ネットの話題
「息子とデート」〝違和感ない〟理由 子育て発信モデル牧野紗弥さん
子どもが「ノー」と言える関係作りを
息子は母親の「小さな彼氏」――? 広告でもSNS上でも、母と息子の「恋人」のような関係がポジティブに発信されることがあります。3人の子どもの母親として、子どもとの日々をSNSなどで発信しているモデルの牧野紗弥さんは、子育てを始めてから、ジェンダーについて真剣に考えるようになったそうです。日々、知識をアップデートしながら、メディアに発信し続ける牧野さんの気づきを聞きました。(withnews編集部=橋本佳奈)
――先日、ツイッター上で「息子とデートする」という宿泊プランが話題になりました。「息子とデート」という言葉を広告や宿泊プランで押し出すことにはSNSで賛否がありますが、牧野さんはどうお考えでしょうか。
牧野さん)「デート」という言葉を性的にとらえるかどうかは、10人いたら10通り考え方が違うと思います。デートの定義が男女にではなく、「ただ楽しむための時間を共有する」ということを意味するならば、何の違和感も無いと思います。息子と一緒に食事をしながら「お母さんはこんな風に素敵な思い出をつくってくれるような男性ってすごく素敵だと思うよ」と、母親の価値観を自然に話せる場になれば良いのではないかな、と思います。
牧野紗弥(まきの・さや)さん: 愛知県出身。1984年生まれ。「VERY」などの女性ファッション誌や広告で活躍。女性誌「Domani」のサイトで家庭内におけるジェンダーについてコラムを連載している。
――「デート」という言葉を性愛的な意味と捉えて、批判する人もいました。
牧野さん) 私は、子どもと出かけることをデートと呼ぶことには違和感を持っていません。親子の時間をどう楽しむかということに視点を置いて、私ならデートという言葉の意味を考えます。
親子で出かけることをデートと呼ぶことに対して、「性的なもの」を連想させると決めつけて、他人がとやかく言う問題ではないのではないかなと思います。ただ、「デート」という言葉を息子だけに対してのみ使うのはどうなのかな、とも思います。宿泊プランなら息子だけでなく「母と娘」も可能にすれば、問題はなかったのではないでしょうか
――SNSなどで「キュン」とか「デート」とか、芸能人が肯定的に発信しているのも見ます。牧野さんご自身が発信するときに注意していることはありますか。
牧野さん) 私も含めてSNSで発信する人たちの中には、そこまで深く考えていない人もいるかもしれません。私も例えば、違和感なく「ダンナ」「主人」という言葉を使っていた時期がありますが、ジェンダー問題について学ぶようになってから、今は一切使わなくなりました。大人も子どもと一緒に学んで知識をアップデートしなければならないと感じています。
――牧野さんは子どもと「デート」という言葉は使ったことはありますか。
牧野さん)デートという言葉は使ったことはあると思います。でもそれが「母と息子」、と、性別を固定してしまうことでジェンダーや性的な視点にひっかかると感じていたなら、違う言葉を選んでいたと思います。
私も、まだまだ勉強中で、人から指摘されないとわからないレベルです。指摘されて間違いだったのだと気づいたら直そうと心がけています。
――母親が日頃、家事や育児を背負うことで、ストレスをためてしまい、癒しを求めるために子どもとデートをして「キュン」としたいという人もいるかもしれません。牧野さんはどのようにストレスを解消していますか。
牧野さん)以前はママ友と気晴らしをしていました。とは言っても子どもの面倒は見ないとならないし、うるさくして周りの人に迷惑をかけないように、レストランではなく、それぞれの自宅に集まっていました。
ママ友同士で話し合うのは楽しいのですが、傷の舐めあいになってしまう場合も多々あるので、心は解放されません。
傷の舐め合いにならないようにするには、パートナーの愛のある言葉が必要だと思います。大きく社会の仕組みを変えて、父親が育休をもっと取れるようにしたり、妻との時間を取れるようになれば良いな、と思います。
――牧野さんは、お子さんに「キュン」としますか。
牧野さん)もちろんしますよ。子どもにキュンっていうのは、娘にも息子にも性別を問わずしますけれどね。親としての子供への愛情があるからこそ、子供のふとした仕草や言葉に「キュン」としてしまいます。
でも、世の中にはそういう「キュン」とは別に、「キュン」を性的なことと捉えてしまう大人もいるかもしれない。そういう大人から身を守るためには、日ごろから親子間でも、子どもに「ノー」と言える教育をすることがとても重要だと思います。それは、水着ゾーンを触られるのがだめだ、ということを伝える、性教育と一緒だと思います。
――「ノー」と言える力を身につけるための教育が大切なんですね。子どもも母親とのデートがイヤなら「ノー」と言えばよかったということですね。
牧野さん)子供がそれを言うのは難しいことだとは思います。でも、親は、子どもが「ノー」と言える環境を作りらないといけないと思います。親が、子どもに、選択肢を持たせないということがないように気を付けたいですよね。イヤなことをイヤと言える力は必要です。子どもにとって将来、親と離れて自分で責任を持って生きていかなければならない中で、「イヤ」と言える力を磨くことでしか自分を守れないと感じています。
――一方で、子どもは親に言われたら、素直に従ってしまうところもあると思います。やはり親子には力関係に差が出てきてしまうかもしれません。
牧野さん)日本は、子どもの権利について、もっと 議論されるべきだと思います。欧米では、感情の言語化が大事だとされて、子どもの権利を授業で教えたり、演劇を通して感情を伝える練習をしたりしています。
親子の間でも、色んな話題 をもっと話すべきだと思います。日本では、親子間で話してはいけないと思われていること、タブー視されていることが多すぎる気がします。 これは、受け継がれてきた日本の家族の形の影響もあると思います。私は、両親がけんかしたところを全然見たことがありませんでした。
――牧野さんご自身は家庭でお子さんにどんな働きかけをしているのでしょうか。
牧野さん)例えば、「でも、僕はこう思う」と言われて、時間があれば「OK。やってみれば」と言います。もちろん、意見を尊重するときと、難しいときはありますよ。時間が無いときは「何言ってるの?靴はきなよ。時間ないじゃん」と言う時だってある。そんな時に「ママはこうだから靴はいてほしいんだけどどう思う?」なんて言えないです。
先日、娘が校内大会でバレーの選手になり、チームでどうやったらうまくやれるか、相談されました。「あなたならどう思う?」と子どもの意見を聞いた上で、「ママはこう思うよ」「他の人たちに意見聞いてみた?」と、やりとりをしました。
うちは、子どもが3人いますが、大切なポイントではきちんと話しています。3人いるとどうしても話を一度に聞くのは無理です。でも、「ここは大切」と思ったら向き合って一対一の時間をあえて作って深掘りするようにしています。
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