連載
#4 ウェブメディア祭り
PVじゃない指標って?ウェブメディアの「これから」あの番組の魅力
不意に、ほっこりしたい。

ウェブメディアの編集長やコンテンツメーカーの編集者が感じている、いまのウェブメディアの状況、そしてこれからもウェブメディアが価値を届けるために必要なこととは。ウェブメディアで長く仕事をしている5人が、「ウェブメディアのこれから」をテーマにイベントで語り尽くしました。
【連載】「ウェブメディア祭り」
withnewsでは、編集長の交代をきっかけに、これからのメディアを考える「ウェブメディア祭り」を開催しました。ライターや編集者・プラットフォームのみなさんと語り合った各セッションの採録記事をお届けします。
「感情の行き先がないものがおもしろい」
神庭:ネットって、わかりやすさや感情の行き先がわかりやすいものを提供することが大事だとされています。でも、それだけだと面白くないです。
BuzzFeedの最近の記事で、ストックフォト(広告や記事などに使用する目的で購入する写真や画像のこと)にあがっている奇妙な写真を撮った人に、話を聞いていくという企画がありました。
お相撲さんが凍り付けになっていたりとか、変な写真がいっぱいあるんですが、その中に、鹿のカチューシャをしたスーツ姿の男性が、鹿を追い回している写真があって。ところが、その写真を撮影した人はすでに亡くなっていたんです。
最初のうちはゲラゲラ笑いながら読んでいたんですけど、読み進めていくうちに遺族の話なんかも出てきて、ちょっとしんみりしてしまう。
「わかりやすい」「役に立つ便利な話」はもちろん大切なんですけど、感情の行き先がわからない、正体不明の感情に出会える記事もあると面白いと思っています。
【使いどころ不明な「ストックフォト」の謎】
https://www.buzzfeed.com/jp/keijiroabe/rikishibakkayan?utm_source=dynamic&utm_campaign】
水野:ライターのヨッピーさんが、コロナ禍で「面白い記事がなかなか読まれなくなっている」ともお話ししてましたね。
宮脇:ツイッターは基本殺伐としていますよね。見るけど、足を踏み入れないようにしているというか。
結局、誰かを攻撃すると100%跳ね返ってくるので、いい精神状態にはならないです。
きれいごとでもいいので自分が誰かの役に立ったり、誰かが笑ってくれるような情報発信はどんどんやりたいし、そういうコンテンツを作っていきたいです。せっかくこういう仕事をしているので。
水野:たらればさんが「インターネットには『祝福』が足りていない」と言っていました。BuzzFeedも“No Hater”ですもんね。
【「10年で景色は変わる」 たらればさんと考えるニュースの未来】
https://withnews.jp/article/f0220705001qq000000000000000G00110201qq000024890A
神庭:ジャーナリズムとして批評は必要だけど、炎上のための炎上はいらない。
批判するにしても提案があったほうがいいですよね。ポジティブ・インパクト。殺伐ワールド一色になりたくない。
だからこそ、デイリーポータルZやオモコロがやっていることは尊いし、BuzzFeedでも行き先がわからないコンテンツを出していきたい。無意味なこと、わけのわからないことって貴重な価値になっていると思います。

BuzzFeed Japan編集長。2017年に入社。2022年より現職。
メディア運営に「カオス」「ほっこり」
奥山:デイリーポータルZの林さんと話す中で「カオス」という言葉が出てきて。
「カオスが足りていない」「カオスをやりたいね」と。
【「もう、変なことは紙でやったらいい」ウェブの〝カオス〟守るには?】
https://withnews.jp/article/f0220629001qq000000000000000W00110201qq000024876A
さっきの神庭さんの「ストックフォト」の話にもつながるんですけど、短尺動画のように「ひょっ」と出てきた新しいものを理解しようとする意識が低い気がしています。
新聞の特徴は、自分が知らないものに出会えることじゃないですか。でも、今は、レコメンドがいいこととされた結果、すごく狭いなか、予定調和のなかでメディアが運営されがちになっている。
水野:新聞は1ページの中でも、殺伐とした記事が多い紙面の中にもほっこりコラムがあったりしますよね。一部地域に配られる朝日新聞には「青鉛筆」っていうミニコラムが掲載されています。あれは一服の清涼剤です。
奥山:それがあるっていうのが大事。
水野:でも、「特派員メモ」(朝日新聞の国際面に掲載されている、各国にいる特派員による現地からのコラム)とかは、ウェブで出会ってもらうのはなかなか難しいです。
宮脇:清涼剤的なコンテンツを作るのは、メディアの役割ではなくて、メディア関係者じゃない人が作るもので補完できちゃっていますよね。例えば、「はてなブログ」の読み物で「おっ」と思う楽しいものを見つけることもある。
水野:withnewsは、ほっこりした記事も多くて、メンバーが書いていると絶対シェアしちゃうくらい好きです。
BuzzFeedでは気をつけていることはありますか?
神庭:ほっこりできるって大事。withnewsだと、若松真平さんが書いている記事はガンガン数字も取るし、ほっこりする。「ミスター箸休め」。若松さんの記事はすごくいいなって思うけど、簡単にマネできない。取材対象への寄り添い方とか、書きぶりが独特で。
(https://withnews.jp/articles/result?src=%E8%8B%A5%E6%9D%BE%E7%9C%9F%E5%B9%B3)
PVだけに還元できない、「ほっこりポイント」がwithnewsにはある。そこは、非常にうらやましいですね。
ただし、それが手法になった瞬間に冷める部分もある。あくまでも不意に、ほっこりしたいんです。
「じわらせ」指標
神庭:実験をしながらバズる記事の知見を蓄積して、再現していきます。でも、何度も繰り返していけば当然、摩耗していく。
数年経つと他社も追随してコモディティー化してしまうので、差別化するためにさらに実験を重ねる。それはなかなか大変な部分です。
話は少し変わりますが、僕は学生時代からずっと同じ美容室に通っていて。そのお店がプロモーションビデオをつくったんですね。
プロのラッパーさんを起用した、かなり本格的なPVだったので「これはバズりますよ!」と何気なく言ったんです。そうしたら、美容師さんに「僕はね、バズらせたくないんだよ。じわらせたいんだよ」って返されて。なるほどなあと思いました。
僕らは日々、バズを狙ってます。それを捨てる気はまったくありません。でも、遅効性というか「じわらせる」ことも並行してやっていきたい。
いま、目先の100万PVもいいけど、半年後に誰かが思い出したようにクリックした1PVが「じわらせビュー(JV)」になって、その人の人生にじわっと染み込んでいくことだってあるかもしれない。
半年後、1年後にふふっと思い出し笑いしちゃう。そんな時間差の「何か」を提供できたらいいですね。
水野:「じわらせビュー」いいですね! みなさん、「じわらせ」みたいなのはありますか?
宮脇:デイリーポータルZの林さんが書いたペリーの記事は、1年に1回くらい読み返しています。
【ペリーがパワポで提案書を持ってきたら(デジタルリマスター版)】
https://dailyportalz.jp/kiji/170810200378
「あそこの記事よね」となるのは、メディアのイメージアップになるし、(サイトに)ためていくしかないんですよね。

編集者/有限会社ノオト代表取締役。2004年7月、コンテンツメーカー・有限会社ノオトを設立。
みんな大好き「ナイトスクープ」
宮脇:僕はコメントですね。悪口は書きやすいというか、反射的に書かれることが多いと思うんですけど、わざわざ「よかった」って書くことはあまりないじゃないですか。
わざわざ書いて褒めてもらえたというのは大事です。
神庭:ヤフコメは荒れがちなんだけど、自分が出した記事でコメント欄が珍しくほっこりしてたりすると「やったぜ」と思う。そういう意味でヤフコメは気にしているかも。
宮脇:愛されるコンテンツって何か、みんなが面白がってくれるコンテンツとは何かを考えると、結局ナイトスクープ(ABCテレビの「探偵!ナイトスクープ」)に行き着くと思うんですよね。ウェブメディアのコンテンツでも、そのエッセンスが生かされているものって多いと思いますよ。
神庭:すべてのネットニュースはナイトスクープに通じる、というのはわかる気がする。
水野:こちら、事前の質問で頂いていたのですが、みなさんが視野を広くするためにやっていることはありますか?
奥山:動画配信サービスで、普段は自分から絶対見ないような動画をあえて選んで、その作品の粗(あら)を見つけて文句とか言いながらお酒を飲むのが楽しいです。
宮脇:情報収集は意図的にやっていますが、やっぱり衰えていくし、若い人の興味関心から遠のいていきます。
ノオトには社員編集者が15人いますが、隔週の定例会で勉強会を開いています。社員ひとりひとりが交代で「先生」になって、関心のあることを他の社員=生徒たちにプレゼンするのをかれこれ4〜5年続けています。宝塚歌劇団入門方とか、notionの使いこなし方とか、いろんな生物の学名とか、とにかく自分がまったく知らないこと、興味ないことでも、他の人が楽しそうに語る時間を意図的に社内で作っています。
閉鎖相次ぐウェブメディア業界をどう見る
宮脇:ぶっちゃけ、ないですね……。そんなのなくていいのかなと思っていて。たまたま見かけて「いいな」って出会えるっていいことだと思います。
水野:エンガジェット日本版などのネットメディアの閉鎖が相次いでいることはどう思われますか?
宮脇:寿命なんて、なんにでもあるじゃないですか。雑誌なんて腐るほど休刊しています。惜しんでもしょうがないんですよ。
神庭:諸行無常ですね……。とても残念な一方で、サイトであれ、お店であれ「なくなる」とわかってから惜しんだり、悲しんだりするのもどうなのかなっていうのはあります。
朽木:バイト時代から合わせると、12年ぐらいウェブやっていますが、本当にいっぱいつぶれてきましたよね。
あと、人。一時期もてはやされた人たちは今どうしてるんだろうと思うと、粛々と日々やっていくしかないなと思います。あと、「閉鎖」が話題になってるのはいいことだなと思います。
奥山:髭男爵の山田ルイ53世さんが、「一発屋芸人は一発当たった人だけが名乗れる」って言っていたんです。
今はテレビに出ていないかもしれないけど、一発当てるだけでも大変なことなんだという。
ウェブメディアも同じで、一つのメディアを作って、育てて、何本もヒット記事を出すだけでも、すごいこと。なのに、閉鎖したことだけをとって「やっぱりね」みたいな感じのネガティブなリアクションをしてしまうのは残念だなあと思っていました。
それが、今回、けっこうポジティブな反応が多かった。あのメディアはこういうのやってくれたよね、というコメントが寄せられていた。団結というか共有財産という感覚になっている。
宮脇:そう、サイト閉鎖でコンテンツがまるっと消えるのは痛いですよね。
神庭:後世のためにね。
宮脇:(2018年に閉鎖した)HRナビはノオトが一部コンテンツを制作していたのですが、運営元のリクルートさんに交渉して、弊社が運営している五反田バレーのオウンドメディア「五反田計画」に載せ替えていました。もちろん、ライターさんや取材を受けてくれた方たちにも許可をとっています。そういうのをちゃんとみんなやればいいのにな、と。サーバー代とかかかるけど、良いコンテンツは残したいですよね。
神庭:究極的には、国会図書館に保存してほしい。
後進を育てるために必要なことは
編集長を引き継ぐときには、巻物みたいなものがあるんですか? 編集者同士の横のつながりとか、育成、特に若手をどう育てるかとか。ちゃんとやらないと、ウェブメディアはなんともならない。
神庭:原稿を見るという行為は最大の「育成」なのかなと思います。
水野:編集長になって感じたのは、何より人脈、つながりの大事さです。奥山さんがすごいのは、今回のイベントでも一声かけると二つ返事で「出るよ」という人ばかり。
奥山:withnewsは新聞社のメディアだから特殊ですよね。
水野:取材や執筆の基本はできているから、ウェブの考え方を知るところから始まる感じですよね。
育成面ではBuzzFeedはどうですか。
神庭:学生インターンから社員になったケースもあります。ただ、数としては即戦力の人を中途で採用するケースの方が多い。社内での育成は課題です。
宮脇:僕、子どもの頃からホークスファンなんですよ。南海〜初期ダイエー時代はものすごく弱かったけど、なんであんな常勝軍団になったかというと、トレードで選手をとるより、育成で育てたからです。どのチームからも声がかからなかった選手を獲って育てるから、チームの足腰が強くなる。そこに投資してる。
スケールが違うけど、ウェブメディアにとっては、学ぶべきところはあると思います。

「PVもJVも」
奥山:自分のものさしを作ったらいいんじゃないかなって。PVとかUUとかシェアとかありますけど、自分だけはこれを大事にするっていうのがあるとバランスが取れていいのかな。ものさしがいっぱいあるといい。
朽木:メディア業でずっと食べていけるのか、ということに昔から興味があるので、個人の戦略についてになりますが、これまでウェブメディアは属人的な個人の努力に依るところが多かった気がします。寝ないで頑張る的な。
でも、閉鎖や撤退でウェブメディアが整理されていったときに、仕組みとして残るところが残っているともいえます。だとしたら、自分がその仕組みにどう寄与できるか。専門性やノウハウなど、還元できるものを自分でも磨いていく、というフェーズに入ったのかもしれません。
水野:わたしはいろんな人の「好き」を大切にしたらいいのかなと思っています。編集部員の「好き」を大切にしたい。
神庭:1文字でいうと、「も」が大事だと思っていて。「バズらせか、じわらせか」じゃなく、「PVもJVも」。JVってなんだか建設工事のジョイント・ベンチャーみたいですが、さっき言った「じわらせビュー」のこと。計測不能な謎の指標です(笑)
その辺のバランス感覚を大切にしながら、じわらせていきたいですね。
宮脇:コンテンツの作り手の裾野をどう広げるか。実績を作っちゃった人がいつまでもその席に君臨せず、次の世代をバックアップする側に回るのは大事だと思います。
ウェブ編集者こそ新陳代謝が必要ですね。どんな業界もどうしても高年齢化していくので、それをうまく僕らの世代は若い世代を盛り立てるために何ができるか考えなきゃいけないし、これからの担い手はトップギアで頑張ってほしいです。