2015年秋、ビル群の中、ビジネスホテルの立体駐車場に突然出現した超巨大「スモウレスラー」の壁画。その地、東京都の天王洲アイルは近年、「アートの街」として有名になっています。一体、あれは何だったのか。当時のアートフェスティバルの関係者を取材しました。(withnews編集部・朽木誠一郎)
2015年秋、東京都品川区の天王洲アイル周辺を散策していたときのこと。異様な光景に目を奪われました。本来であれば何の変哲もないビジネスホテル東横インの立体駐車場の壁に、巨大な力士の壁画が描かれていたのです。
しかし、そのときは違和感を覚えつつも、深掘りすることはなく、見過ごしてしまっていました。
近年、天王洲アイルは「アートの街」として話題になっています。そんなニュースを耳に挟んだとき、ふと「あの『スモウレスラー』は一体、何だったのだろう」と、あらためて疑問が浮かびました。
時を経ること約7年、当時、この壁画が描かれたアートフェスティバルをプロデュースした運営会社代表を取材しました。
それが株式会社ジャムザライフ代表の小林拓磨さん。小林さんによれば、この壁画はミューラル(壁画)アートフェスティバル『POW! WOW! JAPAN 2015』のために描かれたもの。
同フェスは2015年10月17日から25日の期間、東横イン立体駐車場も面する天王洲アイルのボンドストリートにて開催されました。このボンドストリートでは、現在に至るまで多様なアートの催しが行われ、「アートの街」のイメージに貢献しています。
「POW! WOW!(パウワウ)」はハワイ発のアートフェスで、2011年にスタート。世界中から集められた著名アーティストが巨大壁画を1週間かけて制作するというもの。2015年に日本で初開催されました。日本でもその後、運営会社や場所を変えて開催されています。
そして、この壁画の作家はドイツ・フランクフルトを拠点に活動するグラフィティ・クルーMACLAIMに所属するCASEさん。もともとは実在する力士をモチーフにする予定だったそうですが、作家の意向により、架空の「スモウレスラー」になったのだそう。
こちらの壁画は2016年頭まで残されましたが、その後、撤去。現在、東横インの立体駐車場には、2019年に『TENNOZ ART FESTIVAL 2019』のために制作された別の壁画が描かれています。
当時のSNSの投稿を探すと、出くわした人からの「あんまり話題になってなくてもったいない」といった内容が見つかる一方、日本発のニュースとして海外では大きく注目を浴びていたことがうかがえました。
小林さんは「記憶に残るアートになったことは関係者として願ったり叶ったりです」とした上で、こう話しました。
「近年は国内でもミューラルが流行していますが、この作品はその先駆けになったものだと感じます。作家が描きたいものを最後まで描ききったという意味で、アート本来の面白さが伝わればうれしいです」