連載
#5 ウェブメディア祭り
社会課題とどう向き合う?企業に求められる「ジャーナリズム的」発信

メディア業界に限らず、企業はジャーナリスティックな視点を必要としているーー。5月に開かれたイベントで、メディアに関わる3人が、昨今注目される言葉である「ブランドジャーナリズム」やメディアのビジネスについて語り合いました。その一部を紹介します。
【連載】「ウェブメディア祭り」
withnewsでは、編集長の交代をきっかけに、これからのメディアを考える「ウェブメディア祭り」を開催しました。ライターや編集者・プラットフォームのみなさんと語り合った各セッションの採録記事をお届けします。

AlphaDrive執行役員、統括編集長。NewsPicks for Business 前編集長。株式会社ブランドジャーナリズム代表。2009年、朝日新聞社に入社。地方記者、新規事業創出などを手掛ける「メディアラボ」、経済部記者を経て退社。ハフポスト日本版、Forbes JAPAN Web編集長を経て現職。
朝日新聞社 総合プロデュース本部 デジタル・ソリューション部 ストラテジックプランニングチームリーダー。2008年、朝日新聞社に入社。広告部門にて主にエンタメ業界の営業を担当。新規事業創出などを手掛ける「メディアラボ」を経て、2017年にデジタル広告を担当する現職。
withnewsの前編集長。2000年、朝日新聞入社。佐賀。山口、福岡と勤務して2007年の社内公募をきっかけに、デジタル部門へ異動。「asahi.com」の編集に携わり、「朝日新聞デジタル」立ち上げ、動画、データジャーナリズム、SNS連動企画などを担当し2014年に「withnews」をスタートさせた。
ブランドジャーナリズムとは
林:私は今、AlphaDriveというNewsPicksを運営するユーザーベース社の子会社の執行役員をしていますが、この度、株式会社ブランドジャーナリズムという会社をつくりました。
奥山:どういう会社ですか?
林:企業が自分たちでジャーナリスティックな手法や文脈でイシューやストーリーを発信していく「ブランドジャーナリズム」という言葉があります。2004年にマクドナルドのCMO(最高マーケティング責任者)が発表した概念で、業界では浸透してきました。
私たちは企業のPRや、企業が「伝えたいこと」を「伝わるように」変換するお手伝いをしています。ブランドジャーナリズムは国内では広告業界の人たちが提唱し始めていましたが、メディアの人間もやらないとと思い、思いきって社名をつけました。
奥山:杉本さんがいま手掛けられている仕事や林さんの仕事への受け止めを教えてください。
杉本:私自身は入社から一貫して広告畑で、今もデジタルの広告部門に所属していますが、実はメンバーには記者経験者が多くいます。みんな新聞社で働く中で、ジャーナリズムに触れた上で広告営業をしていることもあり、ブランドジャーナリズム的な考えは意識しています。

企業もジャーナリズム的な目線を持つ
林:朝日新聞社を飛び出して今や4社目になりましたが、一番最初にブランドジャーナリズムのようなことをしたのはwithnewsです。2014年、メディアラボ(朝日新聞社で新規事業などに取り組む部署)にいたときにブランドジャーナリズムの概念に触れ、記者を経験した人間が手掛けられるようになればいいなと思って奥山さんに相談しました。タイアップ広告の執筆をしたら意外と反応がよくて、そこがスタートですね。
ハフポストではビジネス部門の統括としてスポンサードコンテンツに取り組み、5年目で黒字化に成功しました。Forbes JAPANでは編集と広告の両方を担当しました。編集でおもしろい企画を作ってアワードやイベントをやり、そこに賛同してもらうスポンサーを募っていくという形です。
AlphaDriveでは、大きな企業の変革のお手伝いや、社内報、社内イベントのプロデュースなどを手掛けています。大企業を中心とした日本企業が変革し、再成長に向かうために様々なお手伝いをしていますが、コンテンツ面では、我々の事業紹介も兼ねて、企業人・組織人に捧げるビジョンブック『Ambitions』(https://amazon.co.jp/AlphaDrive-NewsPicks-VISION-Ambitions-vol-1/dp/4910487018)をこのたび創刊しました。
奥山:最近では世の中のため、社会課題の解決を考える企業も増えていると思います。
林:その目線は大事です。実際、SDGsや社会にいいことをしないといけないというニーズは高まっています。実際にやっている企業も多いですが、ジャーナリズム的な目線が大事で、そうしたマインドセットが求められています。出版社の編集者が企業に入って活動しているケースも増えています。
奥山:そのあたりはwithnewsも模索してきました。林さんがいた当時はよちよち歩きで企画にまとまりませんでしたが、今は成長しているはずなので……杉本さん、ご紹介ください。
杉本:(5月5日に発行した)パナソニックさんにご協賛いただいた朝日新聞朝刊広告別刷りの「未来空想新聞」が該当するでしょうか。データサイエンティストの宮田裕章さんに教育の未来を伺ったり、ジェンダーレスモデルの井手上漠さんに「自分らしさ」の未来を伺ったりしています。
全ページ広告企画ではありますが、記者経験もあるスタッフが記事ディレクションを担当し、チェックなどは部署総動員でやりました。広告企画にも、ジャーナリズム的な要素を加えていくのは常に心がけています。
ちなみにこの企画はwithnewsでもカテゴリースポンサードの連載としても掲載されたのですが、奥山さんはじめwithnewsのみなさまには企画段階から知見をお借りしました。

オウンドメディアはひとつのやり方
林:オウンドメディアはブランドジャーナリズムの手法のひとつです。オウンドメディアを運営している方からの相談、立ち上げの相談もあります。
オウンドメディアだけではありません。プレスリリースなどで社会的な課題にひもづけて企業として発信していくやり方もあります。
オウンドメディアはブランドジャーナリズムのひとつのやり方で、運用する場合は、自分たちはこういうメッセージを発信するためにやっている、このキーワードを検索でとりたいのでSEO対策としてやっている、大義の立て直しをしているなどですと、ジャーナリストの活躍の余地があります。
奥山:オウンドメディアに限らずですね。ほかの施策にも通じるのが社会課題にどう関わっていくかです。
林:社会と関わりのない企業はほとんどありません。採用系の文脈で、社員の方がジャーナリスティックなメッセージを発信している事例も増えてきています。
奥山:朝日新聞としても、新聞社だからできた・できそうみたいなことはありますか?
杉本:オウンドメディアではありませんが、「CRAFTWORKS」という共同メディアをサッポロビールさんにご提供いただき運営しています。
強みでいうと、情報を客観的に語れるところです。オウンドメディアではどうしても主語になってしまうところを、共同メディアだと客観視できる。
手仕事で作っていることへの思いや、事実にもとづいたブランドメッセージを、共同でメディア運営することでパッケージで伝えられる。オウンドメディアに近いのですが、共同でやることで客観的なバランスをとっています。ちなみにこちらもwithnewsのみなさまに、メディア運営のお力添えをいただいています。
奥山:「CRAFTWORKS」では、会社の「職人を大切にしたい」というメッセージを伝えることを大事にしています。特定の製品やサービスがメインになると、新聞社の編集局として動ける部分と動けない部分が出てきてしまいますが、職人を大切にしたいという、企業理念と重なるところを伝える場面では、ジャーナリズム的な手法がフィットするのかなと思います。

「編集も広告も同じ山頂を目指す」
杉本:私は世の中にいらないビジネスはないと思っており、パートナーやクライアントをリスペクトしています。
ただそれはどんなビジネスであっても言えることかと思いますので、殊に新聞社のビジネスとしては、奥山さんの受け売りですが、「編集も広告も登山ルートは違っても、同じ山頂を目指している」ということを意識しています。
編集は生活者のためになることを意識して日々報道し、広告は企業のためになることを意識して日々営業しています。以前は生活者と企業を対照的に見てしまっていましたが、この奥山さんの言葉を受けて「企業は生活者の集合体でもある」と考えるようになりました。
「同じ山頂を目指しているんだ」と、報道に関わらないビジネスであっても、そこを意識してクライアントと意思疎通するように気をつけています。
奥山:今の話で林さんに聞きたいのですが、クライアントのニーズとして、担当者だけでなくその上司から様々なリクエストが寄せられると思います。ブランドジャーナリズムとして言わなければいけないこと、守らなければいけないことについて、クライアントにはどのように伝えていますか?
林:さっきの杉本さんのお話でリスペクトとありましたが、リスペクトが先なので、クライアントの言いたいことはできる限り理解したいと思っています。ただ、譲れない点は「うそは書けない」というところです。いいと思っていない商品をいいとは書けません。フラットな目線でいいと思ったらいいと書きます。

キャリアとして確立させたい
林:ビジネスに編集力やジャーナリスティックな手法が役に立っていく場面はあるので、記者・編集者の新しいキャリアについてちゃんとしたムーブメントを確立したいと考えています。ブランドジャーナリストの先人がすでにたくさんいますし、そういう方たちが価値を認められて、キャリアとして確立できれば。
海外ではブランドジャーナリスト求むといった求人があります。そこが盛り上がってくれば、企業のみなさんの課題が解決に近づくかもしれません。
杉本:林さんが向かおうとしているところを、もっと力を入れてやっていきたいですね。ちょっと気を抜くと、生活者と日々向き合っている中で得られるジャーナリズムの強みを忘れがちです。自分たちの強みときちんと向き合って、企業や団体に価値を提供していく。報道機関の強みを活かして、地に足をつけて頑張っていきたいです。
奥山:お話を聞いて、ますます、林さんと一緒にお仕事がしたくなりました。ありがとうございました。
(構成:withnews編集部・河原夏季)