.ミステリーサークル編(今回)

「あるわけない」も非科学的

 「アメリカでは、ノーベル賞をとったような著名な研究者が、時間とお金をかけて超常現象の真相を調べていますよ。日本では『調べるのはバカバカしい』と切り捨てられがちですが、『超常現象なんてあるわけない』と一方的に決めつけてしまうのもまた『非科学的』です」。

 そう語るのは、超常現象を30年間取材している、皆神龍太郎さん(ペンネーム)。
 超能力から、ネッシー、ツチノコ、死後の世界、生まれ変わり、予言、水素水、ホメオパシーまで。超常現象かいわいのテーマを30年間取材し続けている、専門家です。
(そして、朝日新聞社員です)

皆神龍太郎さん
皆神龍太郎さん 出典: 朝日新聞

超常現象のジェネレーションギャップ

 超常現象に興味津々な若者たちを前に、語ってもらいました。

 

皆神さん

ちなみに、超常現象にもジェネレーションギャップがあるんですよ。

「あの超常現象って実はこういうトリックだったんですよ」って話しても、若い人はそもそもその現象を知らないから全然ウケないっていう悲しいことが時々あります(笑) 
例えばみなさん、宜保愛子って知ってる?

 

若者

……。
「ギボギボ90分! と学会レポート」永瀬 唯、植木 不等式、志水 一夫、本郷 ゆき緒、皆神 龍太郎(楽工社)

 

皆神さん

知らないよねえ。
じゃあ、手からなんか砂みたいなものを出すサイババは?

 

若者

……。

 

皆神さん

ほらほら、やっぱり知らないよねえ(笑) 
そういうギャップがあるネタのひとつが、ミステリーサークルなんですけど、知ってますか?

 

若者

知ってます!

 

若者

知らない……。

 

皆神さん

知ってる人いた! よかった~。
10代はさすがに知らないかな。

ミステリーサークルの出現は、いろんな悲喜劇を生み出したんですよ。
超常現象と科学の関係を考えるのにもちょうどいい題材なので、ちょっとお話ししましょうか。

超常現象のすべては、科学で説明できる?(画像はイメージです)
超常現象のすべては、科学で説明できる?(画像はイメージです) 出典:PIXTA

宇宙人説 VS 自然現象説

 

皆神さん

ミステリーサークルを改めて説明すると、
畑に突如現れる巨大な幾何学模様のことです。一部の畑の作物が根本から倒れて、遠くからみたらその倒れた部分が図形になっている、というもの。
最初はイギリス南部に出現し、1980年代に、「夜のうちに変な模様が畑に現れる!」と話題になったんです。やがて日本にも出現するようになり、朝日新聞でも取り上げられましたよ。

 

若者

へ~! 新聞にも載ったんですね。

日本にも出現したミステリーサークルが話題になっていることを伝える朝日新聞紙面(1990年9月19日朝刊西部本社発行)
日本にも出現したミステリーサークルが話題になっていることを伝える朝日新聞紙面(1990年9月19日朝刊西部本社発行) 出典: 朝日新聞

 

皆神さん

で、例によって、ミステリーサークル研究家という人たちから「宇宙人が作った」という説が出たり、科学者が「いや、これはプラズマ現象だ」とか言ったり。
それはもう大きな世界的ブームになりました。

 

若者

科学者まで議論に参加してたんですか?

 

皆神さん

幽霊とか超能力とか、ほかの超常現象は、あるんだか、ないんだかもよく分からないわけですが、ミステリーサークルの場合は、どうしてできたかは別にして、目の前に「ある」ことだけは確かだったわけです。
ですので、科学者も直接調べたり、理論を述べたりすることがしやすかったんです。日本でも「プラズマ発生説」を唱えた物理学者とか、小さな竜巻で説明しようと試みた気象学者とか、議論に参加する科学者がいました。

 

若者

ミステリーサークルって、いろんな「ぐるぐる」がありましたけど、それを自然にできたものだって説明しようとしたんですか?

1991年にイギリスで出現したミステリーサークル
1991年にイギリスで出現したミステリーサークル 出典: 朝日新聞

 

皆神さん

超常現象を科学で説明することは、そう簡単なことじゃないのはたしかです。

たとえば、ミステリーサークルを「プラズマの渦が起こす自然現象」だと説明しようとした科学者にテレンス・ミーデンという人がいました。イギリスの気象学者です。
1989年に来日したのでその際には、僕も彼にインタビューして朝日新聞で記事にしちゃいました。

 

若者

(笑)

 

皆神さん

ミーデンさんは、悲劇の人なんです。
当時、ミステリーサークルは、「UFOだ」いや「自然現象だ」という議論だけでなく、「これは(宇宙人が作った)本物だ」「これは(自然現象による)本物だ」、いや「人間がイタズラでつくった偽物だ」という議論もありました。

 

若者

なんかややこしいですね(笑)

皆神さんが書いたテレンス・ミーデン博士のインタビュー記事(1989年9月12日朝日新聞夕刊)
皆神さんが書いたテレンス・ミーデン博士のインタビュー記事(1989年9月12日朝日新聞夕刊) 出典: 朝日新聞

 

皆神さん

ミーデンさんは1991年に、イギリスのテレビ局に連れられて、畑に現れた立派なミステリーサークルを見せられ、「これはプラズマ現象でできた『本物』か人による『偽物』か」と、鑑定を尋ねられたんです。

で、ミーデンさん、人造ではなく「本物」だとコメントしました。
ですが、その途端にうしろから
「僕が作ったサークルなんだよ~ん」
と、サークルの制作者が現れてきて面目は丸つぶれに。  

 

若者

うわあ、ひどい(笑)

 

皆神さん

しかもその一部始終を撮影され、そのままテレビで放送されちゃったそうです。つまりは、ミステリーサークルの専門家も、「本物」とか「ニセモノ」の区別なんて最初から全然ついていなかったってことなんです。
この事件でミーデンさんは、新たなサークルの研究はもうしないと宣言をしました。

 

若者

そりゃあ、そうでしょうね(笑)
でもなんだか、かわいそうです。

 

皆神さん

科学者って、自然現象を相手に日夜研究している人ですよね。
だから、自分の専門分野でどうにか説明できないかと色々工夫をし始めるわけです。でも自然科学には、そもそも「イタズラ」とか「インチキ」なんて発想はないわけです。だから真面目な科学者ほど、
インチキにコロッと騙される

いわゆる超常現象って、科学で無理やり説明しようとすると、かえってこっぴどいしっぺ返しに遭うことがある、ということは覚えておいていいかもしれませんね。

佐賀県でミステリーサークルが出現したことを伝える記事。日本でも様々な議論を巻き起こした(1990年10月2日朝刊西部本社発行)
佐賀県でミステリーサークルが出現したことを伝える記事。日本でも様々な議論を巻き起こした(1990年10月2日朝刊西部本社発行) 出典: 朝日新聞

ミステリーサークルの「設計図」

 

若者

「超常現象なんてこの世にはない、全ては自然現象だ」って決めつけることもまた危ないんですね。

 

皆神さん

そうなんです。

ちなみに、ミステリーサークルには、研究者の議論とはまったく違う「オチ」が待っていました。
今日は、こんなものを皆さんのために持ってきてみました。
これ、イギリスのミステリーサークルの設計図です。
本物です。

皆神さんが持ってきたミステリーサークルの「設計図」
皆神さんが持ってきたミステリーサークルの「設計図」 出典: 朝日新聞

 

若者

えっ? 設計図? 
どういうことですか?

 

皆神さん

宇宙人だ、プラズマだと、世界中でさんざん話題になったタイミングで、イギリスのダグ・バウワーとデイブ・チョーリーというふたりのじいさまが、「俺達が作ってたんだよーん」と名乗りでたんです。1991年のことです。

 

若者

え? おじいちゃん?

 

皆神さん

そうすると、UFOの着陸痕だとか宇宙人からのメッセージだと信じ込んでいた多くのミステリーサークル研究者たちが怒り出したんです。
「おまえたちジジイにこんな素晴らしいものが作れるわけがない。おまえらはうそつきだ」と、こてんぱんに言われた。

 

若者

かわいそう。

 

皆神さん

このじいさま二人組というのは、アーティストだったんですよ。
他人の畑をつかって芸術作品をせっせとつくっていただけだったんです。
いわば畑に広がる野外芸術展ですね。

 

若者

へー! あれってそういう話だったんですか!

おじいさん2人がミステリーサークルを「作った」と告白したことを伝える朝日新聞の記事。自然現象派の学者のコメントもついている(1991年9月24日夕刊)
おじいさん2人がミステリーサークルを「作った」と告白したことを伝える朝日新聞の記事。自然現象派の学者のコメントもついている(1991年9月24日夕刊) 出典: 朝日新聞

じいさまの逆襲

 

皆神さん

その作品を「お前の作品じゃない」と言われるのは、芸術家にとって非常に侮辱なわけです。

で、彼らがどうしたかというと、メディアの前では「もういいよ。やめた!」と言いながら、実は毎週のように夜な夜な畑に出かけては、こっそりサークルを作り続けていたんです。
「今度こそ俺達の作品だと証明してやる」と。

 

若者

執念!

 

皆神さん

その証明が、この設計図なんです。

じいさまたちは、このような設計図をもとに、明日、この場所にこの形のミステリーサークルをつくるぞと書いて、一部の研究者たちに渡した。で、この設計図の端に金属プレートがついているでしょう? これは、ひとつのプレートを引きちぎっているんです。ちぎった金属プレートの片割れを、現場に埋めておき、もう片方をこの設計図にはり付けた。

つまり、現場から出てきた金属片と、この設計図の金属片をあわせればぴったり合う。だから、この「予告書」は本物だ、という証明の仕方です。
この金属プレートには「ミステリーサークルメーカー万歳」なんて彫ってあったりします。こうなると執念なんだか、単におちょくっているだけなのか、もうわかんないですけど。

 

若者

手が込んでる(笑)

設計図を説明する皆神さん
設計図を説明する皆神さん 出典: 朝日新聞

 

皆神さん

日付をみると、92年8月12日とあります。
ちなみにこの92年に、ダグとデイブのお二人はミステリーサークルの製作を讃えられて、名誉あるイグノーベル賞を受けたりもしているんですよ。

この設計図をもっているのは、日本では私とあとひとりだけではないかと思います。とにかく、非常に珍しいので我が家の家宝になってます。

 

若者

設計図ってたくさんあるんですか?

 

皆神さん

全部でどれくらいになるでしょうね。
「ウソつきだ」と言われた後は、ミステリーサークルを作るごとに設計図をつくっていたようです。しかし、さすがはプラクティカルジョークの本場イギリスのじいさまたちです。
ジョークのきつさが尋常じゃないですよね。

――超常現象と科学の関係から、おじいさんの執念という思わぬオチに話が転がりました。次回は、いまも人を惑わす「ニセ科学」について聞きます。

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