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#6 #乳幼児の謎行動

ワニに頼らず寝かせたい…眠れない息子と働き方改革の深い関係

夜中何度も起きて泣きぐずる息子にヘトヘトに=イラスト・minchiさん
夜中何度も起きて泣きぐずる息子にヘトヘトに=イラスト・minchiさん

目次

乳幼児(0歳から就学するまで)の、「なんでそうなる?」と不思議に思う行動について、同志社大学赤ちゃん学研究センター所長で小児科医の小西行郎さんに聞く「#乳幼児の謎行動」シリーズ。第5回は「眠そうなのに、寝るのに時間がかかる理由が知りたい」です。
質問者は、寝ない息子を「ワニ」で脅して眠らせる毎日…。小西さんとのやり取りから見えてきた問題点とは。

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【質問】
息子は1歳になる前の頃、寝る前はたいていぐずって泣いていました。
たとえばこんな感じです。
私の腕の中でウトウトウトし始めた子ども。ばれないよう、そーっとベッドに置き、「よっし、これから大人の時間だ!」と浮足立つ気持ちを抑える……ふふふ。
しかし、ふと子どもをみやると「パチッ!」と目が開き、ぐずぐず泣き始めてしまった。ああ、今日もまた寝かしつけ、やり直し…。あの眠いオーラは何だったのよ。
そんなとき、私は「誰も止めてないから寝ていいんだよ。眠いなら寝たらいいのに」と思っていました。
なぜぐずるのでしょうか?どうしたらよく眠ってくれますか?
〈相談者:2歳11カ月の息子がいる女性記者(32)〉

 

小西さん

今回の質問は、ケースによって回答も変わってくるので、質問者のケースを詳しく教えてもらいたいと思います。
あなたのお子さんの場合、①何時に寝て②何時に起きたか③睡眠中の授乳はいつごろまでしていましたか?

 

記者

10カ月で保育園に入園するまでは、夜8時半ごろに寝て、朝7時ごろに起きていました。
授乳は1歳まで。夜4回ほど泣くので、その度に授乳していました。
断乳後は朝までぐっすり眠るようになりました。

 

小西さん

断乳するとぐっすり寝たんですね。なるほど。
ということは、「夜間授乳と寝付き」、「中途覚醒」は関係があるのではないかと思います。
夜も授乳するお母さんは多いですが、6~8カ月頃には止めることをおすすめします。

「睡眠・覚醒リズム」確立は2歳ごろ

 

記者

ちょっと耳慣れない言葉が続きました。ひとつずつお聞きできれば。
まず、「夜間授乳が8カ月ごろまで」というのはなぜでしょうか?

 

小西さん

睡眠・覚醒のリズムは2歳ごろ確立しますが、その始まりは6~8か月頃といわれています。この頃以降も夜間授乳をしていると、赤ちゃんがお腹が減ったというよりも、お母さんとつながっていたいという意味でいわゆる癖のような状態で授乳が続くことがあるようです。
われわれの病院ではそのような状態の場合、すぐに断乳をしてもらいます。この時期になると、夜間授乳はしなくても大丈夫だからです。
【赤ちゃんの睡眠の変化】
赤ちゃんの睡眠は成長とともに変化していきます。
「4か月頃にはやっと夜に長く寝るようになり、8か月頃には昼夜の区別がつくようになります。でもいわゆる睡眠・覚醒リズムが確立するのは2歳ごろといわれています」と小西さん。
ただ、赤ちゃんの時にはまだそのようなリズムは確立されておらず、小西さんも「お母さん方も何時に寝させようかと悩まれる頃かなと思います」と話します。

 

記者

8カ月を過ぎると、「授乳」にはなっていないということなんですね。
そして気になったのが、「中途覚醒」。一度寝入ったあとに、起きてしまうということでしょうか。

睡眠障害、赤ちゃんにも

 

小西さん

赤ちゃんにも睡眠障害といって、睡眠中何度も途中で起きる「中途覚醒」や、寝付きが遅いため就寝から入眠まで長くかかるようなケースがあることが最近分かってきました。
大人のこととして考えられていた睡眠障害という考え方が、赤ちゃんにまで広がってきたように思います。
あなたの場合、寝る前に必ずぐずるという行為も一種の入眠困難と言えるのではないかと思います。

 

記者

赤ちゃんにも睡眠障害?初めて聞きました。症状を詳しく聞かせてください。
【乳幼児期の睡眠障害】
①中途覚醒・・・睡眠中何度も途中で起きる
②寝つき不良・・・寝付きが遅く、就寝から入眠まで長くかかる
③毎日寝る時間がバラバラ
※これらのタイプは併存することもある
小西さんの説明より

 

記者

「中途覚醒」がつまり、私たちを悩ます夜泣きということでしょうか。

 

小西さん

夜泣きというのは睡眠が浅い「レム睡眠」時に起こる現象だといわれています。多くの場合はある時期限定で起こることがあり、成長と共になくなります。
いつまでも続く場合は、専門医に見てもらうことをお勧めします。

育児の基本は「生活リズムを整える」

 

記者

いつかはなくなると聞いて、安心。
原因や直す方法が知りたいです。

 

小西さん

まず、保護者に知っていただきたいのは、赤ちゃんの生活リズムを整えるのが育児の基本であるということです。
午後6時までには夕食を終えて入浴をし、8時に眠り、朝は6時に起床というのが赤ちゃんの生活リズムの基本です。
遅くとも午後9時には寝てもらうこと、毎日同じ時刻に寝て、同じ時刻に起きるのがよいとされています。
睡眠障害の対策として、まずは生活リズムを見直してみてください。

 

記者

早寝早起きは理想ですが、親の仕事の都合など家庭環境の変化で、どうしても午後9時までに寝かせられない家庭も多いと思います。

 

小西さん

個人の問題として考えるのは限界があります。
地域全体や保育園全体で討論し、夕食を保育園や地域で摂ることで早寝をさせるようにしたところが出始めています。中心課題として対策を検討されている地方自治体もあります。
小児科医としては、働き方改革の中心課題のひとつに、この子どもの睡眠障害の対策が入っているのが望ましいと思います。政府をあげて取り組む必要がある状況になっているのではないかと思います。
寝る前に絵本を指して動物の名前を教えてくれる息子。親にとっても癒やしの時間なのですが…
寝る前に絵本を指して動物の名前を教えてくれる息子。親にとっても癒やしの時間なのですが…

理想のお昼寝とは…

 

記者

お昼寝についても伺いたいです。
息子は平日、保育園で1時間半~2時間くらいお昼寝をしています。土日も平日と同じリズムで昼寝させようと思いますが、体力もついてきて思い切り体を動かさないとお昼寝させるのにも一苦労です。お昼寝が遅くなると、晩ご飯やお風呂の時間もずれるので困ります。
かといって、昼寝しないと夕方になると眠くなって機嫌が悪くなります……。

夜の睡眠のためにも、理想のお昼寝の時間を教えてください。

 

小西さん

夜の睡眠に支障がない昼寝の時間帯は午後3時までには起きることが基本です。それ以降まで寝ていると、夕方の食事や入眠時間を阻害する可能性が高くなります。昼寝が午後3時以降になるようだと昼寝はしない方が、かえっていい場合もあります。
昼寝しない場合、就寝時間は午後7時ごろになるのであれば問題はないと思います。
【生活リズムのポイント】
◎基本
・午後8時就寝、午前7時起床を目標とする
・夕食は6時台に、入浴も7時には済ませる
・入眠、起床時刻を毎日同じようにして生活リズムを整える
◎昼寝をする場合
・午後3時までに起きる
◎昼寝をしない場合
・午後7時には眠ること
小西さんの説明より

 

記者

そもそもなんですが……。お昼寝って必要なんでしょうか?
息子が通う保育園は年中クラス(3~4歳児)からお昼寝がなくなります。友人に聞くと、年少クラス(2~3歳児)からお昼寝がない保育園もあるそうです。
昼寝が夜更かしの原因になると言われていることもありますが、子どもの発達や成長のためにも昼寝は必要なのでしょうか?

昼寝の意義・役割は研究段階

 

小西さん

昼寝の意義や役割についてはまだ研究は進んでいないように思いますが、年長ではおそくとも夏ごろまでには昼寝はやめた方がいいと思います。
最初に言いましたが、睡眠覚醒リズムは2、3歳頃には確立するので入眠と起床の時刻はきちんと決まってきます。昼寝もその全体の睡眠の変化の中で変わってゆくものですが、個人差もあり、必ずもしなければいけないとか、何時間しなければいけないとかの結論は出ていないように思います。

 

記者

お昼寝の研究はまだ途上なんですね。

 

小西さん

また、昼寝が夜更かしの原因になるということをよく聞きますが、そうした場合は昼寝の時間を調整するのではなく、生活リズムそのものを見直す必要があるのではないでしょうか。

単に昼寝の問題ではなく、生活リズムの異常である可能性もあります。

息子にしわ寄せ…働き方を見直すきっかけに

仕事終えて帰宅後の午後6時台から、夕食、お風呂、布団に入るまで怒濤の時間です。すんなりご飯が進まない、お風呂に入りたがらない息子に向かって「早くして」と毎日急かせてばかり。寝かしつけの最初のうちは絵本を読み和やかな雰囲気ですが、午後10時を過ぎても寝ない息子にイライラして、最後には息子が今一番恐れているワニを頼りに「早く寝ないとワニが来るよ」という脅し文句で強引に寝かせてしまっています。
一方、仕事がない土日はゆっくりしたいからと、息子も一緒に平日より遅くまで起きているし朝もゆっくり寝ているので生活リズムはバラバラ。
小西先生の「働き方改革の中心課題の一つ」という提言に、息子にしわ寄せが行ってしまっているという当たり前の事に気づかされました。同時に私自身の働き方、生き方を考えるきっかけにしたいと思います。

     ◇

小西行郎(こにし・ゆくお)
同志社大学赤ちゃん学研究センター長、教授。小児科医。日本赤ちゃん学会理事長。
専門は小児神経、発達神経科学。1947年生まれ。京都大学医学部卒業。
主な著書に「赤ちゃんと脳科学」(集英社新書)、「赤ちゃんのしぐさBOOK」(共著、海竜社)、「はじまりは赤ちゃんから」(赤ちゃんとママ社)、「発達障害の子どもを理解する」(集英社新書)、「今なぜ発達行動学なのか―胎児期からの行動メカニズム」(診断と治療社)など。


     ◇

赤ちゃん学
小児科学、発達認知心理学、発達神経学、脳科学、ロボット工学、物理学、教育学、霊長類学などの異分野研究の融合による新しい学問領域。赤ちゃんの運動・認知・言語および社会性の発達とその障害のメカニズムの解明から、ヒトの心の発達までを対象とする。2001年には「日本赤ちゃん学会」が設立。08年に同志社大学内に開所した赤ちゃん学研究センターは、16年に文部科学省の共同利用・共同研究拠点「赤ちゃん学研究拠点」として認定された。

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