妊娠や出産を理由に職場で不当な扱いを受ける“マタハラ(マタニティハラスメント)”が近年問題になっています。日本でも法整備が進んでいますが、未だに悩みの声が絶えないのが現状です。
“マタハラ”など労働問題に取り組む弁護士の圷(あくつ)由美子さんに話を聞きました。
圷さんは「退職しては」といった発言が何度も繰り返される場合、男女雇用機会均等法(以下、均等法)第9条第3項で禁じられている、妊娠等を理由とする「不利益取扱い」の一つ、「退職強要」にあたるとします。
このケースがさらに進行して「配置計画で新しく人員が入ることが決まった」「だからあなたはもう要らない」として解雇することも禁じられており、そうした解雇は無効になると言います。
退職強要や解雇にまで至らないケースでも、「妊娠を告げるや『無責任』『退職しては』と返した上司の発言そのものが、均等法第11条の3第1項にいう『ハラスメント(嫌がらせ)言動』と判断される可能性がある」とします。
このような、いわゆる“マタハラ”が疑われる場合、相談する公共窓口としては、厚生労働省が設ける『女性にやさしい職場づくり相談窓口』、都道府県労働局雇用環境・均等部(室)があるほか、都道府県などにも労働相談専門の窓口があります(例えば東京都では労働相談情報センターなど)。
女性にやさしい職場づくり相談窓口
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/advice/
労働組合や、事業者が設置するハラスメント窓口、人事労務の部署にも相談できますが、そもそも有効に機能しているか、事前チェックをするのがよいとのこと。「どこに相談したらよいか迷われる場合、弁護士会や労働問題専門弁護士に相談いただくのもいいでしょう」(圷さん)。
日本労働弁護団ホットライン(相談料無料)
https://roudou-bengodan.org/hotline/
同弁護団女性弁護士・働く女性限定ホットライン(相談料無料)
https://roudou-bengodan.org/sodan/sexual-harassment/
「“マタハラ”という言葉には前述の『不利益取扱い』と『ハラスメント言動』が混在していますが、法的に両者は区別されています」と圷さん。
「不利益取扱い」とは、均等法第9条第3項において、事業主に対して明確に「禁止」しているもの。事業主が、女性労働者について、妊娠・出産関連の理由で解雇や降格、退職強要、正社員の非正規への変更強要などを行うことです。
「ハラスメント言動」とは、均等法第11条の3第1項において、事業主に防止措置を「義務」として求めているもの。例えば妊娠の報告を受けた上司などが、解雇や降格などの不利益な取扱いを示唆したり、産休の申し出に対し、それを阻害したり、業務に従事させないなどの嫌がらせをしたりすることです。
※なお、育休など育児介護休業法関係の制度利用を理由とする不利益取扱いについては、同様の定めとして育児介護休業法第10条などが、同法関係の制度利用へのハラスメント言動については育児介護休業法第25条がある。
均等法第11条の3第1項は2016年の改正で定められた規定で、法的効果はセクハラやパワハラと同様です。これが追加された理由を、圷さんは以下のように説明します。
「解雇、雇止め、降格などによる事業主への法的処分までには至らないものの、上司や同僚による心ない言動で傷つき、働き続けることが困難になるケースが多くありました。『女性活躍推進』をするというのであれば、そもそも、そうした言動の予防を法でルール化してほしい、という社会的な機運が生じたからです」