ネットの話題
陳腐化する「子連れOK」尖った商品求めた結果の「息子とデート」
久我尚子さんが心配する母親の不自由さ
「息子とデート」を押し出したホテルの宿泊プランが「炎上」しましたが、広告でもSNS上でも、子どもとの関係を恋人に重ねる発信は多く見かけます。こういったトレンドについてニッセイ基礎研究所の上席研究員・久我尚子さんに尋ねると、広がってきた「子連れOK」の理由がみえてきました。
――「息子とデート」プラン、まず最初の印象は。
久我さん)「初めてのお泊まり」ですとか、使うキーワードに「ん?」という違和感はありましたが、私はそこまでシリアスにはとらえていません。
――なぜ「炎上」したと思われますか?
久我さん)「トキメキ」とか「息子にキュン」とか「初めてお泊まり」とか、恋愛を予想させる言葉を敏感に捉えたということだと思います。
大多数の消費者はそこまで厳しく見ていないかもしれません。
ママたちが忙しくてストレスでトキメキが必要というのは言われていることで、ママたちがほしいのは恋愛感情ではなくて、ねぎらわれたいという思いではないでしょうか。
ネットの怖いところは、文字面だけがとられ、炎上していくということだと思います。
批判に寄せることは簡単だけど、もともと親子で楽しみたいというサービスの需要が高まっていたのだと思います。
――星野リゾートのこのプランだけがいきなり出てきたわけでなく、トレンドがあった?
久我さん)子連れOKの場所がとても増えているという流れの中にあると思います。
キッズスペース付きの美容院や、デパートの中のキッズスペース付きのカフェも今や普通ですが、ママたちが自分自身も楽しめる企画として出てきました。あとは、ヨガも最近はベビークラスが普通ですよね。
旅行に限らず、居酒屋もメニューや席の配置で家族が行きやすい風にしたりと、家族向けの商品は増えています。
以前なら、消費を牽引(けんいん)する独身の若者層向けの商品として用意されていたようなプランが、家族向けに拡大してきました。若者の人口が減っているうえに若者の旅行離れやクルマ離れ、飲み会離れが進むなか、子育て世帯の消費は比較的活発ですから。
そういう意味で、「子連れOK」はある意味陳腐化しているので、子連れ旅の一つとして、とがらせた企画だったのかなと思います。
――いつぐらいから「子連れOK」は根づき始めたんでしょう?
久我さん)ここ10年ぐらいでしょうか。年齢で言うと今、30代後半~40代前半ぐらいのお母さんたちです。
1995年までは、女性は4年制大学の進学より短大進学が多かったんですけど、1996年で上回りました。その後、男女差別の解消が進んできて、男性女性関係なく、独身時代から進めてきた趣味を楽しむのが当たり前、という価値観が強くなっている世代だと思います。
――一方で、まだまだ「子連れ」になるのは母親で、父親に比べて母親は自由と言いがたい気もします。これからの時代のニーズに合っているでしょうか。
久我さん)まだまだ日本だと「子連れOK」止まりなんですよね。でも海外だと、ベビーシッターサービスが普通にある。
子どもをシッターに預けて夫婦でお酒を飲んだりレジャーをしたりしても、日本だと、そうやって楽しんできたことは気の置けない人にしか言えない、という空気がありませんか?
――すごくあると思います。4歳の子どもがいる私も言いにくいです。
久我さん)仕事で夜遅くなる時、シッターにお願いするというのは定着してきても、自分の楽しみのためにシッターサービスを使ったと言うのは後ろめたい。
楽しむためにお金を使うところまでは言っても、楽しむための時間を捻出するためにお金を使う、人手を雇うというところまでは行っていない。私たち自身が自由になりきれていないのかもしれません。
――それにしても、「母親と子ども」向けの商品がこれだけ広がっている一方で、「父と子ども」向けの商品がないのはなぜでしょう?
久我さん)うーん……(笑)。
女性の方が消費意欲が高いということは言えると思います。あとは、お父さんの需要はまだまだ見えづらいということでしょうか……。
夜のテレビ番組にコメンテーターとして出ることもある久我さん。出演時、テロップに肩書以外に「2児の母」と出ることもあり、視聴者から「久我さんは、お子さんがいるのに出て大丈夫なの」と意見を書かれることがあるとおっしゃっていました。
「『2児の父』の男性コメンテーターもいるのに、そんな風に聞かれないのに……」「そうなんですよ!」「私も会社で宿直席に座っていると、同僚から普通に聞かれるんですよね」。インタビュー中に盛り上がりながら、まだまだ育児が母親側に偏っていることを当然視する空気があると実感。「子連れ」消費での父親の影の薄さにもつながっていると感じました。
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