連載
#11 #自分の名前で生きる
選択的夫婦別姓、反対意見から考えた 慣習が誰かを苦しめていないか

結婚したときに夫または妻のどちらかの姓に統一しない〝選択肢〟をつくる「選択的夫婦別姓」。全国各地の議会で意見書が可決されたり、ビジネスリーダーが早期実現を求める会を結成したりするなど、制度導入への要望が高まっています。51秒に1組が結婚し、2分31秒に1組が離婚している時代。「名字」のとらえ方から「結婚」について考えます。
「同姓の義務づけ」は日本のみ
現在の民法では、結婚するときには夫または妻の名字のどちらかにあわせて「同姓」を名乗らなければなりません。現状では96%の女性が夫の姓に改姓しています。
旧姓使用には限界があり、名前はアイデンティティーでもあることから、希望すれば別姓のまま結婚できる選択肢(選択的夫婦別姓)を加えてほしいと求める声が集まっています。
6月23日の最高裁の決定では、夫婦に同姓を強制するのは憲法違反だとの訴えに対し、「合憲」との判断が11人、違憲としたのは4人でした。
6年前と同様の結果となり、合憲とした裁判官は「国会で議論するべきだ」といった意見を述べていますが、原告や支援者からは「これ以上、国会と裁判所のラリーを見ていられない」という批判も上がっています。

つまり日本は「強制的夫婦同姓」。そこに別姓の「選択肢」を加えることがこんなに難しいのは、なぜなのでしょうか?
「意識高くない」と責められる不安
浜崎さんは、「無意識に依拠している慣習を変えるわけだから、(今の『同姓』の慣習で)困っていない人たちが困る可能性があるかもしれない」といった懸念を表明。別姓を選んだ夫婦が同姓夫婦に対して「あの人たちって遅れていて(中略)意識高くないね、というような分断が多々出てくることはある」といった意見を述べていました。

「古い価値観と批判される」といった懸念もありましたが、筆者が話を聞いてきた別姓婚を願うカップル・当事者には、ほかの夫婦の選択を外野からあれこれ言う人はおらず、「ほかの夫婦も別姓にするべきだ」と主張する人もいませんでした。
もし今後「同姓夫婦は古い」と言う人が現れたら、筆者は「他者の選択に口を出すべきではない」と批判します。また、新たな制度で「困った」という人が出てきた場合は対応が必要だと思います。
「同姓/別姓」は、「古い/新しい」「良い/悪い」といった対立する価値観ではありません。「それぞれの選択を尊重する社会」への一歩だと思うからです。
「古い慣習が人びとを苦しめていないか」
この対談のあと、井田さんは上皇后の美智子さまの結婚50年の言葉を思い出したといいます。
<当時は皇后の美智子さまの言葉より。天皇皇后両陛下御結婚満50年に際して(平成21年)>
ことに結婚は、パートナーと一対一でするものです。「改姓する・しないは『第三者からどう見られるか』より、人生を一緒に歩む2人が『自分たちはどうしたいか』『お互いに足を踏んでないか』で決めていいのではないでしょうか」
離婚する人が増えるって本当?
日本の長い歴史の中で、同姓が導入されたのは120年ほど前です。明治31年(1898年)、旧民法が成立して<夫婦は、「家」を同じくすることにより、同じ姓を称する>とされました。
この当時の「家制度」はすでに廃止されており、根強い誤解として残っていますが「入籍」「婿養子」もなくなっています。

現状の「強制同姓」の制度下でも、夫婦の3組に1組が離婚しています。同姓夫婦だからといって家族の絆や仲のよさが担保されているわけではありません。
一方で、事実婚でそれぞれの「姓」のまま、良好な家族関係を築いている家庭もたくさんあります。
結婚で姓を変えた96%の女性と4%の男性だって、もともとの姓の両親やきょうだいとの絆は続くでしょう。
「子どもがかわいそう」の反対の声
両親が別姓の当事者の子どもに「両親が別姓で困ったことはある?」とインタビューしたところ、「家の中では名字で呼ばないし、正直意識したことがない」「名字が違っても仲の良さには関係がない」と答えてくれました。
結婚する時に「同姓」か「別姓」かを選べるようにする「#選択的夫婦別姓制度」。反対する人からは「子どもがかわいそうだ」「いじめられる」といった意見が出てくることがありますが、本当にそうなのでしょうか?
— withnews (@withnewsjp) October 16, 2018
両親が別姓の子ども3人に本音を聞いてみると……https://t.co/70zRzGMy8q #withnews pic.twitter.com/kIp9rZOEOF
「いじめる人たちは、自分たちと『違う点』を見つけていじってくるので、子どもの名前と違う母親の姓で呼んでくる人もいたことはストレスだった」と振り返っていました。
しかしこの問題も、いじめる側がおかしいのはもちろんのこと、社会の常識が「結婚=名字が同じ」ではなくなれば解消するのではないでしょうか。
自民支持層・与党議員からも賛成の声
早稲田大学の棚村政行教授と、市民団体「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」の60歳未満の成人男女7000人を対象にした調査では、「自分以外の他の夫婦も同姓であるべきだ」と考える人は約14%にとどまりました。
2021年4月の朝日新聞の世論調査では、67%が「賛成」と答え、「反対」の26%を大きく上回っています。反対派の議員が多い自民党の支持層でも61%と賛成が上回っています。
各地の議会に、法改正を求める意見書を可決してもらうよう「陳情書」を提出する活動「選択的夫婦別姓・全国陳情アクション」も広がっています。
2021年7月には、埼玉県議会で、自民党県議団が起案した「選択的夫婦別姓制度の導入に向けた国会審議の推進を求める意見書」が可決されました。
自民党埼玉県議団は会見で「選択的夫婦別姓が導入されて悲しむ人は一人もいない」と答えています。

南場智子氏(ディー・エヌ・エー代表取締役会長)や小室淑恵氏(ワーク・ライフバランス社長)ら19人が共同呼びかけ人となって、「選択的夫婦別姓の早期実現を求めるビジネスリーダー有志の会」が結成されました。
同姓・別姓「どっちがいいか」ではない
その上で「選択的夫婦別姓の議論で大切なことは、同姓と別姓で『どっちがいいか』という話をしないことです。『同姓も別姓もすばらしいよね』と。そういう社会にしないと、新たな分断が生まれてしまう。どっちもすばらしくて、押しつけない。そんな社会にしていきたいです」と話していました。

現在でも、国際結婚の夫婦や事実婚、離婚家庭など、夫婦・親子が別姓の家庭は数多く存在します。一方で、親権の問題や手術の同意など事実婚にはたくさんのデメリットがあります。
だから法律婚に「別姓」の選択肢を増やしてほしい、ただそれだけです。戸籍をなくしたいわけでも、「同姓でいたい人」の価値観を否定しているわけでもありません。
すぐに衆院選があります。少子化対策や「女性が輝く社会」を掲げるのであれば、改姓で困っている人や苦しむ人たちの思いにきちんと向き合ってほしいです。