連載
「プログラミングで生きる」 不登校の僕が、やっぱり大学へ行く理由

学校で学ぶ必要はあるのか。小学校低学年からずっと不登校だった18歳の青年が、プログラミングを始めたことを機に、「学校で学ぶ必要」を見いだし、今春、見事、慶応大学に入学しました。いまも卒業をめざして、苦手な科目にも取り組みながら通っています。(朝日新聞社会部記者・宮坂麻子)
「集団授業が無理だった」
小3からずっと不登校だった大野智葵(ともき)さん(18)が、初めて「学校で学ぶ必要」を感じたのは、高3のことでした。コンピュータープログラミングが必修の広域通信制(単位制)「コードアカデミー高校」(本部・長野県上田市)で学び、仲間から刺激を受けたことがきっかけです。慶応大環境情報学部に合格し、今春から下宿して通っています。
埼玉県の3人きょうだいの長男。小1で不登校ぎみになり、小2は登校できましたが、小3からはまた不登校になりました。「特別な理由はない。素のまま、周りにめっちゃ話しかけて、うざいと思われていたかもしれないけど」と、大野さんは話します。
勉強は嫌いではありません。地図や方角が苦手で、「これ」とか「あれ」とか指示語が多い会話や、たわいもない会話も得意ではありません。でも、好きなことへの集中力は負けません。小学校低学年で夢中になった現代版ベーゴマ「ベイブレード」は、200種ぐらいのパーツの名前や攻撃力もすべて暗記してしまったほどです。
不登校が続いた小5の時、中学受験をしてリセットしようと、進学塾に通い始めました。でも「集団授業はやっぱり無理だった」と言います。受験もあきらめたころ、プログラミングに出会いました。

「プログラミングで生きるしかない」
ですが、しばらくするとまた登校できなくなりました。「もう学校は無理なんだと思って、絶望しました」
家でプログラミングをして、ご飯を食べ、寝る日々。プログラミング教室は通い続けましたが、学校には登校できませんでした。それでも、私立中学は卒業証書をくれました。「プログラミングで生きるしかないと思った」
母が見つけてきたのが、「コードアカデミー高校」です。長野県周辺で私立佐久長聖中学・高校や、予備校、多数の幼稚園などを経営する「信学会」グループが、2014年春に開校しました。プログラミングを重視しており、約5割が首都圏の生徒と言います。

専門知識のなさを痛感
エンジニアの会話についていけなかったのです。プログラミング教室のOB組織を立ち上げ、(プログラムの開発などを競う)ハッカソンの大会でも優勝していました。「自分はできる」と思っていたのに……。ネットやセキュリティーの根本的な専門知識のなさを痛感しました。そして思いました。「やっぱり大学へ行こう」
高校の先生たちも背中を押してくれました。高3では、独創的なアイデアや卓越した技術を持つ生徒をさらに育てる「未踏ジュニア」に選ばれ、ビジュアルプログラミング言語の開発もしました。そうした経歴を持って慶応大AO入試に挑みました。
合格発表の日、初めて父親が号泣する姿を見ました。

プログラミングのためなら、勉強する気になる
いま、大学で講義を受けていると、「一方的に話す講義なら動画配信で十分なのに」と思うことがよくあります。一方で、教えあう少人数の授業は面白い。苦手な数学もプログラミングの技術を上げるためと思うと、勉強する気になります。
コードアカデミー高校からは、昨春と今春で3人が慶応大に合格。現在約50人の後輩が学びます。成沢文男教頭(59)は言います。「大学がゴールではない。腕を磨き、どこでも仕事をして食べていける社会人になって欲しい」
何事も満遍なくできる子を評価しがちな学校や社会の中で、凸凹の輝く教育を探っていく連載です。
【お知らせ】トークイベントを開きます

10代のハッタツ・トーク!センパイ当事者3人の『ワタシ』的生き方
11月10日(土)、発達障害がある10代の方々を対象にトークイベントを開催しました。
発達障害の当事者であり、自分らしく生きていらっしゃる以下3名が、小中学校のころの生きづらさや今について語りました。
・動画やSNSなどで発達障害について発信している 彩乃さん
・15歳で「HORIZON LABO」を始めたコーヒー焙煎士 岩野響さん
・NPO法人AVENGE OF MISFITS 代表理事 池田誠さん
「学校生活・友人関係がうまくいかない」「親とどうしても通じ合えない」「このまま生きていって、進路やその先の生活は大丈夫だろうか」など不安に思っている人のヒントになる話・共感できる話がたくさんあります。
発達が気になる子どもの親向けポータルサイト「LITALICO発達ナビ」さまとの共催です。イベントの詳細は、発達ナビさまのサイトをご覧ください。
イベントの様子は、ハッシュタグ「#ハッタツトーク」を付けてツイッターで発信しました。2019年5月ごろまで動画でもご覧いただけます。

withnewsは4月から、生きづらさを抱える10代への企画「#withyou」を始めました。日本の若い人たちに届いてほしいと、「#きみとともに」もつけて発信していきます。以下のツイートボタンで、みなさんの生きづらさも聞かせてください。
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