連載
#29 小さく生まれた赤ちゃんたち
27週592gの娘を出産「早産の認識が間違っていた」 不安と驚き
早産とは、妊娠22~36週での出産をさします
日本では、およそ20人に1人が早産(妊娠22~36週)で生まれています。しかし、早産の子どもや家族の悩みについてはあまり知られていません。第1子を妊娠27週で出産した女性は、そもそも「早産」の認識が違っていて、「予定日より少し早く生まれること」だと思っていたと振り返ります。
神奈川県に住む上原はるかさん(33)は2022年4月、妊娠27週2日で592gの長女を出産しました。
持病はありましたが妊娠初期に異状はなく、仕事もしながら生活していたそうです。しかし、21週を過ぎたくらいから病気が悪化し、管理入院になったといいます。その後血圧が上がったため、赤ちゃんの状態を考えて帝王切開での出産となりました。
初産だった上原さんは、「医師に『お子さんは30週を待たずして1000g以下で生まれてくる可能性が高い』と言われたとき、小さな赤ちゃんが生きていられるイメージがありませんでした」と振り返ります。
そもそも「早産の認識が間違っていた」という上原さん。周囲に30週未満で赤ちゃんを産んだ知り合いはいませんでした。「早産は『予定日から3週間くらい早く生まれることかな?』くらいに思っていて、割とよく聞く話かなと考えていました」
多くの赤ちゃんは妊娠37~41週(正期産)で生まれ、平均出生体重は約3000gです。2500g未満で生まれる赤ちゃんは「低出生体重児」と呼ばれます。より早く小さく生まれるほど、命の危険や障害、病気のリスクが高くなり、医療的ケアが必要なこともあります。
上原さんは妊娠中、不安でいっぱいでしたが、「不安を言葉にすると心が折れてしまいそうだったので、とにかく気持ちを強く持つようにしていた」と話します。
「『もしかしたらおなかのなかで死んでしまうかも……』と不安でも、言葉にしたらその通りになってしまうのではと怖くて、『大丈夫大丈夫、そんなこと私に起こらない』と思うようにしていました」
上原さんは2023年、11月17日の世界早産児デーに合わせ都内で開かれた早産児に関する啓発イベント「#ちいさな産声サポートプロジェクト展~知ってほしい、小さく早く生まれた赤ちゃん家族の物語~」(ピジョン主催)に登壇して出産当時を振り返りました。
「赤ちゃんは想像していたよりもとても小さくて驚きました。でも驚きと同時に、自然と『かわいい』という気持ちがあふれてきました。生きて生まれてこられるか分からなかったため、娘に会えたことがうれしく、ほっとしました」
産後も、NICUに入院する長女を思うと不安で押しつぶされそうになりました。看護師に「不安やつらさ、悲しさをはき出していいんですよ」と言われ、心の支えになったといいます。
長女は保育器の中で、少しずつ成長していきました。日々子どもにしてあげられることが増える喜びを感じていたそうです。
「抱っこできた、一緒に写真を撮れた、哺乳瓶でミルクを飲ませてあげた、お洋服を着せてあげた、お風呂に入れてあげた……。そういった小さなことのひとつひとつが、私にとってかけがえのない大切な思い出でした」
長女は退院後も在宅酸素療法が必要だったり、哺乳力が弱く頻回に授乳をしたり、必死に子育てをする毎日だったといいます。
ただでさえ第1子で「分からないことだらけ」ですが、4月で2歳になります。「保健師さんや訪問看護ステーションの方、病院の方、いろんな機関の方にお世話になって娘を育てています」と話す上原さん。「この子のペースで大きくなってくれればいいな」と願っています。
ベビー用品大手のピジョン(東京都中央区)と日本NICU家族会機構(JOIN)が、早産を経験した家族を対象に調査したところ、9割以上が「子どもが早産で生まれて不安や悩みを抱えている」と答えました(2023年10月、有効回答数249人)。
また、「周囲の理解や配慮が不足していると感じたり、周囲からの行動や言葉で傷ついたりしたことはありますか?」という質問に対し、約6割が「よくある」「時々ある」と回答したそうです。
慶應義塾大学医学部小児科の医師で、JOIN代表理事の有光威志さんは、「早産児の親は自責の念や将来の不安を抱えています」とコメントしています。
「早産でない子どもの家族の多くは、早産児の家族の悩みを知りません。多くの方に早産児や周産期医療を受けた子どもと家族のことをよく知ってもらい理解してもらうことが重要です」
「すべての子どもと家族が可能性を最大限に発揮し、自分らしく生き生きと暮らせる社会になってほしいと願っています」
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