テキストサイト時代からインターネットの変化を肌で感じてきたヨッピーさんと、朝日新聞でスマホ世代に向けたニュースサイト『withnews』の編集長を8年にわたり務めた奥山晶二郎が「コロナ禍以降のウェブメディア」をテーマにイベントで対談しました。
【連載】「ウェブメディア祭り」
withnewsでは、編集長の交代をきっかけに、これからのメディアを考える「ウェブメディア祭り」を開催しました。ライターや編集者・プラットフォームのみなさんと語り合った各セッションの採録記事をお届けします。
コロナ禍以降の「怒れるネット」

そこでヨッピーさんが源泉徴収票を見せて。「ウェブでこれくらい稼げるぞ」って生々しく言ってもらって、それで目が覚めた人も多かった。
ヨッピー:よかったです。
奥山:今日、聞きたいのは、これからのウェブメディアについて。withnewsがオープンして「新聞社がネットに向き合って、楽しいことをやっていこう」としていた頃とは、今は違うフェーズですよね。変わったと思うことはありますか?
ヨッピー:コロナ禍に入ってから、ネットでポジティブな話題があまり上がらなくなりましたよね。それとも実感してるの僕だけ……?
ポジティブな文脈でバズっているのが僕の体感では3分の1以下になってるんじゃないかと。今、「ネットの話題」ってだいたいウクライナ問題にワクチンの是非、フェミニズムにまつわる論争とか。もちろん大事なことなんですけど、そのあたりが「戦場」になっている面はあると思います。なんとなくみんなが楽しい話題を自粛しているのか、コロナが終わったら元の雰囲気に戻るのか。
奥山:Twitterがとっつきにくくなったっていうのは、朝日新聞デジタル編集長の伊藤大地と話すときも話題に出ますね。ちょっとげんなりするというか。
今もありますけど、昔はもっと大喜利みたいなことで盛り上がっているところにいっちょ絡みしたいとか、エモい話で心が洗われたりとか。それ以上にいまはネガティブですよね。ストレスが溜まるとTwitterがはけ口になっちゃう。
ヨッピー:まだ先が読めなくて、いずれコロナが収束したときに、元の雰囲気に戻るのか、殺伐としたまま進んでいくのか、どうなるんでしょうね。
奥山:ちょっと世の中の「バラバラ感」が強まっているっていうのは感じています。メディアの中にいても、特定の読者を意識した記事が増えてきて、そのテーマに関心がないのは別にいいのですが、むしろ「敵」の構造が生まれる方が数字を期待できてしまう。これはネットがそれだけインフラになったとも言えるんでしょうね。新聞社だけでなく、みんながネットを「本気でやった」結果として。
ヨッピー:単純に、コンテンツのモチベーションとして「怒り」って強いですもんね。僕だって誰かに怒ってるときは原稿を書くのが速いですから。普段は10時間くらいかかっているのに、誰かにムカついているやつは2時間で書けたりする。
怒りがモチベーションになっていると、良くも悪くも強いんですよね。人を喜ばせたいというモチベーションよりも、怒りの方が。それが如実に現れてきてしまった。牧歌的な時代からやっている人間としては、超イヤだなって思いますけど。
奥山:みんな気づいちゃった、という……。
ヨッピー:己の本能に気づき始めたのかも。なんとなく世の中的に、バカ話がしにくいですよね。いかんせんネットが荒れていて、戦場みたいになっているので、余計なことをしたら恐いなって一歩、引いたり。
ネットの仕事が飛んで、タオル作った

ヨッピー:あとは「動画」が強いってことですかね。でも、そんなのわかりきっていて、その上で、TikTokerにしろ、YouTuberにしろ、勝ち筋は結局、誰もまだ知らないんですよ。知られているようなYouTubeのグループでも、この2、3年で再生数が伸び悩んでガタガタになっているところもある。TikTokもトップ層の入れ替わりがめちゃ速い。ウェブって誰も正解を持っていないから、波が崩れたときに「どうしよう」ってなるんですよね。
奥山:アルゴリズムに振り回されてるということですか?
ヨッピー:アルゴリズムもそうですけど、競争過多だと思います。考えてきたんですけど、「成功している」って何なのか。改めて定義してみようと思って。
そしたら「採算性」「独立性」「独自性」だと。この3つをクリアしているところってどこかなと思ったときに、ウェブメディアだと例えば日経、NewsPicks、オモコロ。朝日新聞もwithnewsも、Yahoo!ニュースみたいな巨大プラットフォームがなくなったら生き延びられないですよね。YouTuberも結局、Googleの意向に振り回されるので、独立性がない。
そう考えると勝ってるところってあんまりなくて。ウェブメディアにしろ、動画にしろ、次の時代の勝ち筋って誰も見えてない。どうしたものかってみんな困っているんですよね。
奥山:採算性を考えると、結局、特に国内では規模感の話になって。狭く深くと考えたときに、例えばリベラルの人だけに届けばいいのかというと、そうじゃない。逆に、マスに届けようとすると、プラットフォームと絡みますよね。広げようとすると、どこかの力を借りないといけないというジレンマがあります。
ラクなんですけどね、褒めてくれる人に記事を出すのは。ヨッピーさんが挙げた3点を同時にクリアするのは難しい。
ヨッピー:成功しているところに共通するのはコミュニティーですよね。
奥山:コンテンツだけで終わってないところですよね。
ヨッピー:コンテンツだけで戦うのは、特にここ2、3年はしんどいなと思います。僕、コロナで仕事、一回全部、飛んだんですよ。急にがーんとヒマになって、Twitterも殺伐としてるし、関わっているイベントとかの仕事もできない。本当もうワケわからんとなって。結果、「やることないし、新しいことをなんかやろう」とか思って、今は実業を増やそうと思ってるんです。
例えばタオルを一生懸命、作っているんですよ。
僕、サウナが大好きなんですけど、サウナで頭を覆えるタオルが個人的に欲しくて。「これは売れるだろう」と思って、アパレル会社と組んで、クラウドファンディングやったらめちゃくちゃ売れて。最初は配送も自分でやってみようと思ったら、僕の部屋が箱で埋まって。僕の後輩に時給を払って手伝ってもらって梱包して配送して。昭和の工場みたいですよ。
でも、実際に手を動かすと見えてくることってありますね。タオルは1500枚くらい売れて。1500って、ネット上の数字だと、大したことないって思っちゃうんだけど、実際1500個のモノを売るのはむっちゃ大変だと実感できたのは大きな発見でした。この経験がどう役立つかわかんないけど(笑)。
読者の日常に介在することで生き残る
ヨッピー:繰り返しになっちゃいますけど、コンテンツだけというのは厳しい。YouTuberもグッズを作るし、経済ニュースメディアもイベント運営しますよね。活字メディアだから動画だからとかあまり関係なく、付随してなんかやらなきゃいけない。
奥山:その熱量が今までだとおまけ的なものだったけれど、むしろ「そっちがやりたかったこと」くらいの勢いの方が、うまく回っていくのかと思います。チャンネルを複数、ガチでやっていくのがむしろ成功に近いのかなと。ヨッピーさんもサウナがチャンネルの一つになっていますよね。
ヨッピー:サウナは本当に僕がただ大好きでいろいろ始めたんですけど、いますごいバブルなんですよ(笑)。みんな頭がバカになっているので、「サウナだったらお金を出すよ」と協賛してくれたりするところも多いんです。
仕事が飛んだりで、未来に悩みつつも、まあお金はあるところにはあるから困ったらそこに行けばいいかなー、とか。コロナ禍で気づきましたね。あとはどう、そこに社会的な意義を見出すかだと思います。僕にとっては「サウナはいいものなので広めたい」っていうところですね。
奥山:そういうのが種になって、別のものにつながっていくっていうのはありそうです。単に記事を出していくだけだと、どうしても一期一会になっちゃうので。せっかく接点ができたのにもったいないですよね。
ヨッピー:ずっとお出かけメディアをやっていて、「今はここが楽しいよ」っていうウェブの記事を出しているけど、もともとツアーとかを考えていたんです。コロナで横槍が入ってポシャったんですけど、またやろうとしていて。
実際に人を連れていくと、クライアントとかすごい喜ぶんですよ。「ネットでコンテンツを出して終わり」だけじゃなくて、読者の日常に介在していく。そういうところに生き残りの道があるんじゃないですかね。withnewsもタオル売ったらいいじゃないですか。
奥山:二番煎じもはなはだしいですよ(笑)。
ヨッピー:公平性とか言い出すと難しいかもですけど、新聞社が困っている地域のモノを売ったりとかできないもんですかね。
奥山:新聞社は間接的にそういう記事を書いていますけど、もっとコミットしてもいいのかもしれませんね。
ヨッピー:例えば取材したモノをそのまま売ったり。僕はそういうの大丈夫だし実際やってるけど、報道機関は難しいか。
奥山:想いとしては、ざっくり「良い世の中にしたいよ」っていう気持ちで新聞を作っているので、新聞を通してそれができるならいいんじゃないかとは思っているんですけどね。
自分の「好き」くらいしか頼れない
ヨッピー:単純に、数字を持っているところに書きたいですね。いっぱい読まれたいから。見ているのそれくらいですよ。タチの悪いサイトじゃなければ。
最近はライターに求められる役割が増えてきていて。コンビニみたいな話でなんでもやらなきゃいけない。最初はカメラマンとライターとが分かれていたんですけど、今はそれも一緒にやってくれる人、さらには取材先とやりとりしてくれる人、もっと言えばクライアントを連れてくる人がライターとしては超強い。
クライアント連れてきて、撮影も自分でやって、自分で書いて、拡散もできるライター、とか最強なんですよね。それが良いか悪いかは別として求められちゃいますよね。
奥山:一方で、うちの社内で悩みなのですが、スペシャリストでないと価値がなくなってくる。専門家発信の時代、「この人じゃないと書けない」が必要になっていると感じます。新聞社には専門記者としての編集委員というポジションがあるけど、社会で見たらワンオブゼムですよね。朝日の名刺を取っ払ってはやれないと。
ヨッピー:難しいですね。結局、個人の興味じゃないですか? 好きなことじゃないと勉強する気にならない。専門分野と言っても、興味あることじゃないと身につかないから。
月並みですけど、何でもやってみることだと思います。明日も僕、なぜかサウナ専門家として取材を受けるんですけど、最初からそこまでサウナが好きだったかというと、そこそこ、という感じでした。
深掘り深掘りで進めていくうちに、細かい違いとかに気づいて、だんだん面白くなって。将棋もルールがわからないとつまんないじゃないですか。遊べるようになって、さらに棋士の人間関係とかも知ると、もっと好きになる。ちょっと好きから入って、それを形にしていくと、回っていくんじゃないでしょうか。
奥山:結局、頼れるのは自分の最初の「好き」だという。パッションがあることは、意外と勝ち筋っちゃ勝ち筋なのかもしれませんね。
サウナとか、ヨッピーさんに言われるがままに行き始めると、めちゃくちゃおもしろくて。それを人に話すのがおもしろい。たまに「僕も好きなんですよ」っていう人と盛り上がる。あれは原点的な「何かを伝えたい」思いを感じるんですよね。
他方、我々はしたり顔で世界情勢とかを伝えてしまう。「それ伝えてワクワクするんだっけ」っていうのは見透かされているから、あんまりワクワクしないんですよね。
ヨッピー:確かに、それは難しい。ウクライナ問題をどうサウナ的に伝えるかですよね。
奥山:ネガティブなものでも、サウナ的にどう伝えるか。「知っておかなきゃいけない」っていうのはウザがられてしまう。withnewsは違うアプローチを考えたくてやってきたところがあります。
プロの腕の見せどころというか、「何がプロなの?」というのが問われていて。そのまま伝えるのは誰でもできるから、国連とか政府がもうちょっとこなれてきたら、オフィシャル情報のほうが読みやすいじゃんってなって、本当にメディアなんて要らないという話になりますよね。
ヨッピー:少なくとも、自分も含めて一旦はウェブに行って、コロナ禍を含め、一連の変化を肌で感じたのは間違いじゃないと思っていますけどね。
奥山:ウェブで記事を書いていたらリアルでタオルを売っていた、というのはいい話ですよね。希望でもある。どこかでコケても別に死ぬわけではないよね、と。メディアがメディアにこだわっていることで、勝ち筋を求めていがみあっているのは、本質的には意味がないじゃんと気づけます。変化する人が一番、強いということが、ヨッピーさんを見ているとよくわかるというか。
最後にもう一度、ヨッピーさんから私たちにダメ出しをしてもらえますか。
ヨッピー:今日の話を踏まえて言うと、朝日新聞が「子どもの貧困」を取り上げて「問題だ!」って言うだけじゃなくて、dancyuが食堂やってるみたいに、朝日新聞が子ども食堂をやればいいんじゃないですかね。そういうところが見られているんだと思います。
(構成:withnews編集部・朽木誠一郎)