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連載

#91 #withyou ~きみとともに~

発達障害の家庭教師、増えてます 家に同行すると…塗り絵で集中力!

発達障害の可能性がある子どもを専門にした家庭教師が増えています。学校の現場では、特別支援教育への知識や経験がある教師の数が十分でないことが背景にあるためなどのようです。どのように教えているのでしょうか。家庭教師の仕事現場へ実際に同行させてもらい、取材しました。

ある男子生徒の授業。集中力を途切れさせないため、並べた積み木の通りに色を塗ってもらうことも=愛知県内
ある男子生徒の授業。集中力を途切れさせないため、並べた積み木の通りに色を塗ってもらうことも=愛知県内 出典: 朝日新聞

目次

 発達障害の可能性がある子ども専門の家庭教師が増えています。「教育を十分に受けさせたい」という保護者は多いのですが、学校の現場には、特別支援教育の知識や経験がある教師の数が十分ではないことも背景にあるようです。家庭教師の方に同行し、その授業の様子を取材させてもらいました。(朝日新聞デジタル編集部・影山遼)

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教材を次々と

 授業に同行したのは、取材当時に愛知県内の中学1年だった男子生徒の家です。生徒の母親に話を聞くと、高機能広汎(こうはん)性発達障害と診断されたこの生徒は、図形の認識が苦手だったり、飽きやすく、集団行動にもなじめなかったりしたそうです。

 家庭教師の大矢敦嗣(あつし)さんは90分の英語の授業の間、教材を次々と変えていきます。積み木を並べ、その通りにテキストの図形の色を塗り、9枚の動物の絵柄から一つだけ違うものを選ぶ…。集中力を途切れさせないための工夫です。

 大矢さんはアメリカの大学で約2年間、学習障害の子どもに対する指導法を学んできました。「こだわりが強い子が多いので、じっくりと向き合って、潜在能力を引き出すことが大事」と説明します。

 生徒の母親が最初、近所の塾へ行かせたところ、簡単な質問に答えられず、「この子は無理」と拒否されたといいます。一方で、大矢さんに対しては「このままを受け止めてくれるから続いている」と話していました。

男子中学生(右)に授業をする家庭教師の大矢敦嗣さん。飽きさせないよう次々と教材を投入=愛知県内
男子中学生(右)に授業をする家庭教師の大矢敦嗣さん。飽きさせないよう次々と教材を投入=愛知県内

同じ人がずっと担当

 大矢さんが所属していたのは、東海3県に家庭教師の派遣をしているGUTS(名古屋市)。2012年に「発達障害コース」を設けました。古賀浩嗣(ひろし)社長はコースを設立したきっかけについて、「保護者から相談が増えてきたからです。問い合わせは全国から寄せられました」と語ります。

 授業では生徒ごとの特性に合わせて、視覚に刺激を与えるカラフルな教材を使うほか、歴史をうまく覚えられない子には歴史上の人物が載ったカードでゲームをさせたり、計算の苦手な子には教材に玩具のブロックを使ったりしていました。

 現在は家庭教師でなく、教師1人が生徒1人を担当する塾に力を置いています。担当者によると、2013年から始めた塾は、名古屋市に4教室・豊田市に1教室、計約250人が通うまでに増えたといいます。発達障害が疑われる生徒の割合が大多数を占めています。

 教える側には、大学で心理学や特別支援教育を学んだ人や、身内に発達障害の人がいて育てた経験がある人などがいます。料金は1時間あたり6千円ほど。「教材をたくさんそろえ、個人にあった教え方をしています。環境が変わるとしんどい子が多いので、同じ先生がずっと担当します」と担当者。評判を聞き、三重や岐阜から通っている生徒もいます。

絵を使って教える家庭教師
絵を使って教える家庭教師

「実績」はバラバラ

 知的障害のある子どもへの家庭教師の派遣を1999年から始めたガッツソウルカンパニー(大阪市)。名前は似ていますが、前述のGUTSとは関係ありません。社長の高田成啓(なりひろ)さんは「学校で十分に見てもらえず、最終的にうちに行き着いた人が目立ちます」。また、同業他社のマイ・プラン(名古屋市)には、次の日の学校の準備ができない子どもに、やり方を教える家庭教師もいるといいます。本多伸光社長は「保護者の中には、まず日常生活をしっかり送れることを望む方も多いです」と話しました。

 親が求める目標は生徒によって異なるため、各社の「実績」はバラバラです。
 
 作文を1行も書けなかった小学生が原稿用紙1枚書けるようになった、漢字が書けなかった中学生が漢字テストで平均点を取れるようになった、通信簿がオール2だった中学生の生徒が2年間でオール4以上になって進学校に進んだ……。

 全国展開をしているアークスタイル(大阪市)の担当者は「派遣する専門の家庭教師の数は都市部でも足りません。統計はありませんが、全国的に不足しているのではないでしょうか」と分析してくれました。

 大阪府枚方市牧野阪二丁目の学習塾「ガッツソウルカンパニー」。経営者の高田成啓さん(三〇)が、ダウン症の子を持つ親から相談を受けて昨年十月、実験的に始めた。障害児教育の経験がなかったため、独自に医学書や専門書を読み、保護者の会や障害児教育の勉強会に出席するなどして指導方法を学んだ。
 派遣に際しては、高田さんがまず家庭訪問し保護者の希望や子どもの状態を確認。教科の学習と、社会常識の習得の二つを並行して進める。学習面では子どもの好きながん具を使って数の概念を教え、体の部位を示して読み書きを教えるなどしている。また、電車の乗車やスーパーでの買い物で少しずつ距離を遠くしたり、金額を高くしたりして、社会常識を身につけるようにしている。
2000年11月25日付朝日新聞「障害ある子に家庭教師派遣」
体を動かして教える家庭教師
体を動かして教える家庭教師

教授「自尊心の尊重を」

 三重大学大学院医学系研究科の成田正明教授は「家庭教師が増えているということは、学習障害などと診断される子どもが増えているとされることと一体ではないでしょうか。家庭教師はただ遅れを取り戻すだけでなく、その子どもが何が得意で何が苦手かを正しく理解し、自尊心を尊重する指導を目指すことが望ましいです」と強調しました。

 学校では一律に授業を進めなくてはならず、カバーしきれない部分もあります。ですが個別の対応を必要とする人がいる中、こうした家庭教師や塾の重要性がますます高まるのではないかと感じる取材になりました。

 2017年の文部科学省の調査によると、全国の公立の小中学校で、通常学級に在籍しながら個々の障害に応じて特別な授業も受ける「通級による指導」を受けている発達障害の児童・生徒の人数は5万4247人。5年間で約1.8倍に増加しています。内訳は、自閉症(1万9567人)、注意欠陥・多動性障害(1万8135人)、学習障害(1万6545人)です。
文部科学省(平成29年度特別支援教育に関する調査の結果について)

【お知らせ】トークイベントを開きます


10代のハッタツ・トーク!センパイ当事者3人の『ワタシ』的生き方

 11月10日(土)、発達障害がある10代の方々を対象にトークイベントを開催しました。

 発達障害の当事者であり、自分らしく生きていらっしゃる以下3名が、小中学校のころの生きづらさや今について語りました。

動画やSNSなどで発達障害について発信している 彩乃さん
15歳で「HORIZON LABO」を始めたコーヒー焙煎士 岩野響さん
NPO法人AVENGE OF MISFITS 代表理事 池田誠さん  

 「学校生活・友人関係がうまくいかない」「親とどうしても通じ合えない」「このまま生きていって、進路やその先の生活は大丈夫だろうか」など不安に思っている人のヒントになる話・共感できる話がたくさんあります。

 発達が気になる子どもの親向けポータルサイト「LITALICO発達ナビ」さまとの共催です。イベントの詳細は、発達ナビさまのサイトをご覧ください。

 イベントの様子は、ハッシュタグ「#ハッタツトーク」を付けてツイッターで発信しました。2019年5月ごろまで動画でもご覧いただけます。
 
ハッタツ・トーク!イベント動画はコチラ
 
 

 withnewsは4月から、生きづらさを抱える10代への企画「#withyou」を始めました。日本の若い人たちに届いてほしいと、「#きみとともに」もつけて発信していきます。以下のツイートボタンで、みなさんの生きづらさも聞かせてください。


みんなの「#withyou #きみとともに」を見る

 

いろんな相談先があります

・24時間こどもSOSダイヤル 0120-0-78310(なやみ言おう)
・こどものSOS相談窓口(文部科学省サイト
・いのち支える窓口一覧(自殺総合対策推進センターサイト

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