連載
「いじめ加害者の告白」を読む「周りに笑ってほしくてエスカレート」
「いじめている君へ」「いじめていた私」。ふたつのテーマで、10代に作文投稿を募りました。絵本「いじめているきみへ」を発売したばかりの「はるかぜちゃん」こと春名風花さんに、集まった投稿を読んでもらいました。

「いじめている君へ」「いじめていた私」。ふたつのテーマで、10代に作文投稿を募りました。被害者からは「君のことを許さない」という苦しみ、恨み。加害者からは「友だちと一緒にいるためにいじめた」「正義感だった」という赤裸々な告白がつづられていました。12歳の時からいじめ問題で発信を続け、絵本「いじめているきみへ」も手がけた女優の春名風花さん(17)に、投稿を読んでもらいました。

投稿は、7月末から8月上旬にかけて、朝日新聞のサイトで募集しました。回答欄で自分の年齢を選んでもらい、自身の経験談を投稿してもらいました。
高校生向けニュースサイト「高校生新聞オンライン」の協力も得て、15~19歳まで約20件の投稿が集まりました。
ひとりになってしまう、怖い
春名さんは、12歳の時に朝日新聞に「いじめている君へ」を寄稿し、大きな反響を呼びました。同じ10代の投稿に、何を感じるのでしょうか。
まず春名さんが注目したのは、「いじめていた私」、つまり加害者たちの投稿でした。
春名 「投稿してくださるくらいなので、やはり罪の意識があって、言葉が重くてリアルですね…」
例えば、16歳の女性からの投稿(抜粋。年齢・性別などは自己申告。以下同)。
私にはその友達しかいませんでした。「あの子1人なんだ」って思われるのが怖くて、その友達とずっと一緒にいるために、いじめにのっていた。私は悪いことをしていないなんて1度も思ったことはない。
今でもその子のことや自分のした事を思い出して、泣く時があります。たまに朝の通学路でも会います。 話す機会はあるのに、謝りたい気持ちがあるのに、謝れない。私は弱い人間です。
春名 「学校で独りになることって、やっぱり重いんだなと思いました。個人としてどう過ごすかより、グループとしてどう過ごすか。自分の中の正義より、グループの空気として正しいことが優先されてしまう。この女性の友だち2人も、本当にいじめをしたかったわけじゃないかもしれないのが、怖いところだと思います」

正義感で、いじめていた
「正義感でいじめていた」という告白もありました。
埼玉県の19歳の方です。
大人にはずっといい子だと言われてきたし、男女問わず友達になれるし、周りの人にはできれば笑っていてほしい。私にとって彼へのいじめは、その延長だった。私が彼をいじめる事で、周りで見ている人が笑ってくれるのだ。いじめをしているというよりは、どちらかというと正義感だった。
最初のきっかけは、私が彼にキツい言葉でツッコミを入れたのを、周りが笑ったとかそんな些細なことだ。それがどんどんエスカレートしていじめになった。
「誰かに認められるため」「自分を主張するため」にいじめをしている人がいたら、ちょっと冷静になってほしい。「いじめること」じゃなくとも、あなたの魅力を伝える方法はたくさんある。
春名 「いじめって、承認欲求からきているものもあるのかなと。人を傷つけるというのは、傷つけられた側の人に自分を刻み込むことだと思うし、いじめることで、一緒にいじめをしている仲間にも認めてもらえる」
「でもそこで得られる承認はすぐ消えてしまうもの。それに、楽しいという感情のうしろに『次は自分がいじめられるかもしれない』という恐怖も一緒についてきてしまいますよね」

「いじめていた私」に投稿した人たちは、もちろんいじめた経験がある人たちですが、同時にいじめられた経験もあるという人が、ほとんどでした。
春名 「いじめられると、自尊心が失われます。いじめられることで、さらにグループに固執するようになって、グループ内でいじめが起きた時に、加担してしまうのかなと思いました。やらなければ、次は自分がやられるという恐怖にとりつかれる。危機回避能力を発揮した結果、いじめる側にまわるというのもあるのかなと」
凶器は包丁ではなく、ただの刃
いろんな事情はあれ、やはり投稿してきた加害者たちは、罪の意識をもっていました。「許してなんて言わないから、もう一度謝らせて」「私はひきょう者だ」という後悔の言葉が、異口同音に出てきます。
春名 「人を傷つける時に使うナイフって、包丁みたいに持ち手が安全だと思っていたけれど、本当はただの刃で、握っている自分だって傷ついているんですよね。人を不幸にしたという罪の意識は、すごく重いものなんですね」
「いじめている瞬間に罪の意識をもっている人って、少ないと思います。学校の中で大事にしていたものが、大人になって大事でなくなった時に、なんであんなもののために人を傷つけていたのだろうという感情につながるのかなって思いました」

「いじめは意識の外で起きている」と書いた人もいました。
17歳の女性です。
私は、いじめは意識の外で起こると思っている。多分最初はそう。「やってはならない何か」「制御するべき大切なもの」が意識の外に出てしまった時に、いじめが始まるのかもしれない。
いじめが進んでから、意識の中に大切なものが戻って来てももう遅くて、そこからは「もうこんなことやめたい」って気持ちと、「やるしかないんだ」って気持ちでごちゃ混ぜになる。
だから私は、先生にいじめのことで呼び止められた時、心の中でちょっとホッとした。

明日は当たり前に来ない
一方で、もうひとつの投稿テーマ「いじめている君へ」には、被害者が書いたものが多く寄せられました。
こちらは、大阪府の18歳の女性。
君が変わらない限り私は君の事を許しません。いじめられている子に明日は当たり前には来ないんです。今日生きる事で精一杯です。君がそうさせているんです。
春名さんが12歳の時に書いたのも「いじめている君へ」でした。
先日、その文章にイラストをつけた絵本「いじめているきみへ」(朝日新聞出版)を発売したばかりです。
春名 「ぼくは、傍観者のつもりで書きました。やっぱり被害者が書くものは、いじめた側を責める言葉がとても多いですね。でも結論は似ているところが、興味深いです
結論とは、「想像してほしい」という部分。
たとえばこちらは、千葉県の16歳の女性です。
だけど、想像はできるでしょ? だから、君には想像する人に変わってほしい。相手の痛みを想像してなかったからいじめてしまったんでしょ? だから、想像して。相手の気持ち。 変わった君なら、私、許せるから。 変わって。君のために。変わって。私が君を忘れるために。
春名 「最初に許さないよって書いているのに、少し変われば許せると。いじめた側の気持ちを想像して書いているのかなっていう気もして。人の意識に絶対はなくて、変わることもある。そこに希望を持っているというのが、とても……なんだろうな……強い人ですね」

許せないのは、大人
いじめの傍観者をめぐる投稿も、あります。
北海道の16歳の女性。
私が最も許せなかったのは、子供より断然大きな力を持っているにも関わらず、知らないふりをした大人。だから一つだけ。そんな大人にはならないでほしい。一歩間違えたら人が亡くなってしまう問題だからこそ、少しだけでも手を差し伸べられるような大人になって欲しい。
今はできなくてもこれから先、少しでも助けられる力があるのなら、貸して欲しい。
春名 「いじめの加害者は、いじめているとは思っていないと言いますが、傍観者は気づいていますよね。いじめの解決は、やはり当事者同士では難しい部分があって、第三者の存在が大きいと思います」
春名さんは、現在高校3年生。
「自分は芸能活動をしていたので、他の子とは感じ方が違うのかなって思っていました。でも、投稿を読んでみて、同年代のみなさんとの差は感じませんでした。どんな生き方をしていても、学校という空間では、あまり差はないんですね。知ることができて、本当によかったです」


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