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「息子とデート」にひそむ〝危険な一線〟 恋愛じゃなく所有の闇

子どもに頼らず「自分で自立を」

「お出かけ」を「デート」と置き換えることがありますが、どんな心理が働いているのでしょうか(写真はイメージ)
「お出かけ」を「デート」と置き換えることがありますが、どんな心理が働いているのでしょうか(写真はイメージ)

目次

息子は母親の「小さな彼氏」――?
広告でもSNS上でも、母と息子の「恋人」のような関係がポジティブに発信されることがあります。「母と息子の、時に甘美で重苦しい関係が、日本社会の骨組みをかたち作っている」。著書でそう指摘した社会学者・品田知美さんに、4人の記者が母と息子の距離感や危うさについて聞きました。

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【息子とデート~親子の距離感考えた~】
今年5月、「ママと息子の初めてのお泊まりデート」をうたったホテルの宿泊プランが、SNS上で批判を浴びた後、削除されることがありました。CMやSNSで身近に見かける「子どもとデート」という表現。子どもへの愛情からくるものだから目くじらを立てるほどではないという人もいます。もやもやを抱えた子育て中の記者たちが、専門家とともに改めて考えてみると、子育ての在り方や、社会が子どもとどう向き合っているのか、現代の「親子の距離感」をひもとくヒントが見えてきました。8月9日から15日まで連日配信します。
1本目:「息子とデート」子どもを〝道具〟にする危うさ 親だけ満足でいい?
2本目:陳腐化する「子連れOK」尖った商品求めた結果の「息子とデート」
3本目:「息子とデート」にひそむ〝危険な一線〟 恋愛じゃなく所有の闇
4本目:「男子っておバカだよね」本当にそう? 離婚裁判で見た〝母の支配〟
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(朝日新聞デジタルに移動します)
品田知美さん: 社会学者。『「母と息子」の日本論』著者。早稲田大総合人文科学研究センター招聘研究員。

田渕紫織(記者): 息子(4)にはマザコンになってほしくない。でも子離れできていないのは自分の方? 距離感に悩み中。
松川希実(記者): 長男(2)にときめいていて、「息子にキュンして何が悪い」と思っている。
水野梓(記者): 子どもの頃、親と手をつないだり抱っこされたりするのが苦手だった。 
橋本佳奈(記者): 息子(5)の寝顔を見ると「日中散々怒ったのに、かわいいんだよなあ」と疲れが吹っ飛ぶ。 

「父と娘」ならどうだった?

田渕)母と息子の宿泊プランに「息子とデート」を押し出したことにはSNSで賛否がありました。どう見ていらっしゃいますか?

品田)ツイッターにも、仮にこれが父と娘だったら明らかにまずいのではという声がありましたが、同感です。父と娘でダメなら、母と息子もまずいんじゃないでしょうか。

今の時代、ある意味で女性が強くなっているんですよね。堂々と仕事をしていて「ママについてこい」という感じで……。

田渕)つまり、父娘関係にありがちだった、親がいばっている上下関係みたいなことを、今度は母・息子関係でやってしまいがち?

品田)そうですね。気をつけないと、ただ逆になって時代が戻っただけになってしまいますよね。

田渕)「息子とデート」って、昔のいばっている親に比べると、一見平等に接しているように聞こえますが……。

品田)主体としてどっちが「デート」をしたいの?という話ですね。息子は断れないあるいは忖度(そんたく)せざるをえない状況ならば、その時点でフラットじゃないし、母からのパワハラにあたるかもしれない。断れない関係を長年かけて作ってきたということなので、平等には見えません。

ただ、母親本人だけの問題でもない。私がずっと心配しているのは、日本では専門家も含めて「母子分離」を促さないこと。いま、SNSで見せるというカルチャーがそれを後押ししていると思います。

息子以外、彼氏がいない?

田渕)それこそSNSやCMで「息子=小さな彼氏」というとらえ方って、よくあります。

品田)きっと「彼氏」がいないんじゃないでしょうか、息子以外。究極には夫を愛してないし愛されていない。夫と妻という関係になっていない。子どもが生まれる前は、夫が恋愛対象なのに。

松川)今すごくどきっとしました。夫を愛してはいるけれど、産後に環境が変化し、夫婦関係も変わりました。「愛されたい」という思いを、息子への「キュン」に置き換えているのでしょうか……。
散歩する親子(写真はイメージ)
散歩する親子(写真はイメージ)

育児の時間は右肩上がり

品田)周りから親へのプレッシャーも高まっていますよね。仕事している人は増えているのに、育児にかける時間は父母ともに右肩上がり。総務省の調査を見る限り、統計が取られ始めた1986年から2016年までずっと増加しています。

でも、子どもからしてみると(あまりに手をかけられすぎて)邪魔なこともあるんじゃないかな。

水野)私は親にかまわれるのが苦手な子どもだったので、その感覚がとてもよくわかります。日本には、忙しいのに家事と育児を一生懸命やらないといけないと思い込む呪いがあるんでしょうか?

品田)あると思います。イギリスで調査することも多いのですが、日本は育児について不思議なタブーや圧力がいっぱいあるように他の国からは見える。

水野)なるほど……。

「自立の病」にかかる親 

品田)ただ、厳しい言い方をすれば、自分がどうしたいというより、周りからどう見られるかを気にしてしまっている部分があるのかな。自分の考えに確信がないから。

だから、究極には「自立の病」なのだと思います。親自身が自立していないと、子どものことは自立させられないと思っています。

そういう意味では、息子と違って娘については今、多くの母親が意識的に自立させていると思うんです。

水野)しっかり意見を持って、ちゃんと勉強して、みたいな機運が高まっているように感じますね。

品田)でも息子についてはなかなかそうしない親が多くないですか? それがさらに次世代の男女のミスマッチや男女不平等を起こしてしまっていると思うのですが……。

田渕)どういうことでしょう?

品田)息子に自立を強要せずに甘やかした状況で育ててしまうと、男性は、本当の平等や対等が理解できなくて、社会に出てからも、人ときちんと距離を取れていない関係性のもとで、意思決定をしていく。

しかも、娘の方は案外、自立できるように育てているという親が多い。そうやって育った女性たちは、自立していない男性をあまり選びませんよね。結果的に、意図せずにミスマッチを起こしているんじゃないでしょうか。
散歩する親子(写真はイメージ)
散歩する親子(写真はイメージ)

いちいち「デート」と言う理由は?

橋本)なるほど……。「息子とデート」に話を戻すと、今回の宿泊プランに限らず、似たようなCMはたくさんありますが、単に言葉の問題という批判もあります。「デートは広い意味に捉えられるのに、性愛的に見るのがおかしい」と言う人もいました。

品田)ひとつ思うのは、なんでいちいちデートと言わなきゃいけないんでしょう?特別感を出すワードですよね。

普通の日常になっていたら、問題視するようなことでもないから。

橋本)「子どもと楽しくお出かけ」ならよかったんでしょうか……?

品田)いいと思います。「デート」っていう語感には、他の人にアピールしたい感覚もあるのかな。無意識にでも。

松川)インスタでは「#息子とデート」で11万件以上投稿されています。タグを付けて投稿するときに、「子どもとお出かけ」よりも「息子とデート」の方がキラキラして見えるのかも。きっと投稿している人は、性愛的なことは意図してないけど、使っちゃう。

「友達とランチ」より「女子会」の方がキラキラするかもしれないように。

品田)それはありそう。でも、言葉の使い方って大事。私は「女子会」も使わないようにしています。

どうしても古いジェンダー観だったり、母と息子のラブラブ関係だったりを強めてしまう。日本の古層が表に出やすくなる。 そしてそういうタグをつけるとウケるからドライブがかかっていく。
散歩する親子(写真はイメージ)
散歩する親子(写真はイメージ)

恋愛・ペットに使っている言葉は…

松川)ほかに、SNS時代だからこそ品田さんが気をつけた方がいいと思う言葉選びってありますか?

品田)恋愛に使っている言葉やペットに使っている言葉を子どもに使うのは、両方とも気をつけた方がいいと思います。例えば「胸キュン」とかね。

松川)最初はただ「子どもを愛している」ゆえの行為なのかもしれないけれど、それを「デート」や「胸キュン」と言い始めた瞬間に、言葉から恋人化してしまう?

品田)素直にかわいいって胸がキュンとしているのは心配なことではないですよ。

田渕)母親がここからは一線を踏み越えてはいけないというのはどんなところでしょう?

品田)自分の付属物、アクセサリーにしない、自分の楽しみのために使ってはいけない、ということでしょうか。

息子は母の顔色を無意識まで読み取るので、本当に気をつけて子どものやりたいことをわかっているのが大事だと思います。

この子は本当に何をしたいか?ということを考えると、自分のやりたいこととかち合いますよ。結構。でもせめて半分はゆずって、したいことじゃないなと思ってもしょうがなく付き合うことはあっていいと思う。

田渕)とはいえ時間と体力の限界はありますが……。

品田)全部は無理だから、程よいところでね(笑)
コロナ禍で、家で子どもとふたりきりという人も増えているはず(写真はイメージ)
コロナ禍で、家で子どもとふたりきりという人も増えているはず(写真はイメージ)

家で息子と時間ができて… 

品田)でも、息子のやりたいことに合わせていれば、こっちがアレンジしなくていいので逆に楽な面もありますよ。

あと、母が頼る先は、息子ではなくて、夫か自分だと強く念じていた方がいいと思います。

やっぱり自分は自分で自立するしかないかな。自分の楽しいものを見つけて。コロナ禍はお友達との交流が制限されてつらいんですけど。

松川)今の時期は、家族以外の人と遊ぶのも大変。それで余計に息子とべったりになるのかも。

品田)そうですね!この環境、危険かもしれないですね。さらに一段階強く気をつけないといけないんだ。コロナで疲労も限界になっていると思うので、少しでも自分の時間をとれることを願っています。
「母と息子の関係」をより深く考えるための、品田さんのおすすめ作品



映画「MOTHER マザー」(大森立嗣監督、長澤まさみ主演)
「誰もボクを見ていない: なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか」(ポプラ文庫、 映画の元になったとされる事件を取材した本)

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