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連載

#11 未来空想新聞

入試は廃止、「脳の筋トレ競争」超えた未来 実践を通じた成長を

データサイエンティスト・宮田裕章さんに聞く教育の未来

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目次

データサイエンティストとして、医療やヘルスケアの分野で実践的な活動を続けてきた慶応義塾大学医学部教授の宮田裕章さん。2024年の開学を目指す、岐阜県飛驒市を本拠地とする私立大学「Co-Innovation University(仮称。CoIU=コーアイユー)」の学長候補に就任しました。その宮田さんに、将来の学びや教育をどう変えていきたいか、聞きました。

テクノロジーを使い、個に寄り添う

宮田さんに教育の未来像をたずねると、
「2039年には、大学入試がなくなっている」
と、意外な答えが返ってきました。「未来ある子どもたちを、受験戦争ですり減らさない社会にするため」だと、熱を込めて語ります。
「知識偏重で『脳の筋トレ力』を評価しているような日本の入試の現状は、打破していきたい」

宮田さんは新設する大学でも、知識や実技だけを問う「一発勝負の入試」は極力なくす考えです。では、どう合格者を選ぶのでしょう?
「受験生が入試の型に合わせて学びを窮屈にするのではなく、大学側が受験生の個に寄り添う評価を行うようにする。私たちはテクノロジーを使うことで、個々の能力や経験などに紐づく『多元的な評価』を積極的に採り入れていきます」

データサイエンティストとしての宮田さんの原点は、高校時代にあります。科学や哲学の本を読みあさっていたそうです。研究の軸足をヘルスケア領域へ置いたのは、大学2年生の時。「激変する世の中で、伸び代があるのはヘルスケア領域。鍵になる知識はデータやテクノロジーだ!」との気づきが、そのまま今の活動に結びついていると言います。

そんな宮田さんは、2016年にビッグデータを活用する産学官連携の情報プラットフォーム「PeOPLe(ピープル)」の提唱に関わり、ヘルスケア領域に革新をもたらしました。これは保健・医療に関する個々人のデータを国や特定企業で独占せず、各機関がそれぞれデータを保持したまま異なるシステム間でも連携できるようにする試みです。こうした「自律分散型」の仕組みは、学びの領域にも生きてくると宮田さんは考えています。

「今は『メタバース(三次元の仮想空間)』、『Web3.0(次世代インターネット)』、『DAO(分散自律型組織)』といったブロックチェーン技術を基点とする大きな時代の潮流があって。その流れの先に、教育の改革もあります。言わば、個々人の『こうしたい』という思いを響き合わせる『多層型民主主義』の教育版の実践ですよ」

CoIUは単科大学として「共創学部」を設ける計画です。学生それぞれが描く「創(つく)りたい未来」に向けて、実践型で地域課題などに取り組んでいく。何を軸にした学びをしたいのか、どこの地域の人とつながりながら学びたいのかは、それぞれの学生が決めていく——。そんな多元的な学びを下支えするのが、ネットワーク上でデータベースを管理・共有する技術なのです。

「課題先進地」=地方から世界へ発信

さらに、大学新設のもう一つのテーマは、地方創生です。
「CoIUでは、駅前の商業施設作りに携わったり、伝統文化の地域と関わったりなどしながら、地域そのものを一緒にデザインしていきたい」と話す宮田さん。地方に設置する意義として、東京などの大都市よりダイナミックな変化をもたらすことができるためと言います。その上で、「地域の人たちの未来に寄り添い、実践の中で学んでいく。さらにそのノウハウを地域間で共有して未来を作っていきたい」と話します。
「飛驒市は人口が2万人ほどで、過疎化・少子高齢化の〝課題先進地〟なんです。そこでの課題解決のノウハウは、世界へ向け発信できるかもしれません」

宮田さんは、一貫して、「いのちを守る」領域で腕を振るってきました。自身のキャリアの起点になったのが、日本の手術症例データベース「NCD(National Clinical Database)」のプロジェクト。宮田さんは、医療の質の向上に努めてきました。最近は、厚生労働省とLINEによる新型コロナウイルス感染症対策のための全国調査が注目を浴びました。今も、「ビッグデータでコロナと闘う」日々に変わりはありません。

「ともに描く未来」に貢献し続けたい

そんな宮田さんが「学び」に目を向けるのは、未来の担い手である子どもたちも、「人生100年時代」を生きる大人たちも、「生涯続く学び」を豊かなものにしたいという思いがあるからです。
「デジタルというのは、あくまでも手段。未来から逆算して『こうあるべき』という社会の形を実現していくことが大切です」

常に視線を「社会」に向ける宮田さんに、あえてたずねてみました。
「2039年には、どんな自分でありたいですか?」

宮田さんは、「自分の未来には、正直関心がない」と笑いつつ、こう続けました。
「大学の名前に『Co(ともに)』という言葉を入れたように、どんな領域であれ、多くの人たちと『ともに描く未来』に貢献し続けている。そんな自分でありたいです」
最後に、今の若者について宮田さんに聞くと次のように話しました。
「Z世代、α世代は生まれながらにして世界とつながり、自分たちの生き方を見てきています。未来を見る力も優れ、倫理観も洗練されています。残された時間だけでなく、資質としても圧倒的に可能性があります」


世界をこう変えたいという「問い」を大切に。その「問い」から行動に踏み出してほしい。
 
宮田裕章(みやた・ひろあき)
1978年生まれ、岐阜県出身。慶応義塾大学医学部 医療政策・管理学教室教授。東京大学大学院医学系研究科 医療品質評価学 特任教授。2003年、東大大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻修士課程修了。保健学博士(論文)。東大大学院医学系研究科医療品質評価学講座准教授などを経て、現職。専門はデータサイエンス、科学方法論。近著に、『共鳴する未来』『データ立国論』など。
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