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連載

#6 ウェブメディア祭り

「読者の言いなりか」批判受けても新聞社がウェブメディア続ける理由

ニュースを読み手と一緒につくる場所

購読者数の現象など、新聞業界を取り巻く状況には、厳しいものがあります。そうした中で、良質な情報を発信するには、何が必要なのか。新聞社でウェブメディアを運営する、4人の「中の人」たちが、オンラインイベントで語らいました。
購読者数の現象など、新聞業界を取り巻く状況には、厳しいものがあります。そうした中で、良質な情報を発信するには、何が必要なのか。新聞社でウェブメディアを運営する、4人の「中の人」たちが、オンラインイベントで語らいました。

目次

近年、新聞社がウェブメディアを立ち上げることが、珍しくなくなりました。ニュースの価値判断に読み手の感覚を採り入れたり、記者の顔が見える記事を配信したり。紙面を持つはずの報道機関が、どうして挑戦を続けるのか。地方紙発のウェブメディア「まいどなニュース」「あなたの特命取材班」関係者と、withnewsの運営に編集長として8年間携わり、今年5月に退任した奥山晶二郎が、共に語らいました。

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【連載】「ウェブメディア祭り」

withnewsでは、編集長の交代をきっかけに、これからのメディアを考える「ウェブメディア祭り」を開催しました。ライターや編集者・プラットフォームのみなさんと語り合った各セッションの採録記事をお届けします。

 

伊藤 大介(いとう・だいすけ)氏
神戸新聞まいどなニュース編集部。2004年神戸新聞に入社。運動部や支局勤務を経て、神戸新聞がデイリースポーツや京都新聞、山陽新聞、北日本新聞など地方紙メディアと連携して立ち上げた関西発ゆるふわネットメディア「 まいどなニュース(まいどな)」の編集部。この4月で創刊3周年を迎えた。

 

伊藤 大地(いとう・だいち)氏
朝日新聞デジタル」編集長。インターネットメディア協会理事。2013年にザ・ハフィントン・ポスト・ジャパンに参画。2015年にBuzzFeed Japanに入社し、2019年にオリジナル編集長に就任。2020年9月の退任後、同年11月に朝日新聞社へ入社。2021年春より現職。

挑戦と「伝統の尊重」を両立させる

奥山:このセッションでは、組織内で新しいことを始めるというテーマについて、話を聞いていきます。withnewsの立ち上げ経緯を振り返ると、社内調整が一番大変でした。パワーポイントでつくった資料を100枚くらい印刷し、当時の役員に配り、構想を説明した記憶があります。

福間:「あな特」は元々、社会部の遊軍(記者クラブなどの持ち場がない記者)の企画としてスタートしました。取り組みを社内全体に広げていくのは簡単ではなかったと思います。

伊藤大介:新聞の購読部数が減る中、新たな収益の柱が欲しい。3年前、そんな意図から、「まいどな」がつくられました。うまくいかなければ、すぐ畳む方針だったんです。立ち上げから数字で結果を出さなければいけませんでした。

伊藤大地:新しいことに対するデフォルト(初期値)の感触って、組織の規模感により異なると思うんです。

小さい組織は何かやらなければ始まらない。一方で大きいところには、既に何らかの企画を立ち上げ、続けてきた人がいます。その取り組みをいきなりスクラップ(廃止)しようとすると、嫌われて物事が進まなくなる。私も入社後、1年半かけて学びました。

福間:よくわかります。新聞社は、規模の大小を問わず歴史がある。新しいことをしようとするとき、抵抗感を抱く人が少なくない、という現実があるんですね。小さな成功を積み重ねて、事業継続の流れをつくることが大切になるのかもしれません。

「朝日新聞デジタル」編集長の伊藤大地さん
「朝日新聞デジタル」編集長の伊藤大地さん

現場の意志や発想を大切に

奥山:編集部のメンバー構成についても話したいです。withnewsのケースでは、最初は専従者が2人だけでした。ほぼ1人の時代もありましたが、規模感よりはメンバー間の相性を重視してきたところがあります。

福間:あな特には、読者から色々な要望や情報が寄せられるのですが、それらに十分対応できるだけの取材体制を、整えるのはとても難しいです。必要に応じて社内の別部署の記者に声をかけて、参加してもらいました。

伊藤大介:まいどなでは最初、専業で(社内から記者を)2~3人引っ張ってきました。あとは(関連会社の)デイリースポーツ出身の部長の伝手(つて)で、社外のライターを集めてもらいました。神戸新聞の社員に、別の仕事と兼務してもらうと大変ですので。外部ライターの登録者は100人くらいで、メインで書いてくれているのが50人ほどです。

奥山:withnewsでも、外部ライターの方々の力を借りてきました。記者が原稿の編集業務を兼ねています。とはいえ、新聞社には(様々な分野を取材できる)プロパー(専門家)が多くいる組織です。そういう場所で新しいことをする上で、意識すべきことはありますか?

伊藤大地:例えば、私から編集関連企画の発案をするケースがあります。その結果出てきた原稿って、力強い内容にはなりづらい。デスクや記者の内側から出てくるエネルギーが少ないからです。

むしろ色々な議論を経て、取材の現場から寄せられるコンテンツは強くなりますね。編集長発の企画をやったとか、やらないとかは、どうでも良い。現場の意志や発想を大切にすることが重要だと思います。

神戸新聞「まいどなニュース」編集部の伊藤大介さん
神戸新聞「まいどなニュース」編集部の伊藤大介さん

「最終的にはなくなるのがいい」

奥山:社内で新しい事業を展開すると、そのエッセンスが、既存のサービスに採り入れられる場合があります。組織としては良いことです。ただ立ち上げた側からすれば「取られた」というか、複雑に思う瞬間もある(笑)。まいどなの場合、どう構えていますか?

伊藤大介:確かに、新聞社本体が、我々がやっていることをまねするケースはあり得ますね。僕はそれでも構わないんじゃないかと思っています。とはいえwithnewsでも、新聞の枠内で書けないネタを取り扱うケースが、まだ多いのでは?

奥山:そうですね。読者とインタラクティブ(双方向的)な関係性をつくるという点でも、withnewsにはまだまだ独自性があるかもしれません。あな特でも、事業展開にあたって、「自分たちじゃないとできないこと」という基準で施策を考えているのでしょうか?

福間:はい。私たちは、読者から情報を募っています。提供された情報に触れると、新聞社として気付けなかった社会課題に行き当たる場合があるんです。

異なる人から同じような内容の情報が寄せられたとき、裾野がすごく広いテーマにつながっている場合もある。一見マイナーなようで、実は関係する人が多いという話題を掘り下げることは、難しいですができるだけやりたいと考えています。

奥山:そういう(双方向的な)要素を大切にするスタンスは、あらゆる新聞社の記者や記事に必要かもしれませんね。最終的に目指すべきゴールについては、どう考えていますか?

福間:昔は新聞記事の内容に対して、読者が電話で感想を伝えてくれることがありました。ただ、かつてメインだった読者層は今、どんどん購読をやめています。現在の状況が続けば、新聞社の感覚が、世の中の感覚から離れてしまうのではないか。そうした危機感がある。

その意味で、あな特が持つ双方向性が全体の取り組みになり、あな特がなくなるのが一番良い形なのかな、と思います。

西日本新聞「あなたの特命取材班」事務局の福間慎一さん
西日本新聞「あなたの特命取材班」事務局の福間慎一さん

有料と無料のメディア、役割の違いは

奥山:現在、メディアから記事の提供を受けるプラットフォームが、強い影響力を持っています。そうした状況下、媒体として、どう向き合えばよいのでしょうか?

伊藤大地:記事が無料で読めるのか、有料なのかで違うと思います。有料の場合、読まれることが全ての始まりです。ただし、(PVなどの)数字はメディアへの期待値を示す指標であって、必ずしもコンテンツ自体の評価ではない。

記事との出会いから、いかにしてサイト自体への愛着を引き出していくか。そのような、読まれ方の「深さ」について考えなければなりません。

奥山:朝デジが採っているサブスクリプション(サブスク)モデルは、サービスに対して、1カ月単位でお金を支払う方式です。サービスの全体像の設計が大切ですが、私たちは一本一本の記事をどうつくるかに、ついつい打ち込みすぎてしまいます。

伊藤大地:究極的に言えば、月に一本しか記事を読まない利用者にも、登録をやめないきっかけとなるような体験が提供できれば良いと思います。

奥山:その点、あな特には、サービスとしての設計思想があるように感じます。

福間:あな特の記事は今のところ、無料サービスで出しています。理由は、読者の課題を解決したいからです。西日本新聞を信頼してもらうには、多くの人々の声につながらないといけません。そのために、まずは記事を読んでもらう必要があります。地方紙はまだまだ必要な存在だと思ってもらえなければ、先に進めません。

奥山:中長期的に読者を捕捉していくということですね。一方で、まいどなの場合、無料広告モデルを突き詰めています。有料モデルとの役割分担については、どのように考えていますか?

伊藤大介:神戸新聞本体の場合も、以前はネット上の大半の記事が無料で読めました。現在はサブスクモデルを導入しているので、有料会員を獲得する方向で、事業を軌道に乗せないといけません。会社全体で収益を上げるためにも、まいどなは無料モデルを追求しています。

実のところ、そんなに難しいことは考えていなくて、どれだけPVを下げ止められるかに集中している。結果的に、社内でうまく役割分担ができています。

「withnews」前編集長の奥山晶二郎
「withnews」前編集長の奥山晶二郎

「本業じゃない」壁を越える方法

奥山:サブスクモデルについて考えることは、無料域に「どんな記事を出さないか」検討する作業でもあります。選挙や災害関連などのコンテンツが代表例です。このような出稿の棲(す)み分けについては、どう思われますか?

伊藤大地:朝デジではつい最近まで、配信記事全体の8割が無料で読めました。にもかかわらず、読者から料金をいただく構造になっていた。そうしたウェブサイトにお金が払えるのか。この根本的な問題を解決する必要があり、現在はほぼ全ての記事の閲覧が有料になっています。こうしたサブスクをめぐる戦いに、記者個人も含めて入っていかねばなりません。

一方で若い読者が、メディアに対してお金を払いにくいという事情はあります。しかし彼ら・彼女らも30代、40代になれば、色々な社会課題にぶつかることでしょう。そのときに役立つ情報源として、朝デジが選択肢にならないといけない。20代の頃にサービスに接触し、より時が経ってから、実際に登録してもらう。そのような関係性を築きたいですね。

奥山:一方で、デジタルまわりの仕事が増えることに対して、社内で「塩対応」される場合もあるのではないですか?

福間:確かに、業務の負担感との戦いではあります。あな特の場合、読者から寄せられた情報の取材に、その内容に関連する担務の記者を絡めるようにしてきました。体制を一からつくるのではなく、記者個人の関心や担務に引きつけて進められるよう、意識しています。

伊藤大介:僕たちはまいどな専業なので、「通常業務+α」という構図ではありません。神戸新聞の記者が記事を書くこともありますが、無理強いすると負担になってしまう。「兵庫県内の話じゃないから紙面にはそぐわない。でもどうしても書きたい」みたいなネタがあれば、その受け入れ先としてどうですか、とお声がけしています。

ニュースの価値判断が読者を遠ざけた

奥山:新聞社内には「特ダネを書いたらすごい」という、旧来の価値観が強く残っています。新しいことをする人が、きちんと評価されるには、どうすればよいのでしょうか?

伊藤大地:新規事業を提案すると「それ、うまくいかないんじゃないの?」と言われる機会って、すごく多い。大切なのは、失敗を振り返られるチームをつくることだと思います。

「これをやったら滑りました」というメールが、メンバー間で交わされるチームって成功するんです。一方で紙媒体の場合、トライアンドエラーが許されづらい。(新聞社のように伝統を重んじる)堅い組織では、ある程度新しいことがやりやすい部署や職域で得られた知見を、社内で共有するのが良いでしょう。

奥山:今の話題を引き継いで、まいどなの過去記事に触れておきたいと思います。

昨年12月29日に公開された、神戸新聞入社3年目の記者によるコラムが、ネット上で話題を呼びました。取材中に撮影し、紙面に採用されなかった写真を取り上げ、ボツにしたデスクにもの申すという内容です。最終的には新聞本紙にも載りました。

【関連記事】「デスク、納得できません!」写真がボツになりまくる新聞記者3年生 一体これのどこが悪いのか?お蔵入りになった「自信作」を見てほしい

伊藤大介:デスクの懐の深さもあり、成立した記事ですね。神戸新聞には兵庫県三田市の話題を中心に扱う地域面「三田版」があります。コラムを書いたのは、この紙面向けに取材をする記者です。三田版での記事の取り扱いについては、本紙社会面などと比べて、チャレンジングに書いて良いという雰囲気が強く、実現した経緯があります。

奥山:興味深いです。ところでwithnewsには、読者の疑問に答える「取材リクエスト」機能があります。始めた当初は「読者の言いなりになるのか」という批判が社内から寄せられました。

新聞社の社員はずっと、何がニュースかを考えることが仕事だと思ってきた。でも、それを続けてきた結果、読者の肌感覚と異なる価値判断が増え、心理的な距離ができてしまったのも事実です。新しい取り組みをネガティブに捉える人たちと、どう向き合っていけばよいのでしょうか?

福間:たくさん寄せられた読者の声から、何がニュースか判断する営みは、普段(の新聞向け取材)と何も変わりません。ただ、それが行き過ぎると、おっしゃるように読者が離れてしまいます。

(現場から新たな取り組みを始めるという意味で)ボトムアップは大切。そして、どこかのタイミングで、社内で力のある人たちが、チャレンジする人々を引き上げてくれる。そういう関係性を広げていくことが大切だと思います。

登壇中に笑顔を見せる四人の様子
登壇中に笑顔を見せる四人の様子

「自分たちを誰も知らない」ところから始める

奥山:新聞社がウェブメディアを持つメリットについて、視聴者から質問が届いています。

伊藤大地:私がBuzzFeedにいた頃は、いかに大手メディアが取り組んでいないことをするか考えていました。ネット上の情報のファクトチェックなどが最たる例です。

その点、新聞社では、報道機関としてやるべきことを、シンプルに考えて行動できます。ひとたび事件や事故、災害が起きれば、すぐにヘリを飛ばして、記者が現場に急行できるといった点は強みです。

福間:私自身、プラットフォーム企業に出向していた時期があります。そのとき感じたのは、実際に取材して記事を書く点で、報道機関にはかなわないということです。特に地方紙にとって、全国につながることができるウェブでの発信は、なくしてはいけない機能だと思います。

伊藤大介:新聞社が運営するウェブメディアというのは、オールドメディアの取材力と、ネット経由の拡散力を兼ね備えた「良いとこ取り」ですよね。

SNSなどで話題になっているテーマについても、直接取材し、報道機関として最低限やるべきことを尽くした上で記事を出しています。新聞社の中のウェブメディアには、良い意味で(倫理的な)枷(かせ)がはまるのかなと。

奥山:付け加えると、あるテーマを取材する上でのリスクが分かる人間が、社内に多い点はめちゃくちゃ強い。リサーチ段階で感触を聞き、引っ掛かるところがあれば取材しない、といった判断が下せます。ウェブ上にあふれるセンシティブなテーマにも、安心して手を付けられます。

そして別の視聴者の方から「10代に向けてウェブメディアができることはあるか」という質問もいただきました。

福間:購読者数が減っている現実を見つめ、「自分たちは誰も知らない媒体になりつつある」というところから、スタートしなければならないと思っています。九州には西日本新聞がある。困ったことがあれば言えるメディアがある。そう感じてもらわなければいけません。

伊藤大介:以前、兵庫県内のある高校生が、学校でいじめられているとYouTuberに告白しました。その後、一緒に学校に突撃したことで、事態が動いたのです。良い話とも、危ない話とも言える内容でしょう。ただ我々も、10代にとってのYouTuberのように、困り事について打ち明けてもらえる存在になりたいと思います。

奥山:最後に補足すると、私は読者が「読みたくない記事」を届けたい。スマホネイティブの環境では、自分の感性に親和的な情報やSNSアカウントに囲まれがちです。すると「ちょっと違うな」と思われた途端、必要以上に距離が生まれてしまいます。

言い換えると、ある記事に興味がないと思うのは、要らないのではなく、その内容を知らないからかもしれません。適切な形で出会えれば、読者の関心の幅が広がる可能性はある。だから今後も「読みたくない記事」を届け続けたいと思います。

(構成:withnews編集部・神戸郁人)

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