連載
#37 小さく生まれた赤ちゃんたち
14週で〝破水〟するなんて…双子を妊娠、病院のベッドで信じた日々
切迫流産で入院中、「ふたりは絶対生まれてくる」と言い聞かせていました
「大丈夫、ふたりは絶対生まれてくる」。4年前、双子を妊娠中に14週(妊娠4カ月)で破水し、入院していた私は、毎日自分にそう言い聞かせていました。妊娠初期でも破水することがあるなんて、考えたこともありませんでした。「最悪」を想定した医師の言葉に、絶望と不安で押しつぶされそうだった当時の様子を振り返ります。
2021年4月、私は予定日より約4カ月早く、妊娠23週4日(妊娠6カ月)に帝王切開で双子の男の子を出産しました。
体重は604gと552g、身長は約30cm。足を曲げていると、ペットボトルと同じくらいの両手に収まる大きさです。
妊娠14週の夜、何の前触れもなく破水しました。よりによって担当している企画のリモート収録中。まさか破水だと思わず、「尿漏れ」だと思って下着のなかに数枚ティッシュを詰め込みました。
それでも「尿漏れ」は止まりません。20分後、収録の終わりと同時にトイレに駆け込むと、ティッシュは茶褐色に染まっていました。
「14週でも破水ってするのかな? 血っぽいのが出た」。リビングで1歳の長男と遊んでいた夫に伝えて病院に電話をすると、すぐに来るように伝えられました。
急いでタクシーに乗り、スマホで「破水」について検索しましたが、妊娠後期や出産直前の情報がほとんど。「14週 破水」と具体的なワードを入れて検索してやっと、週数が浅くても破水した人のケースに出合いました。
「妊娠初期でも破水するんだ」。半信半疑で病院に到着すると、看護師さんが車いすを押して迎えに来てくれました。向かった先はMFICU(Maternal Fetal Intensive Care Unit)。妊婦と胎児の集中治療室です。
診察の結果はやはり「破水(前期破水)」でした。双子の兄の「部屋」からは羊水がほぼなくなっている状況。超音波検査の画像では、素人の私でも分かるくらい、いつも赤ちゃんの周りにあるはずの空間(羊水)がありませんでした。
「前期破水」とは、陣痛が始まる前に細菌感染や羊水過多、多胎妊娠など何らかの原因で卵膜が破れ、羊水が流れてしまう状態をいいます。「破水」は妊娠するとよく聞く言葉ですが、出産が近い妊婦さんだけに関係することだと思い込んでいました。
お腹の双子は二卵性でそれぞれが卵膜に包まれていたので、弟は特に異常がないようでした。
「突然のことでごめんなさいね」
当直の医師はそう一拍置いて、破水したほうの赤ちゃんが生きて生まれてくることはないだろう、と説明を続けました。
そう言われて涙が出ないはずがありません。「私はふたりを産めないんだ。5日前に診てもらったときには異常なかったのに……」。破水はしたけれど、ふたりはまだお腹のなかで生きていました。
医師からは「今病院にいてもできることはない。入院してもいいけど、家で安静にしている方がご家族に会えていいんじゃないか」と提案され、その日は帰宅しました。
「なんで破水しちゃったんだろう。双子の妊娠なのに、気を遣わなかったから?」
考えても仕方ないのに、そんな問いばかりが出てきました。
破水は炎症や感染、子宮収縮などが原因といわれていますが、多くは原因不明で予防法も確立されていない、ということは後から知りました。
「最悪」を想定した医師の言葉に、不安ばかりが募りました。帰宅後、家にあった胎児超音波心音計で夫と一緒にふたりの心音を聞きました。
本当に心臓が止まってしまうのだろうか。心臓が止まるのを待つしかないなんて。こんな状態では何も考えられず、上司に伝えて翌日は会社を休むことにしました。
翌朝9時すぎ、病院から「即入院」の連絡がありました。破水すると子宮内感染のリスクが高まり、母体に影響する恐れがあるというのです。入院期間は状況次第ですが2週間くらいとのことで、入院の準備をして夫と病院へ向かいました。急なことでしたが、夫も午前中は仕事を休み、入院手続きを手伝ってくれました。
MFICUで改めて診察を受けた後、担当医から淡々と状況の説明がありました。
14週という極めて早い時期に破水した場合、赤ちゃんがひとりだったら中絶を勧める。
ただ、今回は双子で別々の部屋に分かれていて胎盤も別。今のところもうひとり(弟)に異常はなく、すぐに中絶する理由はない。
しかし、破水している方がいつ細菌感染するか分からないし、さい帯(へその緒)が圧迫されて栄養が届かず胎内で亡くなるかもしれない。そうなると、もうひとりに影響する。陣痛が来ることもあるかもしれない。
膜がふさがることもあるが、可能性は極めて低いーー。
前向きになれる材料を探したいのに、何一つ妊娠継続を期待できる言葉がありません。お腹のなかで、ふたりは相変わらず心臓を動かしています。どんな判断をしたらいいのか、すぐに答えは出ませんでした。
まずは感染しないように抗生剤を点滴して、今後については胎児の状況を見て判断することになりました。
血液検査をしても感染の兆候はないらしく、破水の原因は分かりませんでした。原因が分かればもっと自分を責めていたかもしれません。
以来ずっと不安を抱えつつも感染症状はなく、状況は横ばい。私にとっては嬉しいことで、ふたりとも毎日元気な心音を聞かせてくれました。
ただ、依然として羊水は増えません。羊水は、赤ちゃんにとってなくてはならない生育環境で、羊水の少なさは呼吸の練習ができない(=肺機能が育たない)、体を動かせない(=関節機能に影響する)など、様々なハンデにつながるといいます。
生まれてこられたとしても、臓器が未成熟では生きられません。詳しい状態は生まれてみないと分からないようでした。
羊水は増やせないけれど、赤ちゃんたちを信じて週数を伸ばすことが唯一の目標。気持ちは強く持っていたいと思い、できるだけ「中絶」や「流産」といったマイナスな言葉は口にしないようにして過ごしました。
そんな不安な状況のなか、すがるように体験記や記事、論文、関連する情報をあさっていました。当時、ブログやSNSで同じ境遇の人を見つけることはできましたが、メディアなどでまとまった情報はあまりなかったように思います。
日本では約10人に1人が、2500g未満(低出生体重児)で小さく生まれています。人口動態統計によると、2023年は約7万人の赤ちゃんが2500g未満で生まれました。
通常、赤ちゃんは妊娠37週以降だと体の機能が十分に成熟しているといわれ、37~41週(正期産)で生まれます。出生時の平均体重は約3000gで、平均身長は約48cm。早産と呼ばれるのは「22週0日~36週6日」での出産です。
小さく生まれる背景には、早産や多胎(双子や三つ子)、妊婦への体重制限、病気など、様々な要因があるといわれています。
早産の場合、「自分が悪かったのでは」と責めてしまう母親もいますが、母親が何かしたからというわけではなく、予防法も確立されていないそうです。
私が出産前後で特に求めたのは、赤ちゃんの「その後」の情報でした。不安で押しつぶされそうだった当時、小さく生まれた赤ちゃんが育っていく様子はまったく想像できず、1年先、2年先、できれば小学校、中学校、高校……と情報を探しました。
もちろん小さく生まれてもそうでなくても、成長発達のスピードは赤ちゃんそれぞれで違います。それは分かっていても、小さく生まれた赤ちゃんがどのように成長しているのか、誰かのケースを知ることで心が救われたり、心構えができたりしました。
低出生体重児や早産について伝えられたらと、2022年に連載「小さく生まれた赤ちゃんたち」を始めました。
自分の家族や親戚にいなくても、友人や知人には小さく生まれた赤ちゃんがいるかもしれません。小さく生まれた赤ちゃんへのサポートや家族の思いを、多くの人に知ってもらいたいと思っています。
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