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声や音を「見える化」するアプリ 自動車部品メーカーが開発…なぜ?
徹底した利用者目線で支持を集めてきました
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徹底した利用者目線で支持を集めてきました
声や音を「見える化」するアプリシリーズ「YYsystem」が200万ダウンロードを超える人気を得ています。複数人での会話をリアルタイムにテキスト化したり、店頭でのやりとりをディスプレイで字幕化、翻訳したりすることができます。このアプリ、実は自動車部品メーカーが開発しました。その経緯をプロジェクトリーダーに聞きました。(朝日新聞withnews編集部・川村さくら)
聞こえなかったり聞こえにくかったりする人の意思疎通をサポートするアプリサービスがYYsystemです。
アプリでは音声を文字化するだけでなく、日本語を含めた31言語の翻訳機能が使えます。
たとえば、最初に開発されたアプリ「YYProbe」を立ち上げると、会話の音声を認識してリアルタイムでテキスト化します。スマホの画面には会話のやりとりがチャット形式で表示され、耳が聞こえなかったり聞こえにくかったりする人も、文字によって会話の内容を把握できます。
YYsystemのシリーズには他に、会話を文字起こししたものをディスプレイに表示することで店頭などでのコミュニケーションを助ける「YYレセプション」や、会話や音楽・サイレンなどをテキストやアニメーションで視覚的にスマホに表示する「YY雰囲気カメラ」などがあります。
YYsystemを制作しているアイシンは、もともと自動車部品メーカーです。なぜ自動車部品メーカーがアプリを開発しようと思ったのでしょうか?
プロジェクトリーダーの中村正樹さんに聞きました。
アイシンでは12万人ほどが働いていますが、中村さんは当初、生産性を上げるために従業員のノウハウなどを音声で集め、音声で検索できるシステムを開発していました。
そこに2020年の新型コロナウイルスの流行がやってきます。
アイシン社内では聴覚障害がある300人ほどが働いています。そんな人たちから「社内でのコミュニケーションが取りにくくなった」と相談を受けました。
そのとき中村さんは、自分が開発しようとしていたシステムは発話がうまくできない人を取り残してしまうことに気づきました。
「マイノリティも平等に使えるシステムを先に作らなきゃいけないと思いました。YYsystemは最初は仲間のために作ったんです」
YYsystemのアプリは笑い声を認識すると「(笑)」と表示して会話の雰囲気を伝えてくれますが、この開発が大変だったそうです。
多くの笑い声を集める必要があり、「コロナ禍だったのでまずは自分と家族の声を集めました。それをチームに共有するとそれを聞いてみんなが笑ってくれて、笑いが笑いを呼んでさらに笑い声のデータが集まりました」と話します。
ちなみに「YY」の由来はプロジェクトを始めたときの部下2人のイニシャルなのだそうです。
中村さんが大切にしてきたのは、常に利用者の声を聞いてサービスに反映させること。
「『YYProbe』開発してる人」というアカウント名でX(旧ツイッター)を運営し、日々利用者からの感想や要望が届くといいます。
「みなさん仕事終わりの夜8時くらいにDMを送ってきてくださるんです。それを夜のうちに修正して翌日出す、というのをずっとやってきました」
「僕自身は聴者で、聞こえない人の真の困りごとは分かりません。でも、聞こえない方と相対して、その意見を反映して、作ったものをすぐ見てもらう早さは大切にしてきました」
「最初は広がりませんでしたが、4年かけて昨年100万ダウンロードを達成して、さらにそこからの1年ほどで200万ダウンロードまで来ることができました」
このタイミングでデフリンピックが東京で開催されることは「運命的」だと中村さんはいいます。
「YYsystemは今年海外進出して、今タイや台湾でユーザー数を伸ばしています。日本がAIやITの分野で海外に押されている中で、社会問題への解決策として日本から実現させて、世界を獲りたいと思っています」
今や膨大な数の人々の生活を支えるYYsystem。運営する立場として、やりがいだけでなく大きなプレッシャーもあります。
「最初は自分が役に立っている感覚がありました。楽しいし責任感もあるけど苦しさもあります。もうこの開発を辞めることはできないですし、人生の一部です」
さらに、15日に開催するデフリンピックをきっかけに、「聞こえ」や「言語」の壁を街全体でなくしていこうと考えるイベント「東京に字幕を添える会議」が11月5日に開かれました。
YYsystemのアンバサダーを務めている「ろうインフルエンサー」の吉田まりさんや、同じくインフルエンサーの難聴うさぎさん、手話パフォーマーの北村仁さんが登壇しました。
また、デフリンピックに出場するデフサッカー男子代表の林滉大選手、女子代表の國島佳純選手、さらに日本障がい者サッカー連盟会長を務める北澤豪さんがデフサッカーの特徴やデフリンピックへの意気込みを語りました。
北澤さんは「私たちが生きている間に自分の国でデフリンピックを見れるってことはそうない。東京で(2021年に)オリンピックやパラリンピックがあって、今度はデフリンピックがやってくる。世界に向けてどうやって街づくりをしていくのかということを考えていくのが我々の使命」だと話しました。
デフリンピックの前後には、聴覚障害のあるアスリートや関係者、サポートする人びとが世界各国から東京を訪れます。
YYsystemの中村さんたちはそれにあわせて、11月15日から12月7日に「世界に字幕を添える展in東京」を開催します。
YYsystemを導入している店舗を巡るスタンプラリーなどの企画があるそうです。
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