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#127 #父親のモヤモヤ
午後6時の会議、仕事も育児もは建前? 育休後の男性「転職考えた」
妻と共働きで3人の子どもを育てている男性は数年前、第2子が産まれた後、約5カ月の育休を取得しました。同僚に育休を取った男性は少なかったものの、上司には「良いんじゃない?」と取得を肯定的に受け止められたそうです。
育休中は「自分でやってみて、大変だと思ったことがいくつもありました」
例えば、それまで子どもを保育園へ送っていくことはしていましたが、タオルを何枚持って、コップを入れてなどの準備は妻に任せていました。料理の分量や味付け、お風呂の後に皮膚科でもらったどの薬を子どもに塗るのかなどは、育休中に詳しくなりました。
「私1人でもできるようにしないといけないと思いました。育休後も、育児や家事の時間を前より増やしたいと考えました」
幸い、当時の部署は他と比べて残業が少なく、定時で帰宅できる日が多かったそうです。
復帰後に提出した定期的な人事調査では、子育てとの両立をしたいため、残業の少ない部署を希望したといいます。
しかし復帰から1年後、想定していなかった部署へ異動しました。
一年中忙しく、体調を崩す人も相次ぐなど、「役所の中で1、2番目に残業が多い」ところでした。時短勤務の人以外は、子育て中でも性別に関係なく「いくらでも残業できる人」として認識されていました。「育休をとったんだから、これからはその分も働きなさいと言われた気がしました」
生活は変わりました。
この男性は「早く帰るほう」でしたが、それでも午後7時~9時まで職場に残り、子どものお風呂や寝かしつけにも間に合わない日が増えました。「子育て中の『2時間』が有るのと無いのとでは、だいぶ違いました」
周りは「好きなように帰っていい」と言い、早く帰ることに文句が出ることはありませんでした。
しかし、仕事は多く、早く帰れば翌日にしわよせが出てしまう日々が続きました。仕方なく土日に数時間仕事をしたり、平日は午後7時ごろに一度帰宅して、お風呂などを済ませてから午後9時過ぎに職場へ戻り、午後11時ごろまで仕事をしたりするという日も何度かありました。
仕事と育児を両立できる環境を整えた企業に「奨励金」を出す自治体は多く、男性の勤務先も同じです。多くの部署で「ワーク・ライフ・バランスを意識しましょう」といったスローガンもよく見聞きします。
「それなのに内部がこんな状況ですか?」と思います。
午後6時から打ち合わせがセットされたり、定時後に上司が資料の作成を指示してきたりすることは、一度や二度ではありませんでした。「全てとは言いませんが、その時間である必要性を感じないものもありました」
希望した働き方とは真逆の多忙な部署への異動は、「希望は書かせても見てない様子。家庭環境は一切配慮せず、管理職のバランスだけ見て、それより下の年次の職員は近しい年代をただ入れ替えているだけ」と思わざるをえませんでした。
異動後、上司には子育て真っ最中であることを伝えました。
「子どもが小さいと大変だよね」と理解を示してくれましたが、仕事量や働き方への配慮は、当時は特に変わりませんでした。
時短勤務を取得することで家事や育児の時間を確保しようとも考えましたが、給料が育休中並みに減ることにためらいがありました。さらに、「部署全体が忙しいから、私が時短をとれば同僚にしわよせが行く。時短を取って時間を確保しなければ子育てしにくい部署では、時短が取りにくいという何だか矛盾した雰囲気がありました」
男性は子育てとの両立をしやすくするため、異動後から転職を考えるようになりました。
転職サイトに登録し、コンサルタントともオンラインで面談しました。自宅でのリモートワークが可能な企業も視野に探しました。
ただ、異動から約1年後、本格的な転職活動へ踏み出す前に、部署内の仕事の担当が変わりました。
当時、妻が3人目を妊娠し、男性が長時間労働を続けると育児ができないことから、長期の育休を希望。当面の仕事について、人事部門では対応されなかったものの、部署内で希望が加味された結果の担当変更でした。
このため、残業の頻度が減って、以前のように育児ができるようになったことから、いまはそれほど転職を考えることはないといいます。
ただ、子育てに限らず、職員の生活を組織として応援しようとする姿勢が、今の勤務先にどこまであるのか、疑問は残るそうです。不要な業務の見直しを進めるようとする人はいても、部署や人によって温度差があると感じています。
「男性の家事や育児を奨励とは言っても、建前なんじゃないかと思ってしまいます」
厚生労働省によると、男性の育児休業取得率(民間企業)は2020年度に12.65%になり、初めて1割を超えました。
ただ、育休が終わっても、子育ては長く続くもの。仕事と育児の両立は、復帰後のほうがよりシビアとも言えます。そうした大変さは父親も抱えるものですが、企業の経営者や人事担当者に理解が進んでいるとは限らない面もあります。
「子育てと仕事を両立する社員に対して抱く経営者側のイメージとして、『働くママってすごい』という話は耳にするけど、『働くパパってすごい』とはまだ聞かないんです。経営側にとって、働く父親と育児がまだまだひもづけられていないということです」
そう話すのは、子育てしながら働く人向けの転職サービス「withwork」を運営するXTalent(クロスタレント)代表取締役・上原達也さんです。
今年1月、育休をめぐる社員と企業側の意識調査を実施。対象は、育休取得経験のある男女2千人と、企業の経営者や人事担当の約2千人です。中には当事者と企業側の「ギャップ」をみる質問も用意しました。
例えば、育休復帰後の男性社員がワーク・ライフ・バランスを重視しているかどうか。
当事者の男性社員は55.5%が「重視している」とした一方、「男性社員が重視している」とイメージした企業側は36.8%と、双方の間で18.7ポイントの差が出ました。
同じ質問で、育休復帰後の女性社員は62.9%が「重視している」、企業側は49.5%。差は13.4ポイントでした。
上原さんは、「かねてから性別による家庭での役割が固定化されてきたことも背景に、社員が仕事と育児を両立することについて、企業側が女性には配慮しようと考えている一方、男性に対しては同じようには認識していない面がある」と指摘します。
ただ実際には、同社のサービスを利用する男性の話を聞いていると、子育て中の男性社員の中には、妻のキャリアアップも意識して、「自分の働き方を見直して家事育児の時間を増やしたい」と思う人もだんだん増えてきているといいます。
上原さんは、「企業側は男性に対しても、育休復帰前の面談を通して、本人が希望する働き方を聞く丁寧なコミュニケーションが重要です」と話します。
同じ調査では、当事者社員は男性も女性も約3人に1人は育休中に転職を検討していたという結果も出ました。
男性が育休中に転職を検討する理由(複数回答)は、「企業の将来性に疑問を感じたため」(31.4%)が最多。
ただ、「残業時間が長いため」(16.4%)、「リモートワークやフレックスなどの柔軟な働き方ができないため」(13.7%)、「育児をしながら働くことへの理解が薄いため」(10.9%)と、育児と仕事の両立の壁になりそうな回答も、それぞれ約10人に1人が選んでいました。
同社コンサルタントの筒井八恵さんは「男女にかかわらず社員本人がワーク・ライフ・バランスを重視するとしても、必ずしも100%残業ができないというわけではありません。フレックスタイムや在宅リモートワークの普及により、働く時間や場所の柔軟性があがり、残業に対する捉え方も変わってきている」と話します。
「時間と場所を柔軟に選べる働き方を企業側が整えることで、育児と両立したい社員の働きやすさにもつながるはずです」といいます。
※この記事は、朝日新聞「withnews」とYahoo!ニュースとの共同連携企画です。
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