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連載

#38 小さく生まれた赤ちゃんたち

23週604gと552gの息子「産むか産まないか」問われた50日

生まれた赤ちゃんの腕は、大人の人さし指くらいの太さでした

妊娠23週552gで生まれた息子。日本では約10人に1人が、2500g未満(低出生体重児)で小さく生まれています
妊娠23週552gで生まれた息子。日本では約10人に1人が、2500g未満(低出生体重児)で小さく生まれています

目次

小さく生まれた赤ちゃんたち
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日本では約10人に1人が、2500g未満で生まれる「低出生体重児」です。4年前、我が家の双子も妊娠23週に604gと552gで小さく生まれました。腕は大人の人差し指くらいの太さで、手は人差し指の第一関節くらいの大きさ。皮膚は真っ赤で、ガリガリでした。小さな命は、保育器の中で一生懸命生きていました。妊娠14週で破水し、23週で出産した当時の様子を振り返ります。

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医療の進歩とともに変わった「生育限界」

双子の赤ちゃんを妊娠して14週4日の夜、私は突然破水しました。できるだけおなかに赤ちゃんをとどめておけるよう、入院して様子を見ていました。

2週間くらいと言われていた入院生活ですが、その後、幸運にも大きな変化はなく、ふたりの心臓は動き続けました。

そして入院52日目、一つの基準である22週を迎えました。赤ちゃんが体外で生きていける「生育限界」といわれています。21週までは生まれたとしても蘇生されることはなく、「流産」になるのです。

この基準は医療技術の進歩とともに変わってきていて、1953年には妊娠28週未満、1976年には24週未満、1991年に今の22週未満になったそうです(「優生保護法の施行について」厚生事務次官通知)。

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「産むか、産まないか」を考え続けた50日

明確ではないものの、医師からは常々「産むか、産まないか」を考えさせられる言葉がありました。

入院時の説明では「生まれるか分からない」と同時に「生まれても重い障がいが残る可能性がある」と告げられ、22週が近くなると、生まれたとしても「治療をするか、しないか、考えないといけない」と言われていました。

しかし、「産まない、治療をしない」を選択する気はありませんでした。破水は急なことでしたが、長引く入院生活の中で赤ちゃんの「死」と「障がい」については十分考える時間があり、気持ちの整理はできていたつもりです。その過程で多くの記事や体験談、情報も参考にしました。

「今日元気に動いていても、明日この心音を聞けるとは限らない」という日々だったからこそ、「ふたりが頑張ってくれている限り、私から命を終わらせることはしない」と思っていました。

これまで、何人もの障がいがある人と関わったり、周囲の人から話を聞いたりした経験もあって、私自身は障がいが産まない理由にはならないとも考えていました。ただ、夫はどう思っていたのか、当時聞いてはいません。

二人で育てていくのだからとてつもなく大事な問題。ですが、夫の考えを聞くのが怖かったのが正直なところでした。

信じていないわけではないけど、万が一産むことを否定する言葉や躊躇する言葉が返ってきたらショックが大きい。ましてや入院中で面と向かって話す機会はほとんどないので、意見がすれ違ったら大きなしこりが残る気がしていたのです。

夫からも、赤ちゃんの今後をどうするか話題にされたことはありませんでした。もし産まないことを願っていたなら、本人から話題にしてきたのではないかと思います。生まれた後、夫に当時の思いを聞いてみると、案外しれっと答えが返ってきました。

「産むつもりなのは分かってたし、特に相談する必要もないかなって。仮に障がいがあったとしても、頑張って出てきてくれたならそれは生きていけるってことだと思うから。あとは親としてできる限りのことをするよ」

結果的に同じ方向を向いていたようでしたが、夫は夫なりに、十分考える時間を作っていたのかもしれません。

 
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23週に入った日の未明に

「正直、良くも悪くもならずこの状況が続くと思いませんでした」

22週を迎え、前向きに産むことだけを考えていたとき、担当医に言われました。どういう意図があったのかは分かりませんが、嬉しくて笑ってしまいました。

もうしばらくお腹にいてね。そう思っていた矢先、また大量の「水」が流れてきました。23週に入った日の未明、もうひとりのほうも破水したのです。

ふたりとも破水してしまったら、もうお腹のなかに長くはいられない。でも、このときは入院時より絶望感はありませんでした。

それから帝王切開に向けて準備が進められ、2度目の破水から4日後に出産となりました。

画像はイメージです=Getty Images
画像はイメージです=Getty Images

両手に収まる赤ちゃん

赤ちゃんは604gと552g、身長は約30cm。足を曲げているとペットボトルと同じくらいの、両手に収まる大きさです。

本来であれば出産予定日は8月。初期の妊婦健診で、「双子は早産の心配があって、産休に入る前に入院もあるかもしれません」と言われていましたが、まさか約4カ月も早い出産になるなんて想像もしていませんでした。「早産」についてきちんと理解していなかったのです。

通常赤ちゃんは妊娠37週以降だと体の機能が十分に成熟しているといわれ、37~41週(正期産)で生まれます。出生時の平均体重は約3000gで、平均身長は約48cm。早産と呼ばれるのは「22週0日~36週6日」での出産です。

新生児仮死状態で生まれたふたりはすぐに蘇生され、NICUへ運ばれていきました。「生きているのか」「大丈夫なのか」「急変しないか」。会えない時間は不安との戦いでした。

出産した翌日から面会へ行きました。「触ってあげてください」と医師や看護師さんたちに勧められ、おそるおそる保育器のなかへ手を伸ばしました。

ふたりの腕は人差し指くらいの太さで、手のひらは人差し指の第一関節くらいの大きさ。頭は軟式野球ボールと同じかそれより小さく、ふにゃふにゃ。皮膚は真っ赤で、ガリガリでした。口やへその緒には治療のための管が何本もつなげられています。

私が退院するまで毎日、数十分から1時間ちょっと面会するのが日課でした。保育器の中で一生懸命生きている姿を見るたびに、「親が弱気でいちゃダメじゃないか」と励まされていました。

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60日間、懸命に生きた弟

羊水がない中でも頑張ってくれた兄は、想定していた通り肺がかなり未成熟でした。

一方の弟は、生後4日で腸に穴が開き、3度手術を受けました。

小さな体で精いっぱい頑張っていましたが、壊死性腸炎という病気のため、生後60日を迎えた日に私の腕の中で旅立ちました。

急変を伝えられた日から約1週間、ゆっくりじっくり親子で過ごす時間を持て、後悔のない別れができたと思っています。

兄はNICUとGCU(新生児回復室)で7カ月過ごした後、4390gに成長して退院。2年ほど在宅酸素療法を続けていました。その後も4回ほど入退院を繰り返していますが、今年で4歳、保育園の年少になります。

体重を聞く機会はないけれど

10人に1人が小さく生まれた赤ちゃんといいますが、そういえば友人や知人が出産したときに赤ちゃんの出生体重や出生週数を聞いたことはありませんでした。わざわざ伝えることでもありませんし、聞く側もそこまで考えないと思います。

ですが、振り返ってみると数人の友人・知人から切迫早産(早産の一歩手前の状態)になったという話を聞いたことはありました。

息子を出産して以降は、保育園のママ友から「うちも小さく生まれたよ」と聞いたり、大学の後輩に「自分も早産で生まれました」と打ち明けられたりするようにもなりました。

私の体験はあくまでもひとつのケースです。小さく生まれた赤ちゃん、ご家族、ひとりひとりにストーリーがあります。小さく生まれた赤ちゃんを取り巻く状況について心を寄せていただけるとうれしいです。

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低出生体重児に関する情報・サポートがあります

◆「低出生体重児 保健指導マニュアル」(厚生労働省・小さく産まれた赤ちゃんへの保健指導のあり方に関する調査 研究会) https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000592914.pdf

◆早産児育児ポータルサイト「Small Baby」 https://www.small-baby.jp/

◆「はじめてのNICU」 https://www.nicu.jp/

◆日本NICU家族会機構(JOIN) https://www.join.or.jp/

◆母子手帳サブブック「リトルベビーハンドブック」に関して NPO法人HANDS
https://www.hands.or.jp/activity/littlebabyhandbook/
 
 

日本では、およそ10人に1人が2500g未満で生まれる小さな赤ちゃんです。医療の発展で、助かる命が増えてきました。一方で様々な課題もあります。小さく生まれた赤ちゃんのご家族やご本人、支える人々の思いを取材していきます。

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