0歳~就学するまでの子どもたちの、思いも寄らない行動や不思議な言葉遣いに心当たりはありませんか?編集部では「#乳幼児の謎行動」をSNSで募り、乳幼児の「なんでそうなる?」を、同志社大学赤ちゃん学研究センター長で小児科医の小西行郎さんに聞きました。3回目は、「イヤイヤ、なぜ手足バタバタで表現するの」です。小西先生は「必ずどの子にも訪れる発達の一過程。成長を見守って」と話します。
2歳前後に誰にでも訪れるという「イヤイヤ期」。息子も2歳ごろ、ある日突然「イヤイヤ」がやってきました。
特に困るのが外出中。「帰りたくない」「おもちゃ欲しい」「抱っこして」など、「イヤイヤスイッチ」が入ると、道端で地団太を踏み、その場で床に寝転がり「イヤイヤ」と泣きながら暴れます。
こうなってしまうと、何を言っても手を付けられないし、恥ずかしい。通行の邪魔にもなるので抱っこしようとしても全力で道にへばりついて離れようとせず、最後は力ずくで引き剝がします。
なぜ「イヤイヤ」を「手足バタバタ」や「地団太」で表現するのでしょうか?
〈相談者:2歳11カ月の息子がいる女性記者(32)〉
小西さん
子どもの行動はまず全身を使った運動から、特定の部位を使った運動へと変化するといわれています。
ですから、やがてこの子も全身運動を使って怒ることは止めて、手足を使って表現するようになるでしょう。
①全身で怒りの表現
②足だけで地団駄踏んだり、手で机を叩いたりする
③顔の表情だけで怒りを伝えたりする
「イヤ」の感情、もっと楽に伝えたらいいのに…
記者
小西さん
これは先の説明でお分かりいただけると思います。
怒りの表現の方法も発達段階によって、変化してゆくのですが、それと同時に、他の子のいろいろな怒りの表現方法を見て、修正するということもあるでしょうね。もちろん、親の場合もそうです。
記者
大人の対応にも変化を
小西さん
ただこうした方法しかないのは事実ですが、親御さんの方がワンパターンの反応をするのではなく、時には無視をしたり、いやおうなしに抱きかかえて移動したり、おもちゃなどで気をそらしたりすることも必要でしょう。
こうした行動はそう長続きはしないので問題行動であるとは考えないようにしてください。つまり、特定の時期に見られる特定の行動だと思うことが必要でしょう。
しつけをしてこの行動をなくそうとしても、それは難しいと思います。
記者
小西さん

「必ず」どの子にも・「必ず」卒業
小西さんによると、自我を「自己自意識」あるいは「自意識」というとすれば、「その目覚めは生後9カ月ごろから」とのこと。
それまでは自らが動くことで周囲を探索し、さまざまなことを学ぶ時期ですが、9カ月ごろには他人の意図に気付き、自分が見られていることを認識し、同じ行動を共有することによって、共感を得ようとしたりするようになります。
こうした時期を経て、自己主張をできるだけ強くしていくのが反抗期。
しかし、自己主張をどれだけ強くしても、思い通りにならないことが分かると、子どもはそれなりに周囲との調整、言い換えれば自制心、自己コントロールの時期に入ります。
記者
小西さん
「待ってみる」「じらしてみる」という行動を見せると子どもにとっても新しい発見になります。
記者
変化の「芽」逃さないで
小西さん
この時期に、親御さんが子どものちょっとした変化の新しい「芽」に気づいてあげられるかどうかです。
記者
小西さん
例えば、人に物を分けるとき最初は自分の好きでないものをあげますが、成長してくると、自分の好きな物、おいしい物を分けます。
子どもの力、すごくおもしろい
記者
昔はかたくなにくれなかったのに。特に高価なイチゴは(笑)
イヤイヤ期を脱した一つの成長「自制心」がうちの子にも・・・(涙)
小西さん
大人にとっては小さい事でも、大好きなイチゴをあげるなんて、子どもにとっては「革命」です。突然、ちょっとした芽が「ぽん」と出てくるから、見逃さずに!そのときに褒めてあげると伸びてきます。
子どもの力ってすごくおもしろい。
しつけ、「おしつけ」になることも
そして小西さん、イヤイヤ期の子どもを育てる親御さんに向けて、こんなメッセージを語ってくれました。
「親御さんには、こどもの行動に引き込まれて親もキレたりしないように余裕を持って接していただきたいと思います。ある時期が過ぎると育児体験のなかでほほえましい出来事として思い出話になることが多い行動ではないでしょうか」
「今、しつけと暴力が話題になっていますが、暴力は当然ですが、基本的にしつけという考え方にはあまり賛成しかねます。親の考えや方法を教えるのは『おしつけ』になることが多いのです」
そして何度も繰り返していたのがこの言葉。
「子どもが自ら考え学ぶ存在であるということをもう一度強調しておきたいと思います」
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小西行郎(こにし・ゆくお)
同志社大学赤ちゃん学研究センター長、教授。小児科医。日本赤ちゃん学会理事長。
専門は小児神経、発達神経科学。1947年生まれ。京都大学医学部卒業。
主な著書に「赤ちゃんと脳科学」(集英社新書)、「赤ちゃんのしぐさBOOK」(共著、海竜社)、「はじまりは赤ちゃんから」(赤ちゃんとママ社)、「発達障害の子どもを理解する」(集英社新書)、「今なぜ発達行動学なのか―胎児期からの行動メカニズム」(診断と治療社)など。
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赤ちゃん学
小児科学、発達認知心理学、発達神経学、脳科学、ロボット工学、物理学、教育学、霊長類学などの異分野研究の融合による新しい学問領域。赤ちゃんの運動・認知・言語および社会性の発達とその障害のメカニズムの解明から、ヒトの心の発達までを対象とする。2001年には「日本赤ちゃん学会」が設立。08年に同志社大学内に開所した赤ちゃん学研究センターは、16年に文部科学省の共同利用・共同研究拠点「赤ちゃん学研究拠点」として認定された。
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