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「空気読めないね」と言われて…発達障害の私が顔出しできる理由
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「私はアスペルガーとADHDです!」。関東地方に住む彩乃さん(29)は1年ほど前、こんなタイトルの動画をYouTubeに投稿しました。発達障害のことを伝えたいと、SNSでも発信しています。子どもの頃から友達付き合いが苦手だった彩乃さん。でも、いまはSNSを通して出会った人たちと、ほどよい距離感で付き合えています。
2017年9月9日、彩乃さんはYouTubeで発達障害について語りました。「これから発達障害の発信とか、コミュニティーを作ったり、いろんな活動をしたいと思っています」
初めは「顔を出して発信するなんて考えられなかった」といいます。でも、ブログや動画で発信する発達障害の当事者に勇気づけられ、自身も発信したいと思うようになりました。
家族や友達との関係がうまくいかず、社会に適応できていなかったという彩乃さん。仕事も長続きしませんでした。「失うものがなくなって、1人で生きていくぞという気持ちでした。良くも悪くも開き直った」。表現者として生きることを決め、同じ時期にツイッターやインスタグラムも始めました。
彩乃さんは昨年3月、アスペルガー症候群、ADHD(注意欠陥・多動性障害)と診断されました。きっかけは、趣味のダンスを通じて出会った友達に受診を勧められたことでした。
「私の会話を聞いていた友達が、あとからメールで『あの態度はないよ』『空気読めてないよ』と指摘してくれました。それまで人間関係が長続きせず、友達が無言で去っていっていました。もしかしたらズケズケ失礼なことを言っていたのかもしれません。自分では空気も読めるし、人の気持ちも分かっていると思っていました」
診断を受けたとき、特にショックはありませんでした。
彩乃さん自身、18歳のときにテレビの特集を見て、「アスペルガー症候群かもしれない」と疑ったことがあります。「友達付き合いが長続きしない」「言葉を真に受けやすい」「頭が真っ白になる『フリーズ』」など、番組で紹介されていたアスペルガー症候群の特徴が、彩乃さんと一致したそうです。
母親に相談しましたが、「障害なんてないよ」と相手にされませんでした。検査をしたいという気持ちを伝えられず、病院に行くことはありませんでした。
子どもの頃は、自分の気持ちを言葉にすることが苦手でした。
女の子にありがちな「派閥」に、小学校3年生ごろからついていけなくなりましたが、それを誰にも伝えることができずに学校に行くのが苦痛になりました。
小5から不登校になり、中学校の入学式には行ったものの、結局次の日から行けずにフリースクールに通いました。しかし、人間関係でつまずき、フリースクールも休学しました。
高校は通信制に進み、それまで学校に行っていなかった分を取り返したいと、勉強や行事を頑張ります。しかし限界以上に頑張り過ぎてしまい、また途中で学校に行けなくなりました。
「先生や親の言うことを真面目に聞いていたけど、うまくいきませんでした。もっとリラックスして楽しめたらよかったとは思います。人の言葉を聞いて行動するよりも、自分の感覚を信じて、自分の声を聞いてあげればよかったです」
人見知りしない性格で、積極的に自分から声を掛けるタイプだという彩乃さん。それでも、友達付き合いは長続きしませんでした。
「友達ってなんだろう、どうしたらうまくいくのかなと悩んだ時期はありました。でも、友達っていなくてもいいというか、1人が好きだったら1人でもいいと思います」
発達障害のことを発信し始めてから、人間関係にも変化がありました。
今年の春、発信をきっかけに、友達の紹介で出会った男性と結婚しました。YouTubeでは2人の対談も配信しています。そして、友達とは言えないまでも、ネットや当事者のイベントを通じて出会った人たちと新しい人間関係が築けているそうです。
「いま特別友達がいるわけではないけど、寂しいとか、友達がほしいという気持ちはありません。結婚して話し相手がいるというのもあると思いますけど、1人でも信頼できる人がいれば、たくさん友達がいなくてもいいのかな」
「友達というつながりじゃなくても、私の場合、当事者のイベントを開いてつながりができたり、そこで出会った子にトークショーを配信したときにゲストとして来てもらったり。なんて表して良いかわからないつながりがたくさんあるので、友達にこだわらなくてもいいと思うようになりました」
「障害を公表するなんて勇気ありますね!」ってよく言われるけど、私にとってはなんの勇気もなくて、隠す方が私は苦痛だった。
— 彩乃🌏国境なきアスペルガー (@asd_life1989) 2018年10月26日
勇気の定義って漠然としていて、端からすると勇気に見えても本人にとっては普通のことだったり、はたまたそうせざるを得ない状況だったり、勇気って分からんね。
彩乃さんは、発達障害を「障害」とは思っていません。
「その人が生きづらさを感じていたら『障害』になってしまうけど、普通に生きている人もいます。『障害』という言葉がなくなっていくといいです。周りが『障害』に過剰反応していると思います。私の家族は『あなたはしっかりしているし、やればできるよ』と言ってくれたけど、『障害』のイメージが重々しいから、そう言ったのだと思います」
発達障害という言葉が広まってきている実感はあります。でも、知ることと理解することの間にはハードルを感じています。
「たとえ周囲が私の障害を知ったところで、受け入れてもらえるわけではありません。受診を勧めてくれた友達でさえも、私の理解力の遅さや思考回路、コミュニケーション能力や人前での振る舞いについて理解がないように感じました。それがアスペルガーや私の特性だということが分からなかったのかなという感じがします」
発達障害とひとことで言っても、人それぞれ特性は違います。
「私は一つの事例でしかありませんが、私の発信を見て『自分と似てる』と思って病院へ行き、診断された人も何人かいました。共感してくれる人もたくさんいる。だから、こういう『得意・不得意』がありますということを、できるだけ伝えていきたいです」
彩乃さんは、もっと発信する人が増えるといいと考えています。
「凸凹の障害と言われていますが、出ている部分とへこんでいる部分は一人一人違います。発信する当事者が増えていったら、私には共感できなくても、ほかの人には共感できるかもしれない。積極的に発信していってほしいです」
「ブログをやりたいけど知識がない、書く勇気がないと言われることがありますが、基本的な発達障害の知識は、本やネットにたくさん書いてある。そうじゃなくて、当事者が自分の感覚を伝えたらいいと思います」
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