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「きんにくかわいい」4歳が考えた〝帯〟に衝撃 絵本のもやもや
〝きれいなまとめ〟は求めない
本を選ぶとき目に入る「帯」。その本の見どころや推薦コメントなど「魅力」をアピールするものです。ある4歳児は、お気に入りの絵本に自分で考えた「帯」をつけました。大人とは目の付け所が違い過ぎる帯の数々。子どもの「好き」があふれる帯から見えた、「絵本のもやもや」の解決方法を、考えました。
投稿された画像には、5冊の絵本に、白い紙を切って巻いた帯が映ります。色とりどりのペンで手書きした「おすすめ理由」が並びます。
「しまうまがでてくる かわいい」
【ぱかぱかももんちゃん(童心社)につけた帯】
「かしこい」
【こどもあそびうた(童話屋)につけた帯】
「ままつよい」
【さる・るるる(絵本館)につけた帯】
通常の絵本の帯ではなかなか見られない表現の数々に、「むしろ購買意欲をかき立てられる!」「これは売れる」「説得力がすごい」と共感が集まり、1万7千件以上のいいねがつきました。
4さいが考えた帯 pic.twitter.com/g3Sz0Kdh1e
— 8月に新刊が出た藤岡みなみ (@fujiokaminami) July 26, 2022
投稿した藤岡みなみさんに話を聞きました。
話題になった「帯」の作者は、藤岡さんの4歳の第一子。
「くるま」や「きょうりゅう」などに熱中する子がいるように、藤岡さんのお子さんは「『言葉』がめっちゃ好き」という趣向の持ち主だそうです。
中国出身の父と祖母と暮らしている影響もあり、両国の言葉に触れながら、漢字やひらがなも習得していました。
そんな我が子に突如として、「帯ブーム」がやってきました。1週間ほど毎日のように家でお気に入りの絵本に「帯」を書いていると言います。
とは言っても、これまでは、買って来た絵本のカバーも帯も、家に着いた瞬間に「取ってもいい?」と見向きもしないことが多かったそうです。どうしていま「帯」に興味を持ったのでしょうか。
きっかけは、藤岡さんが8月に発売するエッセイ「パンダのうんこはいい匂い」の「帯」について、出版社の担当者と打ち合わせていた時のことでした。
担当者から送られてきた画像にあった、紙を切って作った帯デザインのイメージ。子どもは「これなに?」。
「たぶん紙工作みたいに見えて、面白そうだと思ったんじゃないかな」と藤岡さん。
「本の帯に何を書くかを考えているんだよ」と答えて、大人向けの本の帯を見せました。
すると「言葉好き」の琴線に触れたのか、「これやりたい!」。さっそく我が子は、藤岡さんの隣で、一緒に「仕事」に取りかかったと言います。
でも、子どもの発想力は、大人の想像を凌駕(りょうが)しました。
帯をハサミで切るのだけ手伝って、後は任せました。
大人向けの帯を見て、「これはどういうことが書いてあるの?」と聞かれた時も、「『こういう本だよ』って書いてあるんだよ」と答える程度。
でも、子どもが書き上げた「帯」は、自分の「好き」があふれていました。推薦者としての自分の名前まで入れている「こだわり」よう。
特に驚かされたのが、「この本はこういうイメージ」という大人の読み方と、子どもに刺さった箇所がまったく違ったこと。
お気に入りの「ちょうしんきつき からだずかん」(成美堂出版)に寄せたコメントは「きんにくかわいい」。
「骨や内臓のことも書いてあるんですけどね(笑)そういえば『きんにくのほん、よんで』って持って来てました」
ちなみに、「さる・くる」など言葉のリズム感が楽しい五味太郎さんの絵本「さる・るるる」に、「ままつよい」とつけた理由を聞くと、「ママが強く読むから」。
赤ちゃんの「ももんちゃん」が活躍する、とよたかずひこさんのシリーズは、主人公の「ももんちゃん」ではなく、あえて「しまうま」にスポットライトをあてます。
「かしこい」という帯は、文字数が多い本につけていました。
藤岡さんは「帯を通して、子ども自身が何にぐっときているのか、知ることができたことがうれしかった」と話します。
帯を作った本は並べて売る、という「えほんやさんごっこ」までをワンセットで楽しんでいるそうです。
「帯」というと、書店で数多くの絵本から何を選ぶか迷った時、目に入るもの。藤岡さんの子どもが自作した帯とは全く違う言葉が並びます。
藤岡さん自身も絵本を選ぶ時の指標に「帯」を使っていたと言います。でも少しユニークな見方をしていました。
昔から本好きだった藤岡さん。「タイトルと表紙を見れば『自分が読むべき本』を察知できるぐらいのアンテナがある」と自負していました。
でも、親になって絵本売り場を見てあぜんとしたと言います。「ぐっとくる」一冊が分からない。何を基準に選べば良いか、分からない。
「子どもの本になると、こんなに嗅覚がきかないんだ」
「脳が発達する」
「子どもがすぐ寝る」
「泣ける」
絵本選びに悩める大人たちに訴えかけるような文言の帯。
「中身が良い本だからこそ、売りたい、疲れた親たちに寄り添いたい、という心遣いが『帯』にじんでいるとは感じていました。でもそういう文言に『寂しさ』も感じて……」
絵本から得られる「効果」や、「能力を上げる」こと、分かりやすい「オチ」……藤岡さん自身が違和感をもった表現を掘り下げると、「絵本に求めているのは『これ』じゃないんだ」と選ぶためのヒントを見い出したと言います。
「だったら逆に、簡単に言葉にできない、想像させる余地がある、ただ『しみじみ』とした時間を楽しめる本を選びたいなと思いました」
子どもには、たくさん絵本を読ませなきゃ。
いい親は、たくさん絵本を読み聞かせるものだ。
世の中にはそんな「絵本の呪縛」とも言えるプレッシャーがあるように、筆者は感じてきました。そんな「義務感」の中で、絵本と向き合うのをつらく感じる親もいます。
一方で、藤岡さん親子の絵本への向き合い方は、そんな「呪縛」を感じさせませんでした。
「絵本にいっぱい触れてもらいたいとは思いつつ、『興味がないものを無理には薦めない』というスタンスでいました。読み聞かせも、忙しい時はサボる。自分にも優しくあって良いのかなと」
筆者は「絵本の呪縛」を解くヒントを、藤岡さんが語った次の言葉に見た気がしました。
「子どもがどこにぐっときたのか、具体的な要素が知りたいんです」
自作の帯への反響の中にも「4歳でこんなに自分の感想が書けるなんてすごい」という驚きが上がりました。自分の「好き」を言葉で伝えるのは、なかなか難しいことです。
藤岡さん親子は、こんなやり取りをしてきたと言います。
感想を聞く場合、「どうだった?」と聞くと、黙ってしまうことが多かったそうです。そんな時に、つい使ってしまいそうになる「おもしろかった?」も、「はい」か「いいえ」で終わってしまう質問なので避けてきました。
いま藤岡さんが試しているのが、「何が好き?」という質問。
そうすると、「しまうま!」や「きんにく!」など、大人が思ってもみないところに子どもが「刺さっている」ことが分かると言います。
「こういうことが好きなんだ、と知れた時に、絵本を一緒に読む楽しさを感じます」
子どもの感想にも、手作りした帯にも、「大人が伝えたいメッセージ」や「きれいなまとめ」は求めません。
「子どもにとっては、自分が何が好きかを知って、『好きなもの』を集めていく過程だと思っています」
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