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「育休明けに管理職を降りました」共感呼んだワーママはるさんの叫び
働きながら子育てをするワーキングマザー「ワーママはる@打倒長時間労働!」さんのツイートが話題です。20代後半から30代の女性のキャリアと出産・育児を巡るリアルな声が注目を集めています。働き方改革、生産性の向上、と叫ばれてはいるものの、すぐには変わらない現実も直視している視点が新鮮です。「2人目の育休明けに自ら管理職を降りました」というワーママはるさんの言葉から、キャリアについて考えます。
ワーママはるさんのツイートは、自分が経験したことや周囲の人たちの胸の内を吐露したものです。
「ワーキングマザーの人たちが『そうだよね』って共感してくれたのだと思います。20代の未婚女性の人からは、『あまり考えてこなかったので参考にします』というメッセージもありました」
ワーママはるさんに話を聞いていくと、世の中では「働き方改革」と言われつつも、私たちは深い淵に立っていることに気付かされます。
なぜ、このようなツイートをワーママはるさんはしたのでしょうか。
「職場で20代後半までに子供を産んだ女性を見回すと、育休でキャリアを中断したため、昇進できていない人が多くいます。キャリアを優先し、30代後半の高年齢出産を選択した同期たちも、そこから出産して育休を取った後のキャリア形成が難しいと悩んでいるんです」
「キャリアのロールモデルが近くにない人が多いから、みんなの心に刺さったのかな」
ワーママはるさんは、外資系メーカーに勤めています。勤続15年。総合職のため転勤があり、現在5カ所目の勤務地です。夫婦ともに転勤族で、29歳で結婚したときは別居婚でした。31歳で1人目、35歳で2人目の子供を出産しましたが、実家は遠方で、パートナーは朝早く出勤して帰宅が深夜のため、ワンオペ育児が続いています。
ワーママはるさんが少し早いのではないかと思われる30歳代前半で不妊治療に踏み切ったのには、理由がありました。
「職場の先輩に『選択できるうちに選択した方がいいよ』と言われました。検査だけでもと思ってクリニックに行ってみました」
検査の結果、妊娠しにくいことが分かりました。子供が欲しいという思いから夫婦協力して不妊治療を始めました。職場に説明せずに不妊治療ができたのは、ワーママはるさんはキャリアを自分で獲得していくスタイルの外資系企業に勤務していたため、結婚までに管理職になっていたからです。チームのスケジューリングを決める際の裁量権を持っていたので、不妊治療では生活のリズムを整え、通院治療ができる環境を作ることができました。
「子供ができなくて仕事を辞める女性もいます。社内で『理解して欲しい』と言いにくいんですよね。『会社も遊びでないので全部いいと言えない』というのも分かる気がします」
管理職ではない女性にもできるアドバイスを尋ねると、「信頼残高」を挙げました。つまり、職場の同僚や上司との信頼関係の構築です。
「日ごろからどのように仕事に取り組んでいるかが大切になります。自分のことばかり主張するのではなく、日ごろから全体を俯瞰(ふかん)して仕事に取り組むことです。会社や同僚にとっても、その人を雇い続けた方がいいと思わせる存在になっていくことです」
ワーママはるさんは、顕微授精を経て2人の子供を出産し、2度の育休を経験しました。でも、捨てたものもありました。
「2人目の育休明けに管理職を自ら降りました」
子供が産まれてから、転勤を控えることにしました。彼女自身は、転勤によるキャリアアップも肯定的に考えていますが、そこに横たわるのが保育園問題だと言います。保育園に子供を預けるには、4月の入園でないと難しく、そのためには12月中に申請が必要だからです。「企業での部署の異動や転勤が、1カ月後に赴任してという感じだと、そこからの保育園探しは現実的に難しいと思いました」
また、年功序列ではなく、「成果」で評価される企業で働いていると、どうしても「時間の壁」にぶつかるそうです。ワーママはるさんが勤務する会社は、業務量に対して成果の評価をする年俸制です。
「効率的に仕事をしたとしても、独身で何も条件がない人、専業主婦のパートナーがいる男性の方が、どうしても仕事にかけられる時間が長いので有利になってしまいます」。つまり、自分が目標を100%達成したとしても、周囲の人たちが120%達成することがあるからだと言います。
ワーママはるさんのツイッターのアカウントの後ろ半分「@打倒長時間労働!」には、そこへの思いが込められています。「長時間労働が背景にある企業で働いていると、育児をしながらキャリア形成していくのが難しいと思います」。ワーママはるさんは「保育園が終わるまでがまんする」と決めたそうです。子供が2人とも小学生になれば、パートナーと別居になっても、子供2人を連れての転勤を受け入れる覚悟でいます。
ただ、不安もあります。現在38歳。「40代半ばになると、会社がお金をかけて育てようとする社員ではなくなります」
ツイートにある「マミートラックに歯を食いしばってきた」末に管理職をつかんだ同期の女性たちの苦悩も語ってくれました。
「育休明けに職場復帰をしても、会社が時短勤務など様々な配慮をすることで、結果として重要な仕事を与えてもらえず、そうするとスキルが伸びなくて、気付くと20代後半の結婚していない後輩に抜かれているという現実に悩んでいる人たちがいます」
ただし、一方的に女性を擁護しているわけではないと言います。
「女性のキャリア形成を応援していますが、私のパートナーの職場の現状を見聞きしていると、なかなか折り合いが付かないことが分かります。パートナーは女性の働きやすさを確保するため、長時間労働をしてカバーしています。全体の業務量が変わらなければ、誰かがカバーしなくてはいけなくなります。こういう実態に不公平感を抱いている人も多いでしょう。こういう話をすると、みなさん、業務量を減らせばいいとか、生産性を上げればいいと言いますが、簡単ではないんです。実は男性の方が型にはめ込まれているなと感じています」
ツイッターは2018年6月にアカウントを開設しました。その反響を受け、2019年4月30日からは、スマホでいつでもどこでも聴ける声のメディアVoicy (ボイシー)を始めています。ヨガインストラクターの資格も持っています。仕事と育児で忙しいのになぜそこまでするのかと尋ねると、こう説明してくれました。
「ワーキングマザーとして働き続ける自信がないから、色々なことにチャレンジしています。色々な世界を持っていると、自分の人生が生きやすくなるのではないかと思っています」
ワーママはるさんのツイートが支持される理由は、そこにリアルな現実や不条理な社会への叫びがつづられ、読んだ人たちが、女性でも男性でも内に抱えた「がまん」がぱっと脳裏に浮かび上がるからではないかと感じました。こうした社会になぜなってしまったのか。その背景には人口減少による生産年齢人口の減少や非正規雇用者の割合の増加、そして新たなサービス需要の増加などの存在があります。ワーク・ライフ・バランスが求められていることは分かっていても、マーケットが縮小し、消費が冷え込み、物の値段や賃金が下がっていくデフレ社会の恐怖が頭を離れない人も少なくないと思います
ワーママはるさんの言葉で印象的だったのは、「40代半ば」になると会社側がコストをかけて育てようとする人材ではなくなる、という言葉です。「40代の崖(がけ)」です。
ワーママはるさんの声をいかすには、どうすればいいのか。「一直線型キャリア企業」での競争がすべてではないという社会の合意形成を勧めればいいのか、「ライフシフト」や副業・複業へ寛容な社会に移行すればいいのか、「アウトソーシング」をしやすい社会になればいいのか、簡単に答えが見つかりません。
だからこそ、ワーママはるさんは、私が「最後に20代や30代で同じように悩む人たちにアドバイスをして下さい」とお願いすると、世代を超えて通じる答えが返ってきました。
「色々やってみて、得たものと失ったものがあります。みなさんには、自分にとって何が幸せなのか、を常に考えていくことが大切だと言いたいです。40代で燃え尽きている人も多くいます。会社の条件で人生を選ぶのではなく、自分にとって何が幸せかを考えていく必要があります。絶対、消去法で考えないで下さい。20代だと色々な選択肢が欲しくなる気持ちもわかりますが、後で、あっちの方がよかった、とならないために」
ワーキングマザーは辛いのか?キツイのか?社会の荒波で溺れぬように、ワーママ的泳ぎ方について語ってます。
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