MENU CLOSE

連載

#1 ウェブメディア祭り

「もう、変なことは紙でやったらいい」ウェブの〝カオス〟守るには?

対談した朝日新聞社・奥山晶二郎(左)とデイリーポータルZ・林雄司さん。
対談した朝日新聞社・奥山晶二郎(左)とデイリーポータルZ・林雄司さん。 出典: 朝日新聞社

目次

近年、国内で閉鎖の知らせが続く「ウェブメディア」。海外の縮小トレンドもあり、「バブルが弾けた」「そもそもバブルなどなかった」など、識者の間でもさまざまな意見が出ています。そんな中、自ら「役に立たない」と宣言する無料娯楽サイト『デイリーポータルZ』は今年、運営開始から20周年を迎えました。

かつてのインターネットにあった“カオス”の雰囲気を残す同サイトのウェブマスター・林雄司さんと、朝日新聞でスマホ世代に向けたニュースサイト『withnews』の編集長を8年にわたり務めた奥山晶二郎が「ウェブがカオスで多様なままでいるために」をテーマにイベントで対談しました。
ギョーザ発売50周年!錦鯉と、子どもの好きな料理NO.1を目指そう(PR)

【連載】「ウェブメディア祭り」

withnewsでは、編集長の交代をきっかけに、これからのメディアを考える「ウェブメディア祭り」を開催しました。ライターや編集者・プラットフォームのみなさんと語り合った各セッションの採録記事をお届けします。

逆転しちゃったんじゃないですかね

林雄司さん。2002年よりウェブサイト・デイリーポータルZのウェブマスター。「ウェブメディアびっくりセール」や「地味ハロウィン」などを企画。
林雄司さん。2002年よりウェブサイト・デイリーポータルZのウェブマスター。「ウェブメディアびっくりセール」や「地味ハロウィン」などを企画。 出典: 朝日新聞社
奥山:立ち上げからwithnewsを8年ほど担当したところで、異動ということになりました。

私自身はウェブの多様なところがすごく好きなので、よく引き合いに出されるところでは「納豆を一万回混ぜる」とか「一人で女子とカフェデートしている写真を撮る方法」とか、デイリーさんでずっと“カオス”をやられてきた林さんと、この機会に振り返りができたらと思います。

カオスはわれわれも大事にしてきて、「今まで新聞社がやっていないことをやりたいな」と思ってきました。一方で、8年前と比べるとウェブはもう社会において当たり前になってきて、逆に、ウェブで新しいことをやろうとすることがかえってリスクになっている面もあります。

林:怒られるのイヤですからね。立派に思われたい欲はありますよ(笑)。

たしかに今はウェブの方が、かえって接触しやすい媒体になっている気がします。もし雑誌にとんでもないことが書いてあっても、買って、読んでというステップがある以上、すぐには炎上しないですよね。でもウェブは、特に無料のものは、スマホの料金さえ払っていれば誰でもすぐ読める。だから怒られやすいとは思います。

とっくに逆転しちゃったんじゃないですかね。紙があって、ウェブ、という順番から。だからもう、変なことは紙でやったらいいんじゃないかな。

奥山:新聞の変わった全面広告のスクショがバズったりしていますもんね。昔は「新聞はみんな読んでいるもの」だったのが、今は全然そんなことはなくて、特殊な器になっている。

林:もうほとんど見かけないから、たまーに電車で新聞を読んでる人を見かけると、逆に「うわー、おもしろそー」って思いますよ(笑)。なんか小さい文字がたくさん書いてあって。

デイリーも20年やっていると、前は「ウェブで記事を読む人」という限られた読者層だったのが、もう普通の人というか、ウェブという入口を意識していない、SNSとか横から入ってきてくれる人が増えましたね。だからもう、デイリーなのか、『ロケットニュース24』さんなのか、わからない。

「変なことをするサイト」というのも知らないから、「ウソだ」「ふざけるな」って怒られることもあります。超常現象を扱う『月刊ムー』さんの途中のページだけを読んで怒るようなものだとも思うんですけど、タッチポイントがSNSだから、そんな文脈がないので、しょうがないんですよね。

そうすると、だんだん、誰でもわかる記事になってきちゃいますよね。

奥山:デイリーさんでもそうなんですか?

林:はい、そこは、抗わず。

満たされてないと悪い壺を見ちゃう

withnews前編集長(~2022年5月)。2000年、朝日新聞入社。佐賀。山口、福岡と勤務して2007年の社内公募をきっかけに、デジタル部門へ異動。「asahi.com」の編集に携わり、「朝日新聞デジタル」立ち上げ、動画、データジャーナリズム、SNS連動企画などを担当し2014年に「withnews」をスタートさせた。
withnews前編集長(~2022年5月)。2000年、朝日新聞入社。佐賀。山口、福岡と勤務して2007年の社内公募をきっかけに、デジタル部門へ異動。「asahi.com」の編集に携わり、「朝日新聞デジタル」立ち上げ、動画、データジャーナリズム、SNS連動企画などを担当し2014年に「withnews」をスタートさせた。 出典: 朝日新聞社
林:実はデイリーって、PVはずっと変わらないんですよ。一定の読んでくれる人が読んでくれてる。でも、そこにたまに「何々と何々を混ぜて食うとうまい」みたいな情報のある記事を載せると、そこにPVが乗ってくる。

おもしろってむずかしいんですよね。コンテクストを理解してもらう必要もあるし。役に立つ方がキャッチーな気がします。笑いの方が幅が広いかと思ったら、そうでもない。おもしろがベースのPVで、便利な記事で新しい読者が来てくれて。

で、新しい人にまた固定読者になってほしかったけど、ちょっとでも、違うかな。ならないかもしれない(笑)。

奥山:一期一会なところがありますよね。朝日新聞デジタルで考えても、例えばタレントさん、宝塚、フィギュアスケートの記事はそれ目当てでたくさんの人が来てくれる。でも、朝日新聞はフィギュアスケートの専門メディアではないので、コンテンツ制作という面では歩留まりを考えなきゃいけない。

林:あらゆるアーティストを、マイナーでも平等に、バリバリ書いているメディアさんなんかは、そのファンが「絶対に書いてくれる」って信頼しているから、固定読者になってくれるみたいですけどね。

奥山:それって書き手にもモチベーションが必要だと思うんですけど、バリバリ書き続けてもらうには、どうしたらいいんでしょうね。人事評価とか……。

林:新聞社っぽいですね。新聞社の人ってよく自分の会社をディスりますよね(笑)。でもやっぱりそこなんじゃないですか。だって、ホメられたいから。

奥山:怒られたくないし、ホメられたい(笑)。

林:デイリーって、一つの記事を書くのに、人によって海外に行ったり、数カ月かけてモノを作ったりするから、原稿料に対して割に合わないんですよ。で、ちょっと原稿料を上げさせてもらったけど、だからってもっと書いてくれるようにはならなかったんです。

で、結局、書き手はホメられたい、というところに行き着きました。ホメるフィードバックがあると、やっぱり書いてくれる。それがないと、わざわざ自分でTwitterとかはてなブックマークを見にいってしまって、傷つく、みたいなことが起きる。満たされてないから悪い壺を覗きに行っちゃう、という。

奥山:「カオスを守る」理論にもつながりますよね。社内でホメ合うSNSみたいなのがあるといいのかもしれないですね。

林:やりたい方向でホメるといいんじゃないですかね。世の中のホメって、役に立つものとかをホメるじゃないですか。「バカでおもしろいな!」とはなかなかホメない。で、それをするとするとデイリーみたいなカルトな集団ができる、という(笑)。世の中の役に立つものを無視して、真剣に納豆を混ぜるような。

よかれと思って地獄に落ちている

奥山:でも、そこから新しい芽が出ていますよね。

林:出てるんですかねえ。

奥山:私の場合は、ホメる基準が自分だと、同じものを再生産してしまうので、それは気をつけていました。なるべく自分に理解できないもの、できないことをホメるようにするというか。

林:あー、そうですね。自分の基準でホメてしまうと、「自分たちによるデイリーポータルZのパロディ」ができてしまう。

なんかわかんない人っていいですよね。居酒屋で、隣でめちゃめちゃうまそうに食ってる人、みたいな。なんかわかんないけど、こんなにうまそうに食ってるならきっとうまいんだろうなって。同じように、とにかく楽しそうに書いてくれる。おれには全然わかんないけど、この人がこんなに興奮しちゃうんなら、なんかあんのかな。そういうものごとをホメたいですね。

実は、ライターさんを採用するときも、デイリーっぽい記事を書く人は選ばないんですよ。逆張りみたいなところはありますね。読者も裏切ってやりたい。びっくりさせたい。ただ、おれが選ぶライターってすごく評判が悪いんですけど(笑)。

奥山:おお~。でも、それがカオスですよね。あえて“らしさ”に寄せないというか。

林:だからwithnewsさんには、次は新聞どころかウェブがやってないことをやってもらいたいですね。

ウェブってもう、儲けるんだったらこのやり方、みたいな方法が決まっているじゃないですか。ニュースサイトよりニュースサイトの記事を配信しているプラットフォームの方が強い、とか。芸能人のゴシップをどんどんやる、とか。

奥山:読まれる記事が似通ってくる、と言う問題があって。

林:メジャーになると似通ってくるんですよね。これってすごい落とし穴で。数字を求めると同じような記事になる。で、数字を取ったとよろこんでいると、広告主とか経営陣とかからは他のサイトと変わらなく見えてしまう。よかれと思ってやると、いつの間にか地獄に落ちているみたいな、怖い話だと思いますよ。

奥山:便利で役に立つ記事を書いてPVを稼いだ先に、もしかしたらブランドはないかもしれないと考えてみるのは大事ですよね。3億PVとか4億PVが新聞社サイトの規模感で、プラットフォームと比べれば全然。じゃあどうして競っていたんだっけ、という。

林:目指すの止めましょうよ。「一番売れている」がいいものになると、インスタントラーメンが一番いいものになる、みたいな話ってあるじゃないですか。そうじゃなくて、カルトな客に「うちのこのしょっぱいのがいいんだよ~」って自慢するラーメン屋さんを目指す……いや、それはイヤですね(笑)。

たまたま目の前が大通りになったら

奥山:参加者からデイリーさんについて、「記事を書くときにオチを決めておく?」という質問を頂いています。オーソドックスな記事では、オチ的なものがあることが当然だったわけですが、そのオルタナとしてはいかがでしょうか。

林:デイリーは決めさせないですね。むしろまとめがなければいいと思っている。「いかがでしたでしょうか」を書いたら消せ、と言います(笑)。わかんなかったら「わかんなかった」でいいから、クリシェ(決まり文句)じゃないものを書け、と。

オチまで言わない、どうなるかわからないことをする、というのは大事にしているかもしれないですね。

奥山:もうすぐ参院選ですが、どうやったらもっと選挙について関心を持ってもらえるか、よく考えます。オーソドックスな選挙の記事が誰にも読まれていないとしたら、どんなオルタナがあるだろう、と。

林:参院選で言うところのオチって何になるんですか。

奥山:「選挙に行こう」ですかね。

林:そのオチは言った方がいいのでは。

奥山:そっか……。

林:デイリーにも選挙の投票用紙の材質である「ユポ紙」で折り紙を折った記事がありますよ(笑)。

デイリーは、オチを最初から想定していないから、どんな結論でも載せちゃう。例えば、掃除の仕事の人へのインタビューで、仕事がキツイのかなと思って聞くと、「最高!」って答えるんですよね。おもしろいと思ってそのまま載せちゃいます。

ただ、それって結構、読者を選ぶんじゃないかなとも思います。読者の負荷が高いと言うか。

奥山:でも「むにゃむにゃ」と終わるのは、カオスの一環として、今後も大事にしてほしいですね。

林:それがいいと思うんだけどな~。疲れますけどね、自分が読者だったら。

最近、ずっとサイトのトップに掲げていた「オルタナ系ポータルサイト」って自分たちのことを言うのを止めたんですよ。で、「こういうニュースだけ見ていたい」に変えたんです。

病気のときに「これが体にいいよ」ってあれこれ勧めてくる人と、冗談だけ言い続ける人、どっちが好きかなって考えたんです。デイリーは後者でありたいな、と。

奥山:あえて寄り添わない(笑)。

林:コロナで世の中全部まじめなニュースになっちゃった感じがして。おもしろサイトだと思ってたところも、専門家の話を載せたり。

実際、感染者数が増えるとデイリーのPVが落ちるんです。安全が脅かされているときには「おもしろ」どころじゃない、ってことなんだと思います。

奥山:コロナ禍で「デイリーを読んでいなかった」というイベント参加者さんのコメントがありますね。

林:なんと言うか、「国」がこんなに身近になるとは思わなかったですよね。有閑階級の遊びだったんですかね(笑)。でも確かに、カルトムービーとか観るのって、しんどいときがありますよね。おもしろがらないといけないから。

奥山:カオスなことをやろうとするとき、今のウェブは相手にする人が多すぎるんですかね。

林:でも、じゃあ「昔のインターネットが良かった」って言うのはイヤなんですよ。長年、店をやっていて、途中でたまたま目の前の通りが大通りになっちゃったからって、裏通りに引っ込みたくない。

奥山:その方が簡単ですからね。そう言えば私、最近ずっと家で縦長動画を観ているんですよ。TikTokとかInstagramのリール動画とか。

林:あれ、ドラッグ的ですよね。猫が転がったり、すごい技を見せたり。ウェブがオルタナだったんだとしたら、今のオルタナは縦長動画かもしれないですね。

奥山:新聞も縦長になったらいいんですかね。そろそろ終わりの時間、私も編集長交代ということで、(縦長は)次のwithnewsから始めてもらいましょうか。

林:オチがつきましたね。あ、オチをつけるのはよくないか。

(構成:withnews編集部・朽木誠一郎)
CLOSE

Q 取材リクエストする

取材にご協力頂ける場合はメールアドレスをご記入ください
編集部からご連絡させていただくことがございます