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連載

#6 #自分の名前で生きる

夫婦同姓が経営問題…銀行での屈辱「ネガティブな影響しかない制度」

金融機関での交渉でも「なぜ旧姓なの?」と聞かれ…

婚姻届には、夫か妻の氏のどちらかを選んでチェックを入れる欄があります
婚姻届には、夫か妻の氏のどちらかを選んでチェックを入れる欄があります 出典: 朝日新聞

目次

父の会社を継いだ跡取り娘の女性は、姓を変えたくないとパートナーと事実婚をする予定でした。しかし相手の家族が猛反発。泣く泣く夫の姓に変えましたが、旧姓を使う理由を問われたり、金融機関での融資交渉に困難があったりしたといいます。「改姓はこれまでのキャリアや、創業家の名前のブランドを手放すことにもなります。女性起業家や経営者も増えている中、早く選択的夫婦別姓が実現してほしい」と訴えます。

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選択的夫婦別姓:現在の民法では結婚時に、夫または妻の姓どちらかの同姓を名乗らなければならず、現状では96%の女性が夫の姓に改姓している。旧姓使用には仕事上の支障や限界があり、名前はアイデンティティーでもあることから、希望すれば別姓のまま結婚できる選択肢を加えてほしいと求める声が集まっている。
2021年4月の朝日新聞の世論調査では67%が「賛成」と答え、「反対」26%を大きく上回った
政府も「『法律で夫婦の姓を同姓とするように義務付けている国』は、我が国のほかには承知していない」と認めている(2015年10月6日付、参議院での政府答弁書)。自民党は2021年4月、「氏制度のあり方に関するワーキングチーム」の初会合を開いた。
【関連記事】「選択的夫婦別姓」36年前の世論調査では…今は自民支持層も賛成6割

跡取り娘として「社長になりたい」

40代の女性経営者は、小学校の頃から「跡取り娘」として育てられたといいます。
「小学校高学年の頃には『社長になりたい』と作文を書いていたぐらい。恋愛する時も、『この人はうちの会社に入ってくれるかな?』と考えていました」

経済を学ぼうと大学は経済学部に進み、「いつかは海外とビジネスする」と考え、短期留学をしたりバックパッカーで世界を回ったり。卒業後は海外で事業を立ち上げ、その1年後に父の会社に入社しました。

「マーケットや消費者のニーズを捉えるのが好きだった」と振り返る女性は、営業の成績をぐんぐん伸ばし、営業のやり方を変えたり会社のシステムを改善したりして、どんどん役職が変わっていきました。

「氏制度のあり方に関するワーキングチーム」の初会合で話す石原伸晃座長=自民党本部
「氏制度のあり方に関するワーキングチーム」の初会合で話す石原伸晃座長=自民党本部 出典: 朝日新聞

経営者同士の結婚、女性が改姓することに

10年ほど前、同じく後継ぎの男性と結婚することになりました。趣味も考え方も、普段の話題もぴったりなパートナーでしたが、問題だったのは「婚姻届を出すときに名前を変えること」でした。

2人の間では「事実婚でいいか」と同意していましたが、同居するにあたって男性の両親が猛反発。
「この名前で生きていけないなんてありえない」
そう伝えて大げんかをしましたが、結婚式が控えていたこともあり、最終的には女性が折れました。式の直前に婚姻届を出して夫の姓に変更、仕事では旧姓を使うことになりました。

「創業した父と同じ名字で、これまで様々なところで活動してきました。ビジネス上の名前を変えるわけにはいきませんでした」

夫婦仲が悪いから? 邪推された旧姓使用

ただ、金融機関にお金の交渉にいくときには、書類上の戸籍名に苦しめられました。
当時30代。金融機関の渉外担当はほとんどが年上の男性でした。

「地方の銀行の方の感覚はまだまだ古くて。『娘が後を継いでいる』と聞くと、私の目の前で『息子さんはいないんですか?』と尋ねるんです」

女性が交渉に出向いて、支店長を相手に数億といった額の融資の交渉をしても、まともに話を聞いてもらえないこともありました。

金融機関では「後継ぎ息子はいないの?」「なぜ旧姓を使うの?」と聞かれたこともあったそうです※画像はイメージです
金融機関では「後継ぎ息子はいないの?」「なぜ旧姓を使うの?」と聞かれたこともあったそうです※画像はイメージです 出典: PIXTA

最終的に話が進んでも、用意してきた書類には戸籍上の名前が載っています。
「結婚したのでこれは戸籍上の名前です。普段は旧姓で仕事をしています」と説明しても、「夫婦仲が悪いんじゃないか」「何かトラブルがあるんじゃないか」と邪推されたといいます。

「『女性が名前を変えるのが当たり前でしょ』というバイアスがあって、旧姓を名乗るのが許せない人たちもいました。信用を得るのがこんなに大変なんだ、と思いました」

「いつ、ちゃんとした嫁になるんだ」

結婚して1年後のお正月、相手の両親から「なぜ旧姓で仕事をしているのか」「いつ仕事を辞めるの」「子どもはいつできるのか」と問い詰められました。

「結婚したときに『あなたは好きなことをしていいよ』とおっしゃっていたんですが、それは仕事を辞めてお料理教室とか生け花とか、夫を支えるとか、そういうことをしてほしかったみたいです。私の好きなことは『仕事』だったのに」

お互いには「事実婚で」と確認しあっていましたが……※画像はイメージです
お互いには「事実婚で」と確認しあっていましたが……※画像はイメージです 出典: PIXTA

その頃は、すでに役員として実質的に会社を動かしていました。2008年のリーマンショック後で、会社を立て直さなければならないときでもありました。

「従業員の生活がかかっています。不動産を集約したりコストを抑えたり、ボーナスカットを決断したり……どんどん経営判断をしていかなきゃいけない時。泊まり込みで働くこともありました。そんななかで『いつになったらちゃんとした嫁になるんだ』と責め立てられて、『もう結婚をやめます』と告げました」

隣にいた夫は何も反論してくれなかったといいます。
「名字も仕事を持っていることも否定され、存在を消されていくことがなぜ『ちゃんとした嫁になること』なんだろうと感じました」

女性経営者も増えているのに…

最終的には離婚を決めました。「結婚」は夫と妻で新しく戸籍をつくっているにも関わらず、夫の姓に変えたことで「相手家族との間に主従関係が生まれた」ように感じたといいます。

「〝自分の家に入れてやった〟というような態度でした。女性の後継ぎも起業家も経営者も増えてきて、しかもそれを社会が後押ししている中で、本当にネガティブな影響しかない制度だと思いました」

政治家のなかには「旧姓使用で問題のないようにする」という意見もありますが、女性は「旧姓で活動できるのは名刺上のお付き合いだけ」と指摘します。

「戸籍名が変われば、会社の謄本や銀行への届け出も含めて全ての会社関係の書類を変えなければいけないし、続いてきた『のれん』のような創業家のブランドがなくなってしまいます」

経営者として社員の旧姓・戸籍名を管理するのも大変だといいます※画像はイメージです
経営者として社員の旧姓・戸籍名を管理するのも大変だといいます※画像はイメージです 出典: PIXTA

女性は経営者として、自社の社員たちの情報を管理する側でもあります。
「旧姓と戸籍名を二重管理しなければいけません。どのシーンでどちらの名前を呼んだ方がいいのかも迷います。それに、改姓という手続きは、社員全体に結婚という重要なプライバシーを公開することになってしまいます」

◆跡取り娘の切実な声
別姓を求める声は高まっています。女性の後継ぎを支援している「日本跡取り娘共育協会」では4月5日~23日の間、女性経営者向けに改姓によるビジネス上の障害についてアンケート(回答191人)をとりました。

婚姻や離婚での姓の変更について、6割以上の女性が「企業経営者として不便・不都合を感じたことがある」と答えています。具体的には、公共機関や金融機関での手続きに関する手間・コスト、旧姓と戸籍上の二重使用で生じる社外での混乱といった不便・不都合が生じたという回答が多くなっています。

結婚した、もしくは結婚するときに、「選択的夫婦別姓制度があれば別姓を選ぶかどうか」という問いには、64%が「選ぶ」と答えています。

【アンケートに寄せられた声】
・創業者は父ですが、私は配偶者の姓を名乗っています。姓が違う事で、あなた誰?と取引先や銀行に言われた
・仕事をしてきた旧姓は自分のアイデンティティでもあるので、それを公的証書で記せないのは心理的に寂しい
・特許では旧姓が認められていないため、同一人物とみなされず、混乱をきたした
・どちらかの姓を選ばなくてはならない婚姻制度は、結婚をためらう原因の一つにはなっている

アンケートの詳細はこちら▶【関連記事】女性経営者の6割が夫婦同姓で「不都合あった」業務の支障や苦痛の声を紹介 

優秀な人が海外に出ていってしまう

選択的夫婦別姓について、女性は「『家族の絆が崩れる』と反対する人もいますが、名字が違うだけで崩れてしまう関係は、同姓でも崩れます」と指摘します。

周囲には、改姓したくなかったと離婚した人や、変えたくないので事実婚を選んでいるという女性経営者も多いといいます。

「ただ、『同姓にしたくない』と事実婚を選んだ人の数はハッキリ現れませんよね。そういった声をどう拾うのかが大切だと思います」

結婚すると強制的に「同姓」になってしまうのは日本だけ。女性は「このままだと優秀な人から海外に出ていってしまいます。女性活躍を応援するなら早く選択的夫婦別姓制度を実現してほしいです」と訴えています。

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