連載
#1 LGBTのいま
「LGBTさん、さようなら」 同性婚の牧村朝子さんが宣言、その真意
「拝啓 LGBTという概念さんへ」。タレントの牧村朝子さん(28)は、雑誌「現代思想」(青土社)の2015年10月号に、こんな「手紙」を寄せた。LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字。今は「性的少数者」とほぼ同じ意味で使われることが多い。牧村さんは、フランス人女性との結婚を公表し、レズビアンとして文筆活動もしてきた。でも手紙では、もう「『LGBT当事者』を名乗らない」と宣言した。真意を聞いた。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)
「私は、LGBTとして生きたいわけじゃないんです」。牧村さんは、一言ずつ慎重に言葉を選ぶ。
米国で見た「LGBT村」の話をしてくれた。LGBT当事者が集まって暮らす街。そこに住む人々は「ここは見本市だ」と誇ったという。
LGBTでもこんなに立派な家に住み、仲間たちと楽しく幸せに暮らしている。私たちのようなLGBTになろうという「見本」。牧村さんは「どうして生き方を狭めるんだろう? ここに住まないLGBTのことは考えないんだろうか?」と疑問を投げる。
LGBTという言葉は1990年代に米国で生まれた。別々に活動していたLとGとBとTが、連帯してたたかおうと、自分たちを「LGBT」と名付けた。
牧村さんは、「LGBTさん」に宛てた手紙の冒頭で「華々しい成功を、心よりおよろこび申し上げます」とつづった。LGBTの約20年の歴史の中で、彼らを取り巻く環境は少しずつ改善した。欧米を中心に同性婚を認める国が増え、国連もLGBTの人権保護に取り組む。
日本でも、ここ数年でLGBTという言葉が急速に広まった。LGBT向けと冠したSNSや結婚式など、立場が弱い彼らの役に立とうというサービスも生まれている。
LGBTの連帯がこうした「華々しい成功」を挙げた一方で、あたかも人々が「LGBTと非LGBT」に二分されていくように感じると、牧村さんは言う。「『男らしさ』『女らしさ』という性で悩むのはLGBTじゃなくても同じなのに。性のことは、みんなが当事者なのに」。
「世界には男と女しかいない」という二分法に苦しめられ、その柵を壊そうと闘ってきた人々がLGBT。でも今度は「LGBTであるか否か」で新たな柵が生まれているように見える、という。
牧村さんは、手紙の中でこう書いた。
「もうどこにも閉じ込めないで。……LGBTらしいあり方を求められたくなんかないし、『LGBT当事者としての意見』だなんて持ってはいないのです。私は、私でしかありません」。
そして、「LGBTさん」に呼びかけて、手紙を締めくくった。
「私は、あなたの子です。男を愛せる”正しい女”にならなければと、彼女への想いを殺すことを努力と呼んでいた私に、手を差し伸べ、自由に生きろと育ててくれた、あなたのおかげで私があるのです。だからこそ。さようなら」
最後に、手紙の反響を聞いた。「ゲイだけど別に2丁目で生きていかなくてもいいんだと勇気をもらった」といった評価が多かった一方で、異を唱える声もあったという。
「まだ日本では同性婚が認められていないし、LGBTであることを苦に自殺する人もいる。LGBTの連帯を手放すのは早いんじゃないか」という指摘だ。
牧村さんは「LGBTと名乗りたい人は名乗っていいと思う。でもLGBTの連帯は通過点で、LGBTとして生きるのが最終目標ではないよねと指摘する人は、必要だと思う」と、語った。
「LGBTのいま」は4月30日発行の朝日新聞夕刊紙面(東京本社版)「ココハツ」と連動して配信しました。
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