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「がんばってもバイトやパート……」障害者の自立、本当に必要なこと
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障害児の就学先選びの悩みは、小学校入学で終わるわけではありません。中学校のほか、義務教育ではない高校や大学、そして就職といったそれぞれの節目で親たちは悩んでいます。障害者雇用枠があるから簡単に就職できるわけではない現実の中、将来的には自立を目指していくための就学先選びで必要なことは何か? 親たちの姿から考えます。
親の中には、就職先の情報の少なさに不安を感じる人がいます。
「特別支援学校から進路説明会を開催していただいていますが、就職後の実際の声というものを聞く機会がほとんどなく、保護者としても不安感が募ります」
こうつづられたメールを送ってきたのは千葉県に住む渡辺明子さん(50)です。
今春、特別支援学校高等部の2年生に進級した次男(16)がいます。軽度の知的障害があり、小学校と中学校は地域の学校の特別支援学級で学んだ後、比較的新しい特別支援学校の高等部に進学しました。1学年100人あまりの生徒が学び、その多くは軽度の障害のある生徒だそうです。
保護者としての不安はどこにあるのか、聞いてみました。
「学校は就職率や就職先については説明してくれますが、定着しているのか、就職後にフォローしてくれるのかが分かりません」
学校で保護者向けの就職説明会が開かれてはいるものの、就職するまでのプロセスの説明が中心です。
「親としては就職後や、20代半ばで独り立ちできているのかを知りたいのですが、そういうことは全然分かりません」
特別支援学校高等部での就職へのプロセスは、学校によって多少の違いがあるものの、1年生の段階から、年に2回、企業や商店での実習を2週間ずつ行って、様々な職種を経験していきます。そのうえで自分の適性や希望、雇用してくれる企業があるのかなどを検討し、就職活動に結びつけていきます。
渡辺さんの次男は、1年生の実習で老人ホームとスーパーに行きました。実習先は、受け入れに慣れており、また賃金も発生しないため、「お客さん」的な扱いになってしまったようです。働くことに慣れさせようとしてもアルバイト禁止で、実習だけでは新しい環境や仕事にうまく適応できるのか不安を抱えています。
また、次男が通う学校は比較的新しい学校のため、実習や就職先の開拓が十分なのかも心配だと言います。
そしてもう一つの不安は、過去の実績として5%と説明された正社員率です。ほとんどの卒業生は、時給計算による非正規雇用という雇用形態です。
「障害がある人は、がんばってもアルバイトやパートでしか雇ってもらえないのですかね」
不安定な雇用に翻弄される親子もいます。
東京都に住む主婦(56)の三女(22)は、軽い知的障害があるものの教育委員会からは「通常学級でやっていけるのでは」と言われたため、小学校の通常学級に通い始めました。
しかし、授業についていけなくなり、仲間はずれのほか、3年生になると物が無くなるといったことが頻繁に起こるようになりました。
「行事でペアになってくれる子もいないので、遠足でも独りで昼食を食べていました」
そのうち、学校に着くと体が震え、教室に入れなくなりました。職員室や保健室で勉強する日々が続き、小学3年生の2学期から特別支援学級に移りました。
高校は、文化系クラブが充実している特別支援学校を選びました。
「この子にとって最善の教育は何か、色々な高校を見学に行きました。私立高校で受け入れてくれる学校もありますが、コミュニケーションがうまくとれるか心配でした」
三女は卒業後、初めて障害者雇用をする従業員80人程度の企業に勤めました。しかし、1年経つと会社側からの要望で週30時間勤務から週18時間勤務に変更になりました。雇用契約も最初は6カ月間でしたが、その後は3カ月契約になりました。
雇用保険のパートタイム労働者の加入の適用基準は、31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であることと、1週間の所定労働時間が 20 時間以上であることとされています。
「週18時間勤務では雇用保険にも入れません」
会社側からはこの条件をのまなかったら辞めて欲しいという趣旨のことを言われました。この条件で働いてみたものの2年目に辞めました。
その後は、企業などへの就職を希望する障害者を対象にした「就労移行支援事業所」に通い、就労に必要な知識や訓練を習得し始めました。
また、事務職での就職をあきらめ、ハローワーク経由で軽作業の仕事をする企業を探しました。ところが、ここでも半年後に「辞めて欲しい」と言われました。
「パート勤務なのに、ノルマがありました。時給に見合わないから辞めてくれということです。障害者にも生産性を求められました」
「障害者雇用なのに、こんなに簡単にクビを切るんだと思いました」
1年後、契約は更新されませんでした。
「社会って厳しいんだなとつくづく思います。これではメンタルがやられてしまいます。『君は無理』と言われると、自分は社会で生きていくことが無理なんだと思ってしまう」
三女に自信を持たせるため、今春から「就労継続支援A型事業所」で働くことにしました。雇用契約を結び仕事の提供とともに就労に必要な訓練の支援を行うところです。
「『グレーゾーン』の子は、通常学級でも特別支援学級でも友だちがつくりづらいのです。親たちも闘わないと居場所がつくれないのです」
将来の目標を明確に持ち、それを叶えた人もいます。
東京都葛飾区の堀祐美子さん(54)のダウン症の長女(22)は、特別支援学校の高等部時代、就職先探しで苦労しました。
特別支援学校では、高校1年生の時から保育園への就労を希望していました。学校には「前例がないから」と言われましたが、実習担当の教師が近くの保育園と交渉して実習の受け入れ先を確保してくれました。
「学校生活で得られない笑顔をしていました」
しかし、就職となると簡単ではありませんでした。高校3年生の1月になっても進路が決まっていないのは、堀さんの長女だけでした。夫婦で議論し、夫は「障害者が働く作業所のようなところでもいいじゃないか」と言いましたが、堀さんは「この子の気持ちを尊重してあげたい」と考えていました。
長女の希望は「ママと同じように、保育園で働きたい」ということでした。
長女は、子どものころから図書館や児童館で乳幼児への絵本の読み聞かせをしていたため、子どもが大好きでした。何とか卒業までに新たな保育園での実習を経て採用になりました。仕事は園内の清掃です。手順を覚えればきちんとこなせます。
今春、堀さん親子にはうれしいことがありました。仕事になれてきた長女が、上司に絵本の読み聞かせをしたいと申し出たところ、「あなたがそれを言うのを待っていたんですよ」と快諾してくれたそうです。仕事にも慣れてきたため、中断していた地域の図書館での絵本の読み聞かせについて再開の相談に行くと、当時を知る職員がおり、再開できました。
3年ぶりに、今年4月から図書館での絵本の読み聞かせが1回程度のペースで始まりました。
4月上旬の読み聞かせでは、絵本を読むとともに、「キャベツのなかから」という手遊びをして集まった親子を和ませました。堀さんが、その手遊びについて「どうして知っているの?」と長女に聞くと、こう答えたそうです。
「毎日、保育園で働きながら部屋から聞こえてくる園児たちの歌声を聞いているので知っているよ」
堀さんの長女のように、働く場以外に社会的な居場所ができることも大切なことです。
「共存とは、ただ同じ空間に一緒にいるのではなく、隔たりのない心同士が通じ合うことだと思います」
特別支援学校での課題はどこにあるのでしょうか?
静岡県島田市にある障害者就業支援センター「ぼらんち」センター長の夏目芳行さん(48)は、22年間、特別支援学校で教員をしていました。このうち高等部は7年間です。昨春、教員を辞め、障害者就業支援センターで働き始めました。特別支援学校の役割について、こう振り返ります。
「特別支援学校の仕事に生徒の実習先の開拓があります。これは生徒にとって将来の就職先になる可能性もあるのでとても大切なことです」
障害者就業支援センターには、特別支援学校などを卒業して働く障害者500人が登録されています。夏目さんらスタッフは、就職先での定着を促すため、現場に足を運び、相談を受けたり、アドバイスをしたりしています。
「特別支援学校は在学中の支援が中心です。社会に出た人の支援は社会資源でとなります。特別支援学校の高等部は、次々に実習先を探さなくてはいけないので大変なのです」
夏目さんに、就職するために、身につけた方がいいスキルについて聞いてみました。
「まずは、あいさつができるということ。勝手なことはしない、つまり言われたことを言われた通りにすること。ただ、企業によって求めることが違います。だから就労先選びは、マッチングが大切なのです。そのマッチングによって定着率は変わってきます」
障害を持つ生徒の希望や特性と、採用する企業のニーズが合致しているのかという点です。時には、あいさつはいらないけど黙々と仕事をして欲しいという企業もあれば、あいさつによって周囲との人間関係が円滑になると考える企業もあると言います。
身だしなみが整っている。報告、連絡、相談できる。こういう基本的なことのほか、重要視されがちなのが「危機認知ができるか」という点だと言います。企業は安全第一を基本としているからです。また、通勤手段についても、静岡県内の場合、公共交通機関を利用したり、自転車を使ったりして、おおむね片道30分以内というところが一般的なようです。
小中高と一貫校の特別支援学校は、中学部でも作業学習があるため、高等部から入学してきた生徒より持続力があるとみられています。
夏目さんはこうアドバイスします。
「実習でも就職でも、自分の強みと弱みを知って、自分らしさを強調できるようになって欲しいです」
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