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「ファンが自殺した」それでも寄り添いたい 女優とバンドマンの決意
寄り添うって、どういうことでしょう。いじめ問題で発信を続ける「はるかぜちゃん」こと女優・春名風花さんと、いじめられた経験を赤裸々に歌うロックバンド「それでも世界が続くなら」のボーカル・篠塚将行さん。いじめ問題を語り合ううちに、2人から飛び出したのは、衝撃的なファンの死でした。
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寄り添うって、どういうことでしょう。いじめ問題で発信を続ける「はるかぜちゃん」こと女優・春名風花さんと、いじめられた経験を赤裸々に歌うロックバンド「それでも世界が続くなら」のボーカル・篠塚将行さん。いじめ問題を語り合ううちに、2人から飛び出したのは、衝撃的なファンの死でした。
寄り添うって、どういうことでしょう。いじめ問題で発信を続ける「はるかぜちゃん」こと女優・春名風花さんと、いじめられた経験を赤裸々に歌うロックバンド「それでも世界が続くなら」のボーカル・篠塚将行さん。いじめ問題を語り合ううちに、2人から飛び出したのは、衝撃的なファンの死でした。「救うなんておこがましい」「でも諦めたくない」。二人三脚の自問自答です。(朝日新聞デジタル編集部記者・原田朱美)
篠塚 「僕は6年前の春名さんの『いじめている君へ』を読んでましたよ」
春名 「本当ですか! うれしい!」
<春名さんは2012年、12歳の時に朝日新聞に「いじめている君へ」という寄稿を載せ、大きな反響を呼びました。8月20日にはこの記事に美しいイラストを付けた絵本「いじめているきみへ」を出版しました>
篠塚 「当時びっくりしたし、僕が思っていたことがこの中にあるなと、嬉しかったです」
<篠塚さんは、小学生の頃から激しいいじめを受けていたそうです。篠塚さんが作詞作曲してきた「それでも世界が続くなら」の曲の歌詞には、生々しい傷がたくさん出てきます>
篠塚 「春名さんが書いているみたいに、いじめる側に対して『こいつ、この先自分がいじめたことなんて覚えてねーんだろうな』って思っていました。変な話、死んで分からせてやるという自殺もあると思うんです。俺が先生に訴えようが、不登校になろうが、それくらいじゃ何も変わらないことは、分かっている」
篠塚 「いやもう…全然そんな…。むしろ俺が聞きたいくらいです。ずっと試行錯誤というか。どうやったら仲良くなれるのかなとか、どうやったらわかり合えるのかなっていうか。なんとなく無理なような、でも諦めたくないような。ずっと試行錯誤っすね」
<篠塚さんは、「なんていうんですかね…」「やっぱり…いや…」と、何度も言葉を選び直します>
篠塚 「何回ライブしても何回歌っても、『(苦しむ人の)代弁者だ』とか言われても、感覚はないんすよね。誰かの心に寄り添えてる感覚が。ぜんっぜんない」
篠塚 「自分たちのCDをずっと聞いてくれた子の中に、自殺した子もいますし…。救うも救わないもないじゃないですか。結局救えなかった。救うなんておこがましいですけどね…。何も出来なかったやつでしかないじゃないですか…。しょうがないですよね。そういう奴だと思うしかない」
<「来年の誕生日には死なせて」「生きていたい」。篠塚さんが書く歌詞には、死と生という文字が何度も出てきます>
篠塚 「誰かの力には、なれてるかもしれないですけどね。でも結局、自分で自分をなんとかしてもらうしかないんです。僕らが抱えられる人数って確実に限界があるし、僕はずっといっしょにいられない。24時間365日いられない。片時も離れず一緒にいられるのは、自分しかない。親でも友だちでも音楽でもない。自分しかいない。自分のことを自分で大切に思ってもらうしかないっていうか」
春名 「共感で泣きそうです…」
春名 「ぼくも、ツイッターのフォロワーさんに、自殺をしちゃった子がいて…。ぼくはその子のことを自殺するまで知らなくて。アンチの人から『お前、偉そうにいろいろ言ってるけど、フォロワー死んでるぞ』と教えられました。それで、その子のツイッターを見に行ったら、その子がフォローしているのがブログの管理サイトとぼくだけだったんです」
篠塚 「マジですか……」
<「その子」は当時、中学3年生。14歳でした。春名さんが朝日新聞に「いじめている君へ」を掲載し、大反響になった少し後のことです>
春名 「その子のツイートをたどったら、『春名風花になりたい。あこがれる』って書いてあったんです。あの時はちょっと心が弱っていて、エゴサーチをしていなかった。していたら気付けていたかもしれない。その子が死んではじめて自分がその子を認識したっていう事実がすごくつらくて」
<春名さんは、「その子」の死を知らされた直後、見つけるのが遅くなってごめんねと、「その子」のツイッターをフォローしました>
春名 「それが今でも引っかかっていて。その子たちを救えるのはその子たちしかいないから、こちらは受け止めるしかない。だけど、だからといって何もしないのは自分の気が済まないというか。自分がなにか発信し続けることで、こういう考え方もあるよって届けられたら良いなと思っていて。いまファンの子で自殺した人がいるって話を聞いて、いろいろ思い出しちゃって…」
「その子のなかに春名風花が存在していたっていうことがとても嬉しくもあり、いろんな発信をしてきたけれど、救えるほどの力はなかったんだなという無力感もあり。ぼくは結局、悩んでいる子のことを詳しく知ることができるわけじゃないし、ただ言っているだけしかできない。でも他にできることはなくて、どう考えてもなくて。やっぱり発信を頑張るしかない」
<春名さんは、いじめ問題で積極的に発信を続けていますが、自分の学校生活ではいじめを受けておらず、「当事者ではない」と言います>
春名 「ぼくは恵まれた環境にあるっていう自覚があったから、あんまり当事者には寄り添えていないのかなって思ったことがあります」
篠塚 「えっ! 春名さんは当事者でしょう。ネット上で12~13歳の頃から、かみ殺されそうなくらい、攻撃されていたじゃないですか。僕はあんな状況、耐えられる自信ないです。心に起きた苦しいことって、ネット上での出来事だとリアルじゃないんですか。分ける意味ないですよ」
春名 「ぼく、学校のスクールカーストでは微妙な位置だったんです。0歳から芸能活動をしていたから、『こいつはテレビに出るやつだ』と思われつつ、ぼく自身の性質としては弱者だったから、虎の威を借るじゃないですけど、『強者の地位を手に入れている弱者』みたいな」
篠塚 「あははは なんとなく想像できます(笑)」
春名 「無視されたりとかいじめられるわけでもなく。くらげみたいな感じで、ふわふわと学校の中で生きてて、グサリと刺された経験があまりないと思ってるんです」
篠塚 「そもそも僕は、全員当事者だと思っています。僕がいじめられていた時、『大丈夫?』って声をかけてくれたやつの顔を覚えています。そいつは、大丈夫って言ってくれた次の休み時間、僕が殴られたり、ゴミみたいな扱いをされたりしている時、僕を見て笑っていたんですよね。そいつは傍観者じゃない」
「春名さんは、いじめ問題を発信することで、人からいろんなことを言われるだろうに、それでも寄り添おうとする。しかも短期間の気分的なものじゃなくて、長期間やっている。完全に当事者ですよ。過去にどういう経験があったかで分けるのはおかしい」
篠塚 「ツイートボタンひとつ押すのだって、誰かの力になれるかもしれない、でも同時に誰かの攻撃の的になるかもしれない。そんな気軽じゃないじゃないですか。で、案の定突き刺してくるやつもいるわけで。そのボタンの重さとか、僕は耐えられないと思います。だから春名さんはかっこいいなと思いますし、同時にいつかキャパオーバーになるんじゃないか、大丈夫かなって思ってしまいます」
春名 「えへへ。めっちゃ嬉しいです。でも大丈夫ですよ。ぼく最近、エゴっていう言葉を好きになったんです。自己中心的という意味じゃなくて、自我という意味の。ぼくは、お芝居が好きだからやるし、いじめが嫌いだからなくすのを頑張る。それだけです」
篠塚 「うわあ、全く同意見です。素晴らしいことだからやるとか、やっぱり僕ダメだと思うんです。好きな人に告白する時、成功するだろうなじゃなくて、『嫌かもしれないけど、好きだし一緒にいたいんだよね』って伝えるじゃないですか。人が本気でものを伝える時って、『君のため』じゃない」
「僕はいじめられっ子の代弁なんてできないけど、ただ、いじめられていた時の僕だったら、『君のためにやってあげているんだよ』って言われたら、そいつのことは苦手ですね。どんなに力になってくれたとしても、重かったと思います」
「自己肯定感が低いから、こんなおれのために悪いよって思う人間になっちゃってるんですよね。癖で言っちゃうんです。『申し訳ないから、やめてくれ』と。そのときに、『私が嫌だからやってるだけなの』って言われたらなんもいえないし、ありがとうって思いますよね。俺なら」
春名 「よっしゃ(笑)」
篠塚 「随筆家の高橋歩さんが言っていたんですが、『誰かのためにするっていうことは、誰かのせいにするっていうこと』。『あなたのためにやってる』は、叶わなかった時に『あなたのためにやったのに』になる。自分が言いたいから言う、動きたいから動くというのは美しいことだなと思います。だれのせいにもしないわけじゃないですか。僕はそういうのは好きです」
◇
「寄り添う」ことを、どこまでも真剣に、正面から考えようとする春名さんと篠塚さん。
後編は、ふたりが考えるいじめの解決策をご紹介します。
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