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連載

#1 101歳からの手紙~満州事変と満州国~

満州事変を間近で目撃、101歳の満州国元官吏から届いた手紙

満州事変から90年の今、101歳になった満州国総務庁の元官吏先川祐次さんが当時の内実を初めて語ります
満州事変から90年の今、101歳になった満州国総務庁の元官吏先川祐次さんが当時の内実を初めて語ります

目次

101歳からの手紙
1931年9月18日、中国東北部の奉天駅近くで、南満州鉄道(満鉄)の線路が爆破される柳条湖事件が起きました。日本が泥沼の「15年戦争」に突き進むきっかけとなった満州事変。その現場やその後建設された満州国を間近で見続けた日本人がいます。満州国総務庁の元官吏先川(さきかわ)祐次さん、101歳。満州事変から90年の今、当時の内実をつづった「手紙」を親交のある朝日新聞の三浦英之記者に寄せました。
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出典: 朝日新聞社

記者に届いた満州事変の目撃談

8月30日夜、私の自宅に1通の封書が届いた。

差出人は福岡市西区で暮らす先川祐次さん、年齢101歳。

封を開けると、中には私宛ての手紙と、A4サイズで30枚ほどの「原稿」が収められていた。

冒頭部分を読んで驚いた。

そこには今からちょうど90年前に発生し、日本が泥沼の15年戦争に突入していくきっかけとなった満州事変の目撃談が記されていたからだ。

先川さんは1920年、中国の大連で生まれている。その後、中国東北部に出現した日本の傀儡(かいらい)国家「満州国」で青春期を送り、戦後は九州地方のブロック紙である西日本新聞に入社。ワシントン支局長としてケネディ大統領などを取材した後、常務として新聞社の経営に携わった。

満州事変の夜を語る101歳の先川祐次さん=2021年9月16日、福岡市西区、三浦英之撮影
満州事変の夜を語る101歳の先川祐次さん=2021年9月16日、福岡市西区、三浦英之撮影

「幻の大学」の第1期生

私が先川さんと知り合ったのは11年前の2010年6月だった。

当時、私は満州国に設立された最高学府・建国大学の取材を続けていた。関東軍参謀の石原莞爾の発案によって1938年に開学した極めて実験的な大学で、そこでは日本、朝鮮、中国、モンゴル、ロシアの各民族から選抜された優秀な若者たちが6年間、塾と呼ばれる寮で寝食を共にした。

日中戦争の泥沼化に伴い、各民族間にはいさかいが絶えなかったが、それでも学内では当時としては珍しい「言論の自由」が保障され、学生たちは「座談会」と呼ばれる夜の会合でそれぞれ意見をぶつけ合った。しかし、日本の敗戦と共に満州国は消滅。建国大学も開学わずか8年で閉鎖へと追い込まれてしまっていた。

先川さんはその「幻の大学」と呼ばれた建国大学の第1期生だった。学内でも優秀な成績を修め、卒業式では満州国の国務総理大臣(首相)の前で、卒業生代表として答辞も述べている。

建国大学構内の農場で記念撮影する4期生=建大同窓会提供
建国大学構内の農場で記念撮影する4期生=建大同窓会提供 出典: 朝日新聞社

満州国での日常も

私は2015年、一連の取材を『五色の虹 満州建国大学卒業生たちの戦後』(第13回開高健ノンフィクション賞受賞作)という作品にまとめて刊行した。

その際、私は先川さんのエピソードについては他の建国大学卒業生との兼ね合いから作品中には盛り込めなかったものの、その壮絶な半生をどうか原稿にして残して欲しい、と先川さんにお願いしていた。

「やってみるよ」と先川さんは笑いながら話していた。

その原稿が101歳になった今、ようやく完成したらしかった。

先川さんは日本が破滅へと突き進むきっかけとなった満州事変や、その後、中国東北部に誕生した満州国での日常を、元新聞記者らしい平淡な文章で書きつづっている。そこには満州国をテーマにした小説や映画では見られない、実際にその場で生活し、当時の時代の空気を吸い込んだ者にしか感じ得ないリアリティーが満ちあふれている。

原稿は、過去と現在が紛れもなく地続きであることを示している。

同時に、普段我々が「歴史上の出来事」と認識している満州事変を、今も実体験談として語れる人物が、まだ隣人として存在していることを教えてくれる。

満州事変から90年。

先川さんから届いた「手紙」を、ここに連載という形で紹介したいと思う。(※第1回「満州事変の夜」はこちらから)
 

満州事変から90年。その現場やその後建設された満州国を間近で見続けた日本人がいます。満州国総務庁の元官吏先川祐次さん、101歳。先川さんが当時の内実を初めて語る「101歳からの手紙~満州事変と満州国~」を随時配信します。

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