連載
#3 テツのまちからこんにちは
乗れない列車の時刻表「甲種輸送」ファンの「早く見たい」に応える
山口―東京間を1日半かけて進む
工場で作られた地下鉄車両は、どうやって地下に「潜る」のか? 昨年11月6日、JR山陽線の下松駅には東京メトロの有楽町線と副都心線に今年から投入される新型車両「17000系」の姿がありました。実は、この列車にもちゃんとした時刻表があります。それが、知る人ぞ知る「甲種輸送」です。鉄道ファンの記者(25)が、「鉄道のまち」で見聞きした出来事をレポートします。(朝日新聞山口総局記者・高橋豪)
甲種輸送の時刻を掲載している数少ない鉄道雑誌のうちのひとつ、「月刊とれいん」の編集部に話を聞いてみました。
「月刊とれいん」は1975年創刊。様々なジャンルに特化した雑誌があるなかで、鉄道模型に関する情報が豊富なのが特徴です。ベテラン編集者の前里孝さん(67)によると、「いろんな情報を提供したい」という理由から、同誌は甲種輸送の時刻表を30年以上掲載し続けているそうです。
前里さんも取材で甲種輸送の写真を撮りに行くこともあるといい、「いち早く新車を見たいという方々の手助けになれば」と話します。
「下松 甲種」。ツイッターでこのように検索をかけると、日立製作所笠戸事業所をはじめ、全国の鉄道工場でつくられた新車両がディーゼル機関車に牽引されて出荷される「甲種輸送」の写真付きツイートがたくさん出てきます。近畿、東海などの沿線で、通り過ぎていくこの車両を撮影したツイートも多く見かけます。
下松発の甲種輸送では、2019年以降の分で確認できただけでも、つくばエクスプレス、相模鉄道、東京メトロ半蔵門線の新型車両や、人気の特急「サフィール踊り子」、西武鉄道「Laview(ラビュー)」の写真が投稿されていました。遠いところでは、秋田県を走るJR男鹿線の蓄電池駆動電車「ACCUM(アキュム)」も11月に輸送されていました。
私が取材した東京メトロ17000系の写真をツイッターに投稿していた鉄道ファンに連絡を取ってみました。
「はじめ えだまつ(@hajimecrosscub)」のアカウントを持つ山口市の会社員、枝松基(はじめ)さん(45)。岡山県から単身赴任で3年前に来た山口で、蒸気機関車が牽引する観光列車「SLやまぐち号」に魅了されて、主にJR山口線で「撮り鉄」をするようになったそうです。
「下松甲種」撮影のポイントを聞くと、枝松さんは「瀬戸内らしい場所で撮るのを意識しています」と、写真を見せて説明してくれました。例えば山口県岩国市の瀬戸内海沿い。海と列車を同じ画角に収めるのが醍醐味だといいます。
甲種輸送の撮影は4回目。2016年に運用が始まった、「DENCHA(デンチャ)」の愛称を持つJR九州のBEC819系蓄電池駆動電車が最初でした。「下松甲種は東に行くのがほとんど。西向きの『下り甲種』はめずらしい」と教えてくれました。
東向きの輸送でも、岡山県に着く頃には夜になって撮影に向かないため、興味を示すこともなかったということでした。
「地下鉄はこの先ほとんど潜ってしまうと思うとしみじみ」と枝松さん。「いつも『一期一会』の気持ちで臨んでいます」。
今週のテツ語「ダイヤグラム」
鉄道のダイヤは「ダイヤグラム」の略。ダイヤは鉄道の時刻そのものを指す言葉として使われていますが、もとは乗務員らが使う、横軸に時間を、縦軸に距離をとり、列車の動きを線で書いた図のことです。これを数字で表したのが時刻表。ダイヤグラムの線は業界用語で「スジ」と呼ばれ、鉄道ファンの間では「ダイヤ」と同義で使われているようです。甲種輸送のような臨時列車の「スジ」は、ダイヤグラムで空白の部分を埋めるように定められます。
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