MENU CLOSE

連載

#14 #自分の名前で生きる

「よその家庭はほっておこう」選択的夫婦別姓でまず伝えたいこと

2度の改姓で味わった「地獄の名義変更」

出典: Getty Images

目次

希望すれば、お互いに改姓せず結婚できる「選択肢」を設けるよう求める「選択的夫婦別姓」。ペーパー離婚を繰り返したり、海外で旧姓が使えず困ったり……導入を求める声は高まっていますが、なかなか前に進んでいないのが現状です。全国の地方議会に働きかける「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の事務局長・井田奈穂さんが感じた〝地獄の名義変更〟について話を聞きました。

【PR】「あの時、学校でR-1飲んでたね」
連載 #自分の名前で生きる

改姓する/しないを〝選べる〟制度

――選択的夫婦別姓は「選択的」というのがポイントだと、井田さんはいつも発信されていますね。

井田さん:同姓でも別姓でも、夫婦が話し合って夫婦が望むあり方で結婚できるかたちのことが「選択的」です。

「改姓する/しない」を、自分の結婚で自己選択できると考えてほしい。あと、よく言うんですけど「よその家庭はほっておこう」という制度です(笑)。
選択的夫婦別姓:現在の民法では結婚時に、夫または妻の姓どちらかの同姓を名乗らなければならず、現状では9割を超える女性が夫の姓に改姓している。希望すれば別姓のまま結婚できる選択肢を加えてほしいと求める声が高まっている。2021年4月の朝日新聞の世論調査では67%が「賛成」と答え、「反対」26%を大きく上回った。
――たとえば「うちは同姓。あなたのおうちも同姓じゃないと」とか「同姓は遅れている」とかほかの家庭に口を出すことではない、ということですね。

井田さん:その通りです。でも今は「同姓にしかなれない」。夫婦どちらも「改姓したくない」とすると、どちらかが望まない改姓をせざるを得ない、または、望まない形で婚姻届を出せないかたちで「事実婚」にせざるを得ない、もしくは結婚が破談になってしまう……。その3択なんです。

四半世紀以上前に法制審議会が選択的夫婦別姓について答申し、どんな形で法改正するか提案されています。

2度の改姓で味わった苦痛

――井田さん自身が改姓で苦痛を味わったことが活動のきっかけだそうですね。

井田奈穂さん:初婚と再婚で2回の改姓を経験。名義変更の煩雑さから「選択的夫婦別姓」に興味を持つ。選択的夫婦別姓・全国陳情アクション(https://chinjyo-action.com/)の事務局長を務める。
1回目は学生結婚でした。自分の名前を変える理由が分からず、夫になる人に「名前を変えたくないんだけど」と言ったら「きょとん」とされて。「俺は、女の名前になるのは恥ずかしい」と言われました。

親からも「女性が変えるのが当たり前」と言われ、義両親からは「本家の長男の嫁になるんだから、あなたが変えて」と言われてしまって。
陳情アクションのサイトでも「強制的に夫婦同姓」にさせる現法ではなく、同姓か別姓かを選べる「選択的」な制度だと説明しています
陳情アクションのサイトでも「強制的に夫婦同姓」にさせる現法ではなく、同姓か別姓かを選べる「選択的」な制度だと説明しています 出典:選択的夫婦別姓・全国陳情アクションのサイト
知識もなかったし、どちらかが絶対に変えなきゃいけないなら「仕方がないから私が改姓するしかないか」と考えました。

でも、出産時に入院したときは新姓の「井田さん」「井田さん」と呼ばれて。望まないあだ名で呼ばれるような気分で、「私の名前じゃないのにな」と落ち込みましたね。

事実婚、手術の同意サインができず

――離婚時に「旧姓」へ戻すとなったら、「井田」姓で築いてきたキャリアも引き継ぎにくいですよね。

38歳で離婚しましたが、「井田」で働いてきたので、変えると仕事面でも影響があるなと感じました。

姓を戻さなかったもう一つの理由は、子どもたちの存在です。「変えたくない」と言われて。名前が変わったら学校で詮索される可能性もあります。

望まない改姓の苦痛は私が一番よく分かっていたので、そんなことを子どもにさせたくないなと感じました。

そこで、結婚していた時の名前を離婚後も名乗り続ける「婚氏続称」の手続きをしました。
選択的夫婦別姓・全国陳情アクションで活動する井田奈穂さん
選択的夫婦別姓・全国陳情アクションで活動する井田奈穂さん
――今のパートナーとは、当初は名前を変えず事実婚でいこうと考えてらっしゃったんですか?

お互いに名前を変えたくないと思ったら、先ほどの3択の中で事実婚しかありません。

しかし、夫が手術を受けることになって、病院で配偶者として同意書にサインしようとしたら、「お名前が違いますね」「本当のご家族じゃないのでできません」と言われたんです。

大きな大学病院で、事実婚だと説明しましたがダメでした。「家族として扱ってもらえないんだ」と初めて知りました。

しかたなく婚姻届を出すことに。もう一度「私が変えたくない」と言えば、夫に望まない改姓をさせた上に、私の元夫の姓を名乗らせるわけですよね。それはさすがに酷だなと考えて、私がまた姓を変えたんです。

名義変更の地獄

――このときに、改姓の大変さを知るわけですね……。

2年間ぐらいの名義変更地獄のきっかけは海外出張でした。パスポートの名義、そこにひもづくクレジットカードも、銀行口座も……と芋づる式に変えなければいけない。電気ガス水道だけでなく、ネット通販といったいろいろなサービスもそうでした。

再婚時も子どもたちは名前を変えませんでしたが、奨学金の保証人欄や口座の法定代理人、そのほか保護者名を登録しているものは全部変えなければいけませんでした。

いちいち戸籍謄本を取り寄せ、ひとつひとつ事務作業をしているうちに「私、何やっているんだろう」とノイローゼ状態になりました。
若い世代からは、「いつになったら選べますか」「一人っ子が多く、地方には実家の姓を残したいという人もいる。選択肢を増やすことがなぜいけないのかという声が多い」といった声が上がっています
若い世代からは、「いつになったら選べますか」「一人っ子が多く、地方には実家の姓を残したいという人もいる。選択肢を増やすことがなぜいけないのかという声が多い」といった声が上がっています 出典:朝日新聞
――仕事上ではそのまま「井田」を使っていたんですよね。使い分けにも混乱しそうです。

人事から「電子署名が使える」と言われ、「業務が楽になるな」と思っていたら、「井田」という名前は選択できませんでした。

社会保険や納税のシステムと連動していて戸籍名で一本化しており、「ひとつの名前でしか運用できないようになっているんです」と言われて。ショックでしたね。
 

「夫婦同姓」を強制するのは日本だけ

――そこから選択的夫婦別姓を望む運動をしようと動いたのはなぜでしたか?

国際結婚した姉は、名前を変えずにそのまま結婚できて何不自由なく幸せに暮らしていたんです。

私が名義変更地獄について話すと、「なんでそんな大変なことをするの?どうして名前を変えなきゃいけないの?」と言われて「そうだよね」って思ったのがひとつのきっかけでした。
【関連記事】夫婦同姓と夫婦別姓、どっちも経験して感じた疑問、これって誰得?
当時、国会で法務省が「夫婦同氏制を採用している国は、我が国以外にはございません」と答弁されていて。「日本人だとこの苦痛を味わわなきゃいけないの? じゃあ法律を変えなきゃいけないよね」と考えました。

海外だと当たり前のように別姓・同姓の選択肢や複合姓があるんです。なぜ日本だけなのか?という合理的な説明は誰もできないままでした。
出典:選択的夫婦別姓・全国陳情アクションのサイト
また、妻氏に改姓したサイボウズの青野慶久社長が裁判を起こしたニュースが流れてきました。改姓は男女問わず苦痛を感じていて、企業の経営者だったら登記の問題もあります。使い分けも大変だろうと感じました。

「選択肢を作ること」取材を終えて

結婚したいけど、改姓の煩雑な手続きや、名前を失ったように感じる苦痛を押しつけたくない……。そう考えるカップルがいても、現状では法律婚はできません。

今回、井田さんにポッドキャストの収録を打診して打ち合わせたとき、「選択的夫婦別姓は『選択肢を作ること』だと改めて確認しよう」と話し合っていました。

選択的夫婦別姓は「選択制」だから、同姓で結婚したい夫婦にまで別姓を押しつける制度ではありません。筆者は「幸せに生きる人が〝増える〟制度」だと考えています。

姓を残したいと結婚をためらったり、旧姓使用で困っていたり……そんな人たちに「別姓」の選択肢を新たに増やしても、同姓で結婚したい人や、すでに納得して結婚した人たちには影響がないと思います。

続くインタビューでは、陳情アクションの井田さんの元に届く「改姓にまつわる困りごと」や、「旧姓使用拡大の限界」についての声を聞きます。

連載 #自分の名前で生きる

その他の連載コンテンツ その他の連載コンテンツ

全連載一覧から探す。 全連載一覧から探す。

PICKUP PR

PR記事

新着記事

CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます