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「息子とデート」子どもを〝道具〟にする危うさ 親だけ満足でいい?
中野円佳さんが気づいた嫌悪感の正体
「ママと息子の初めてのお泊まりデート」をうたったホテルの宿泊プランがSNSで批判を浴びた後、中止になりました。しかし、その問題点を考えると、プランに限った話ではないことが見えてきました。
ジャーナリストの中野円佳さんがこのプランを見た時に感じた危機感は、「子どもを”道具化”する」ことを社会が後押ししてしまうことだったと指摘します。そして類似した演出は、習い事や「二分の一成人式」など、子どもの日常にあふれているとも言います。気づかないうちに親子関係に刷り込まれている「危うさ」。「親子の距離感」について考えました。
――宿泊プランは、数年前から売り出されていたものの、SNSをきっかけに炎上しました。中野さんは何を感じましたか。
中野さん) 私は、プランについて、日本のママ友から教えてもらいました。最初、サイトを見た瞬間に、生理的な気持ち悪さみたいなものを感じました。それは、広告でお母さん役と息子役のモデルさんがくっついて、ベッドに入っていて、「初めてのお泊まり」という響きも含めて、恋愛・性愛にひもづけた印象が強く、「やり過ぎかな」と思ったからです。
ただ、性愛的に捉える方が過剰だという意見もありますし、私も、別に「ほほえましく親と子が思い出作りするならありだな」と思って中身を読んでみたんです。そこで別の問題が見えてきました。
中野円佳(なかの・まどか)さん: ジャーナリスト・東京大学大学院教育学研究科博士課程。日本経済新聞社で8年記者を務め、フリーに。著書に『「育休世代」のジレンマ~女性活用はなぜ失敗するのか?』、『なぜ共働きも専業もしんどいのか~主婦がいないと回らない構造』。2017年よりシンガポール在住。
――性愛にひもづけたものに感じる嫌悪感とは別の問題とは?
中野さん) プランの内容の一部には、ホテル側が、「子どもにママをエスコートするやり方を教える」など、母親を「ときめかせる」ための演出を指南するようなものが色濃く出ていました。
子どもも「お客さん」のはずなのに、「『息子』がこういうことをやってくれます」というような、奉仕側、ホテル側の演出の役者さんみたいに扱われ、親を喜ばせるために子どもを「使っている」感が否めないと思いました。
――中野さんはプランについての論考で「子どもは親を感動させるためにいるわけじゃないことを、広告業界の方々、家族向けサービスにかかわる方々は肝に銘じておいてほしい」と指摘しています。今回のプランは、マーケティング側の危うさを感じますか?
中野さん) もちろん、親側にも気をつけなければいけないことがあります。子どもを自分のアクセサリーのようにとらえている人はいると思いますし、親の気に入るように子どもを教育するというのは昔からあるでしょう。
一方で、今回のプランは、「親を子どもがエスコートする」という一見、ほほえましい範囲にも見えることをさせることで、子どもを親を喜ばせるために使っているように見えます。
1泊2日のホテル旅行だけでなく、そのような意識を持つ親のもとで10年、20年と育てば、「毒親と離れられない子ども」を生んでしまうかもしれない。
だから親側は、子どもを「自分を喜ばせるための道具」にしないように注意していかなければいけないし、ましてやサービス提供者が「子どもを親を喜ばせるために使う」ことを後押ししてはいけないと思います。
――親目線で見ると「良さそうだな」という仕掛けもある。
中野さん) 母子旅の枠組み全てを否定する必要はないかと思います。以前このプランを特集した雑誌の記事では、母子2人で楽しもうという描かれ方だったので、そこまで違和感はありませんでした。
子どもが楽しめるというなら、それを第一に売り出せばいい。子どもが楽しく体験できるという売り出し方であれば、母子旅であろうが、夫婦旅であろうが、それに対して非難は来なかったはずです。
でも、今回は、「子どもにとって楽しい」を第一にしていない、親を喜ばせるために子どもにやらせるという見せ方が強すぎました。
――「子どもが喜んでいるんだからいいじゃない」という反応もありそうです。
中野さん) 子どもによっては、習い事や勉強も「親が喜んでくれるから頑張る」というタイプの子がいます。自分がやりたいわけじゃないけど、お母さんがうれしそうだからやる。お母さんが褒めてくれるから、頑張る。子どもは親の顔色をうかがっています。
それを見て、「子どもが喜んでいるから良い」という論理を使うのは親の都合のいい解釈に過ぎないのではないかと思います。
中野さん) 習い事も塾の宣伝も保育園も、お金を払うのは親なので、「親にとっていかに便利か」という親に向けたメッセージになりがちです。子どもは声を上げられない。必然的に、子どもの視点を見落としやすくなります。
我が家では、必ず子どもが参加するアクテビティは子どもに参加したいかしたくないか尋ねます。この「母親をときめかせる」プランの場合、子どもに「参加したい?」と聞くのは、誰なのでしょうか。母親が自分で聞くのでしょうか? あるいは父親が母親のためにプランするのなら、子どもを使わずに自分がエスコートしては?と思います。
――今回のプランに限らず、CMでもSNSでも「子どもとデート」という表現は日々見られますね。
中野さん)「デート」という言葉だけでは、私自身は目くじら立てなくても…と思います。CMもフェイクの世界として見ているだけなら許容範囲かなと。
ただ、呼び方は自由だけど、エスカレートさせるべきではないと思います。恋人のような台詞を言わせて喜ぶとか、キスなどについて「子どもにとっての初めての相手は自分」という表現を使う人には違和感を覚えます。
子どもを自分の所有物のようにして、思うようにコントロールしようとする行為にもつながりかねないと思います。
――もちろん、そんなつもりはなくて、「ネタ」で発信しているんだから、目くじらを立てるな、という反論もありそうです。
中野さん)「目くじら立てるな」という話は、さまざまな分野であります。私が書いた「上司の『いじり』が許せない」 (講談社現代新書)でも触れていますが、ネタ的に振る舞い続けると内面化してしまう。
親にとってはネタかもしれないけれど、一つの刷り込みになる。そういう行動が刷り込みになる。「ネタ」という言い訳はきかないと思います。
――「息子とデート」したくなるママに問題があるのでしょうか。
中野さん) 実態として「夫がいない」こともあります。平日もワンオペで、土日も夫がいないことが多い人は、母子で出かけることが多くなる。そんな苦しい時、旅先で子連れへのサポートがあって、選択肢が広がっているのは有り難いことです。
また、いつもきょうだいが一緒で、親が自分の事だけを気にかけてくれる時間がほしいと思う子どももいると思います。そんなときに、母と息子、母と娘、父と息子、父と娘、どの組み合わせであれ、2人だけで出かける時間を作るというのはいいのではないでしょうか。それを敢えて「母と息子」だけに限定して語る必要はないはずです。
「息子とデート」の「炎上」を傍観していた時、筆者は正直、「何がそこまで問題なのか?」と感じていました。
違和感を持てないのは「何かの感覚がまひしているからなのかも」とも思いました。
中野さんにインタビューをさせて頂きながら、震かんしていました。筆者の中にも、「子どもは親に感謝する」「親を喜ばせるために振る舞う」ことを当然と感じていたところがあったように思えたからです。
もちろん、子どもに強要しているつもりはありません。でも、長年積み重ねてきた意識は、時に、自分にとって都合の良い解釈を与えてしまうもの。
「親孝行すべき」
「子どものため」
怖いのは、そんな「『親にとっていかに便利か』という親に向けたものになりがち」なメッセージが、社会のさまざまな場所で量産され、消費されていること、そして自分も発信者の一人になっているかもしれないことです。
批判や炎上をきっかけに浮き上がった社会の「違和感」に対して、自分事として立ち止まりながら、自分の意識を振り返っていきたいと感じました。
◇ ◇ ◇
親子の距離感を深掘りする記事を、8月15日まで7本配信します。明日は「子連れOKプラン」が増えている背景について考えます。
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